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時は、高校に入学して2週間ほど経った頃だ。

寮生活にはだいぶ慣れ、少しずつ友達も増えてきた。

拓真は部活動を始めたと言うので、亮太と寮へ帰ろうと教室を出た時だった。


「日高くん、ちょっといいかな?」


見知らぬ顔の生徒が俺に話しかけてきた。おそらく同じクラスでもない。


「あ、うん。」


なんだろうと思いつつ返事を返す。


「じゃあ俺下駄箱で待ってるから。」と先に行ってしまった亮太の背中を見送り、俺は近くの空き教室へと招かれた。

シーンと静かな空気に居た堪れない。


「何の用「日高くん、」…はい?」


何の用かと聞こうとすると、名前を呼ばれ、言葉が途切れる。


「一目見た時から好きです。……付き合ってください。」


何を言われたのかと思えば、これはいわゆる“告白”だろうか。目の前の生徒はまっすぐ俺の目を見てそう言った。


「…え…、あ…えっと………ごめん。」


思いっきり動揺してしまい、気のきいた返事ができなかった。

“好き”とは、…“付き合う”とは、相手は恋愛感情での意味で言っているのだろう。赤く染まった頬を見れば、一目瞭然だった。

こういう事は初めてではない。

中学の頃、数回女子に呼び出され、告白された事がある。いずれにせよ、呼び出されたのは女子だった。

しかし今、自分に告白してきたのは、正真正銘の男子だ。…初めて男子に告白されてしまった。

これが動揺せずにいられるか…?

しかも相手は名前も知らない、見たこともない男子だ。

告白の返事を断るのは、申し訳ないと思う。

せっかく“好きだ”と気持ちを伝えてくれているのに。

しかし、こればっかりは本当に仕方ない。

俺からしたら、「好きだ」と言われる前にまずは名前を名乗ってほしいものだ。

今さら「誰ですか」と聞けるはずもなく、「時間取らせてごめん」と謝る彼に軽く返事をし、教室を出た。


少し早歩きで、亮太の待つ下駄箱に向かった。


「わりぃ亮太、待たせた。」


下駄箱にもたれて携帯を弄っていた亮太に、ローファーに履き替えながら謝る。


「いいよ別に。あんま待ってねぇし。フってきたんだろ?」

「おう。…って、え?」


何故わかる…俺が告白されてしかもフってきたと…、何故わかるんだ…!

恐るべし亮太…と両目を見開きながら驚く俺。


「いやあれは普通にわかんだろ、告白って。…優かっこいいんだし。」


携帯をポケットにしまいながらボソッと話す亮太。


「え、何?亮太って俺の事かっこいいって思ってくれてんの?」


聞けば亮太の顔が、どんどん赤くなっていった。この亮太の反応が、俺は好きだ。


「何だよ思ってるよつーかみんな思ってんだよ!だから自覚しろっつってんじゃねぇかよ!!優はどこか抜けてんだよ!!もうまじで自覚しろよな!!」


説教をされてしまった。赤い顔をした亮太に。自覚しろと言われましても…自分は抜けている、って?自分はかっこいい、って自覚するのか?


俺からすれば、亮太の方がよっぽどかっこいいぞ。ズバズバと毒舌ではあるが、自分の意志で発言し、行動する。簡単にはできない事だと思う。


「あっ!亮太待てよ!」


先を歩く亮太を、呼びながら俺は追いかけた。


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