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その日、美亜ちゃんからラインが来ていたものの、帰って飯食って風呂入ったあとすぐに爆睡してしまい、未読無視のままだった。

翌朝、起きてからラインに気付き、ラインに気付かなかったことの謝罪と、あとなんかよろしく、とかを適当に返信して、朝飯を食ってダッシュで朝練に向かった。


学校で会えば声をかけられる知人程度の仲にはなったが、ただそれだけ。


俺と美亜ちゃんの間に進展なんてものは当然無く、俺は朝練、文化祭練習、放課後の部活に励み、いよいよ文化祭当日を迎えた。

1日目は体育館のみで行われる舞台発表で、2日目に校舎を使って文化部が作品を展示したり、2、3年生の出し物が教室で行われたりする。

つまり今日は、俺たちのクラスのダンス本番の日。

部活は完全にオフで、白シャツに黒スラックスを穿いて、いつもより少しだけ遅めに登校した。


朝、クラスメイトたちが集合すると皆、緊張で少しそわそわしている。練習を頑張った分、当日の気合も十分だ。

教室で衣装を準備して体育館へ行くと、そこにはさまざまな服を着た生徒たちが、賑やかに文化祭の開始時間を待っている。

俺と真桜の色違いのベストは本番ギリギリに着ることにして、無くさないようにリボンだけ着けて体育館へ行くと、「高野くんリボン可愛い」とイケメンモテ男がリボン一つですでに注目されている。


「高野くんリボン可愛いだってよ。」


思わず真桜ににやにやと笑いながら言った俺は、真顔の真桜に「柚瑠の方が可愛い。」というあり得ない返しをされてしまった。

少しからかってやるつもりで言ったのに、逆にからかわれ返された気持ちになってしまった上に、ガチトーンだからタチが悪い。


無反応でパッと真桜から目を逸らし、クラスの列に並んで座ると、真桜もその俺の隣に腰を下ろした。

前方に敷き詰められたマットの上に1年が座らされ、後方に並べられたパイプ椅子に2、3年が座っている。

1年の観客スペースが随分お粗末だが、去年先輩たちも通ってきた道なのだろう。


ざわざわと騒がしい中で、開始時刻が来ると体育館内が暗くなり、パッと舞台にライトが照らされた。


学校長や生徒会長、文化祭実行委員長が順に前に出て挨拶をしていく。その後、ブラスバンド部の演奏で華やかに文化祭が始まり、チア部やダンス部がその後に続いた。


チア部には可愛い子でも居るのか、後方の2、3年が座る席の方から「◯◯ちゃん可愛い〜!」という雄叫びが聞こえてきて面白かった。


初めての高校の文化祭でどんな雰囲気なのか分からなかったが、ノリが良い生徒が多いから盛り上がりもすでにそれなりのものだ。

この雰囲気の中で俺たち1年も発表しなければいけないのかと思うとちょっと緊張してしまいそうだが、潔く、ミスを恐れず、堂々と踊った方が評価してもらえそうな気がする。


部活動の発表がある程度終了したあと、「それでは次は1年1組の発表です。」と司会者の声が聞こえてきて、いよいよ1年の発表の時間が来てしまったようだ。

俺たちは4組だからわりと後の方だけど、さっさと終わらせてゆっくり他のクラスの発表を見たい気もする。


1組は演劇を選択したようで、静かに劇が始まった。


シーンと静まりかえっていた体育館内で、微かに聞こえてくる生徒の台詞を話す声。

少し恥じらいがあるような演技に、見ていてまったく内容が入って来なかった。このあと自分も舞台に立たないといけないから、落ち着かなくて余計に頭に入ってこなかったのかも。


数十分で1組の演劇は幕を閉じ、次に2組の出し物が始まった。

アイドルグループの曲のダンスを踊るらしく、舞台上には女装をした男子数人と、普通に可愛らしく着飾った女子がわらわらと女装男子を取り巻いた。


どうやら笑いを取りに来ているらしい。
少し盛り下がってしまっていた雰囲気の中、2組が発表を始めると笑い声が飛び交った。


ダンスという面で変に対抗意識を燃やしてしまう上に、盛り上がられるのは少し悔しい。

しかしそれは俺だけじゃなかったようで、隣に座っていたクラスメイトたちが、グッとファイティングポーズをしながら「がんばろう」と口パクで言ってきた。


俺も真桜も揃ってうんうん、と頷き、すでにやる気満々のクラスメイトたちを見て、俺もがんばろうと思った。


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