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1年生の舞台発表がすべて終了すると、一旦昼休みとなった。発表後衣装を着たままだった真桜は、いろんな人に「かっこよかった」と話しかけられたり、写真を撮ろうと声をかけられている。


こういう場面に出会してしまうと、当初のまったくの無縁だった頃を思い出す。

真桜と話すようになったきっかけはなんだったっけ。

真桜が俺のことを好きにならなかったら、今もまだ無縁なままだったんだろうな、って思う。


真桜がいろんな人から話しかけられているのを少し離れたところで待っていると、「柚瑠くん!ダンスすごいかっこよかったよ!!」と美亜ちゃんが話しかけてくれた。


「あー、ありがとう。ちゃんと踊れて良かった。」


まだこの子とは知り合ったばかりで、顔にはぎこちない笑みが浮かぶ。

一言二言会話を交わしていたところで、横に居た美亜ちゃんの友人が「あ!美亜写真撮ってもらいなよ!」と言い出した。


「えっ!?あっ…うん、あの、柚瑠くん、写真撮ってもらっていいかな…?」

「あー…いいけど。」


まさか『嫌です。』なんて言えるはずもなく。

頷くと美亜ちゃんがススス、と俺の隣に並んだ。

身長差があったため、少し頭を横に傾けてピースサインを作ると、美亜ちゃんの友人がカシャ、とスマホで写真を撮る。


「わあ!ありがとう!あとでラインで送るね!」

「あ、うん、サンキュー。」


…と、美亜ちゃんにお礼を言っていたところで、背後からグイッと手首を掴まれ、引っ張られた。


「うわっ、」


誰かと思い振り返れば、いつのまにかいろんな人との会話を終わらせたらしい真桜だ。


「柚瑠、飯食いに行こ。」


真桜はそう言って俺の手をグイッと引っ張った。


「あー、うん。そうだな。じゃあな美亜ちゃん。」

「うん!柚瑠くん写真ありがとね!」


満面の笑みを浮かべてスマホを持った手をふるふると振ってくる美亜ちゃんに、軽く手を振り返しながら背を向けた。


今日は弁当を持ってきていなかったため、食堂で食おうかと中を覗いてみたものの、文化祭の日の食堂はいつも以上に人でごった返している。


「どうする?コンビニでも行く?」

「うん、そうしよっか。」


真桜と相談し、財布を持って高校の近くのコンビニへ。あれこれ昼飯を購入し、休み時間が終わらないようにさっさと学校に戻ってきた。

いちいち教室に行くのもめんどくさくて、中庭にあるベンチが運良く空いていたからそこで食べることにする。


健弘が演じるロミオがおもしろかった話や、俺らのクラスも割と良い感じだったと自画自賛したり、そんな話をしながらサンドイッチとおにぎりを2個買ったもののペロリと食べ終えてしまった。


お茶を飲んで口直ししていると、「なあ柚瑠…、」と隣に座った真桜が、横目でチラリと俺の方を見ながら何故か控えめに話しかけてくる。


「ん?」


ペットボトルの飲み口に口をつけたまま真桜の方を見ると、真桜は両手で持っていたスマホの画面を無意味に親指でいじりながら、目線をスマホの方に向ける。


「ん???」


呼びかけたくせに何も言わない真桜にもう一度先を促すと、真桜はスマホを見たまま一人で呟くように口を開いた。


「俺も柚瑠と写真撮りたいなー。」


ああ、そんなことか。という感想を抱き、思わず笑ってしまった。別に躊躇って言うことではないのに。

そんな言葉一言言うだけでどんだけ時間かかってんだ。って、いじいじとスマホを持っていた真桜の手から、俺はスマホを奪い取った。


真桜の肩にぶつかるくらい真桜にくっついて、スマホの内カメラで自分たちの顔が写るように手を伸ばす。


「はい、笑ってー。」


俺の声に、真桜の口元がニッと上がった瞬間に、俺もニッと笑い、カシャッと1枚写真を撮った。


「ふふ、…内カメラだとどうしても写りが微妙だな。あとで誰かに撮ってもらおうぜ。」


真桜と比べたら勿論イケてなさすぎる自分の顔面に笑いながら真桜にスマホを返すが、真桜は口元を緩ませたまま俺たちの写真を眺めている。


無言なのに真桜から確かに感じる『嬉しい』という感情に、俺は照れ臭い気持ちや、満更でもない気持ちが入り混じっていた。


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