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『ピリリリリリリリ…ピリリリリリリリ……』

けたたましい音が鳴り響いた。


「…んんっ…。」


どうやらもう朝らしい。昨日の夜に設定した俺の携帯のアラームが鳴り響いた。


「ふぁ〜あ。もう朝?まだねみぃ。」


アラームの音で目覚めた亮太が、大きな欠伸をしながら伸びをしている。

アラームを設定した時刻は7時。授業が始まるまで、あと1時間半だ。十分な時間だろう。


「おはよ、亮太。ぐずぐずしてると朝飯おいてくからな。」


そう言うと亮太は、シャキッと立ち上がり布団を畳み出した。


「つーか優って、よく寝るくせに寝起きいいよな。」

「あ〜、まぁ確かに。あ、拓真おはよう。」


亮太に返事を返しつつ、洗面所に向かえば既に拓真が準備を終えてくつろいでいた。


「優おはよ〜。あ!朝ご飯どうする?食堂行くよね?」

「おう、行く行く。食堂で飯食って、そのまま学校行こうって思ってんだけど。その方が楽だし。」

「オッケー!じゃあ僕もそうする!」


俺達はそんなやり取りをしながら、学校に行く準備をし、食堂が混む前に行こうと、少し早めに3人で食堂へ向った。


朝の食堂のメニューは、ご飯、食パン、味噌汁、ヨーグルトなどの軽いバイキングのようなものだ。

味噌汁とご飯を何杯もおかわりしている亮太に比べ、拓真はチビチビと食パンを食べている。

俺はと言えば、食パンと味噌汁とヨーグルトという、意味不明な組み合わせで朝食を終えた。


「何ソレ、和食?洋食?意味わかんねー!」と笑う亮太に、俺の必殺でこピンを食らわした。


「亮太大丈夫?おでこ赤いよ?」


登校中、片手でおでこを擦る亮太に、拓真がクスクスと笑いながら声をかけている。


「糞いてぇ。優まじ覚えてろよ!」


キッと俺を睨みつける亮太。


「俺物覚え悪ぃんだよね。」

「くわぁ〜〜ッ!!うぜ!!」


おもしろいなあ、亮太の反応見るの。


寮と学校の距離が近い上に、亮太を弄りまくって楽しんだため、すぐに学校に到着した。学校にすぐ行けるの最高だな。


教室には数人の生徒がすでに席に着いており、本を読んだり携帯をいじっていたりしていた。まだ学校生活2日目なだけあって、教室はシーンと静かだ。


「うわ〜、すげえ静か。」


そう言いながら教室に入っていく亮太の声が、やけに目立つ。

席に着き、さっそく俺は腕を枕に机に俯せになって眠る体勢になった。


「えぇ!?優、寝んのかよっ!」


前の席から、俺の腕を揺さぶり、居眠りを妨害する亮太。


「寝るよ。だって眠いもん、先生来たら起こして。」


一度顔を上げ亮太にそう告げてから、もう一度寝る体勢に入った。


「今寝るんなら、早起きすんなよ!!」とぶつぶつ文句を言う亮太を無視する。

ていうより、7時に起きることが早起きになるのか?とふと疑問に思った。俺は標準だと思うんだけど。


しばらくすると、辺りがガヤガヤ騒がしくて目が覚めた。

亮太の反発するような声が聞こえる。

顔を上げれば、亮太と野田が向き合ってなにやら言い合っている光景が視界に入った。


「あ〜!!優ちゃんおはぁ!今日もイケメンね!」


言い終わり、バチンとウインクしてきた野田に、ゾクッとした。


「だからお前きめーんだよ!優に話しかけんな!つーか後ろ向いてくんな!髪の毛引きちぎんぞ!」


いつもの口の悪さで野田に攻め立てる亮太に、野田は1ミリたりとも笑顔を崩さずヘラヘラしている。

メンタルが強いのか…はたまた気にしちゃいないのか…。

野田 知樹という男はなかなか厄介な男だ。と、そんな2人のやり取りを唖然としながら眺める。


「知樹と亮太、すっごく目立ってるね!みんな2人の事見てるよ。」


後ろから俺に話し掛けてきた拓真の言葉に、ふと周りを見渡すと、その言葉通り教室にいる生徒のほとんどが何事かと2人に視線を向けていた。


「そりゃあんなでけー声で暴言吐いてたら目立つよな。それに野田も見た目からして目立ってるし………ってか拓真、アイツの事知樹って呼んでたよなぁ?拓真、野田と仲良いのか?」

「仲良いっていうか、中学からずっと同じクラスだから、普通に喋る仲かな?」

「へぇ、そうなんだ。」


中学から野田と関わっているなんて、凄いな。と妙に感心してしまった。

俺はどうもあのチャラチャラした性格が苦手なようだ。まず優ちゃんと呼ぶのやめてほしいな。

そして、人を見るなりイケメンと言うのもやめてほしい。俺は実際、そんなにイケてる人間でもないのに。馬鹿にされてるみたいでなんだか屈辱的だ。

そんなことを考えていた時だった。


「まじしつけーなお前!!俺の名を呼ぶんじゃねぇ!!」


亮太の今までで一番の怒号が、教室中に響き渡った。


「あはははっ!まじ畑野っち毒舌ぅ〜!いいね、そのキャラ!」


亮太の態度も気にせず、尚も喋り続ける野田は、本当に質が悪い。


「おい優っ!!知らんふりしてねぇで助けろよ!!」


若干他人事で考えていたら、亮太がすがりつく勢いで俺の両肩を掴んで揺すりだした。


「助けろったってなぁ……俺もこの人苦手なんだよなぁ…。」


なに言っても野田には敵いそうに無い気がする。


「えぇーッ!!優ちゃん俺の事苦手なの!?俺ちょーショック!!」


頭を抱えて叫ぶ野田だが、その声はショック受けてるようにはとても思えない。

奴のこのテンション、どうにかならないのだろうかと思ったところで、富田先生が教室に入ってきた。どうやら予鈴のチャイムは既に鳴っていたようだ。

このままホームルームが始まれば、嫌でもこの男、野田は、おとなしくなるだろう……と思ったが、そうはいかなかった。


高校入学2日目の今日は、ホームルーム、クラス写真撮影、教科書の受け取りなどで終わる。授業が始まるのは明日からだ。


「今日のホームルームでは自己紹介と複数のプリント記入と、4月の下旬に行われる遠足の班決めと委員決めをやるからなー。」


ホームルームが始まり、富田先生が本日の内容を話し始めた。


「じゃあ名簿順に前出てきて、名前と出身中学と一言な。」


自己紹介の説明を終えると、あ行のやつから順番に、自己紹介を終えていく。


「じゃあ次、野田。おい野田、携帯いじってんじゃねぇぞー、見えてっから。」


先生に注意されながらもヘラヘラ笑いながら前に出る野田。

「恥ずかし〜」と、奴は微塵にも思っていないだろう事を頭をかきながらほざく。


「えっとぉ。西ノ森中学出身の野田 知樹でっす。頭はわりと良い方っす。日高 優ちゃんみたいなのがちょ〜好みっす。あと畑野っちも好きかな!あー、はい。かっこいい男の子大好き!彼氏募集中!よろしくね〜ん。」


…な、何言ってんだこいつ、真面目に引いたぞ。


そして何故かものすごく、教室の雰囲気が和やかになっているではないか。クラスメイトは皆野田のおちゃらけた態度に笑っている。笑えないのはたった2名。俺と亮太だ。


「おいお前!!喧嘩うってんのか!?」


順番からして野田の次に回ってきた亮太が、前に出て野田に掴みかかった。


「畑野 亮太。南山中学出身。俺、こいつ大っ嫌いなんで!まじ不登校なれや!!」


ドンと野田を突き飛ばして、ものすごく眉間に皺を寄せて腹立たしそうに席に戻ってきた亮太。

「畑野っちひでー!」と未だヘラヘラ顔の野田に、周りは呆れながらも笑っている。


「あ、次俺だ。」


嫌だな、こういう雰囲気の中自己紹介すんのって。仕方なしに、俺は渋々前に出た。


「日高優です。北山中学でした、よろしく。」


必要最小限の事を話し、素早く席に戻り、次の拓真まで回った。俺は人前で発言するのはあまり得意ではないのだ。

確実に言えるのは、俺がクラスの雰囲気を盛り下げてしまったという事だ。

俺が話だした時、確かに教室がシーンと静まり返った。残念ながら俺は、野田のように馬鹿みたいな事を人前では話さねえ。


まだ自己紹介は終わってはいないが、なんだかかったるくなり、俺は顔を伏せた。


「優!おい!!ゆーうー!!!」


亮太に体を揺さぶりながら起こされて、浅い眠りだったため、すぐに目覚めた。


「…ん?なんだ、自己紹介終わったのか?」


周りを見渡せば、皆席から立ち上がり仲の良い者同士で雑談に励んでいるように思える。


「さっき終わったんだって!!今遠足の班決め!1班6人で決めろだって。優、俺と拓真と一緒で良いだろ?」


「後3人は適当に誰か誘おう」と、周りをキョロキョロ見渡し、誰を誘おうか考えているらしい亮太。


「畑野っち!優ちゃん!一緒の班なろうゼ!」


ちぃーっす。とでも言いたげなポーズをつけて目の前に立つ野田。


「は?嫌に決まってんだろ。」


現われた野田をウザそうに、且睨み付けながら断る亮太に、「ですよね〜」と野田は意外にもあっさり引き返していった。苦笑いの俺と、クスクス笑う拓真。そして、「あんな奴と同じ班とか、まじ俺遠足行かねーし。」と毒を吐く亮太。


「日高くんと畑野くん!俺らと一緒の班になんねぇ?」


亮太の愚痴を軽く流しつつ聞いていれば、俺と亮太の席の周りに今度は4人の生徒がやってきた。


「えっ…と、4人は無理だな。俺ら今、亮太と拓真と俺の3人だし。」


せっかく誘ってくれたのに申し訳ないが、渋々誘いを断った。

すると、4人のうちの1人がとんでもない事を言い出した。


「え?まじ?じゃあ日野、外れてくんない?」


拓真をあしらう態度で、そいつは拓真にそう言った。4人共、冷めた目で拓真を見ていた。

俺はといえば、唖然として何も言えなかった。

コイツに、遠慮という文字は無いのかと。

何故、自分達の好き勝手で、拓真が外されなくてはならないのかと、柄にもなくそいつを睨み付けてしまった。


「は?お前なに言ってんだよ。勝手に拓真外されちゃ困るんだけど。おい野田!お前の班、今何人揃ってんだ?」


4人に対しての態度に刺がある亮太がふと、近くにいた野田に話しかけた。


「ん?なぁに畑野っち!俺と同じ班になってくれんの?今俺と、俺のマブダチの2人だべ。」

「てことは3人だな。はい6人揃ったー班結成ー。てことで、お前らどっかいけよ。」


シッシッと亮太は、4人を追い払った。代わりに、野田と野田のマブダチ2人とやらがやってきた。


「あいつら何様?拓真、気にすんなよ。」


と、いつもながらの毒舌で、悪態つきながら拓真を慰める亮太。


「……2人とも、ごめんね…。」


拓真が俯きながら、小さな声で謝る。ギュッと掌を握り締め、その手は微かに震えていた。


「謝んなよ。俺ら迷惑なんて思ってねぇんだから。」


俺は、頷く拓真の髪を撫で、拓真を慰める。暗い表情の拓真を見て、先程の4人を恨めしく思った。


「優ちゃん、畑野っち!んもー、いつまで無視すんだよー。」


気の抜けた声が聞こえ、そこでふと気付いた。野田とマブダチの存在に。



「あ、ごめん野田。じゃあ同じ班って事でよろしく。…えーと、そちらのマブダチさんも。」


名前を知らない、野田のマブダチに目をやる。そこでふと気付いた。確かこの2人は、入学式の日教室に入ってきた俺に声をかけた3人組のうちの2人だ。


「うん、よろしくぅー!やった〜優ちゃんと同じ班〜!」


ちゃっかり俺の両手を取り、両手で握手する野田。


「ラッキー、日高と同じ班。」

「まじ知樹ナイス!」

「ちょと待てちょと待て!俺達とお前達は確かに同じ班になった。…が!まったくの別行動をさせてもらうぞ!!形だけの班だ!」


俺と同様によろしくの挨拶をしている拓真と野田とマブダチとの会話を割って入る亮太。

おいおい、それでいいのかと突っ込みたくなったが、亮太に言っても聞かないだろう。


「え〜。んな事言わずにさぁ!ねぇ?優ちゃん、拓真。」


ごねる野田に話しをふられる俺と拓真。マブダチも一緒になってごねている。


「ていうか、遠足ってそもそも何するわけ?どこ行くんだ?」


今更だが気になって問いかけると、やや呆れ気味な拓真から返事が返ってきた。


「もう。優、寝てたから聞いてないんでしょ!えっとね、山登って、下りて来てからバーベキューするんだよ!」


どうやら俺が聞き逃していただけらしい。呆れながらも、丁寧に説明してくれる拓真。


「そうそう!バーベキュー!畑野っち、無理じゃん?バーベキューで別行動はさぁ!班で材料用意するんだよ?」


最もらしい事を野田に言われ、うっ…と黙り込む亮太。


「…じゃあ、バーベキューはしょーがねぇ。我慢してやるよ。けど!山登りは別だからな!!」


悔しそうに野田を睨みながら話す亮太。「ちきしょー!!!」と本当に悔しそうだ。
しかし亮太。お前から野田を誘ったんだ。これだけは仕方ないぞ。と密かに思うが口には出さない。

こうして、4月下旬に行われる遠足の班が決まり、俺たちは、亮太、拓真、野田、マブダチ2人の、このメンバーで、遠足に向けての予定を立てるのであった。


その日ホームルームが終了し、クラス写真を撮影してから教科書を受け取り、帰宅する中、亮太はずっと不機嫌だった。

おそらくクラス写真には、不機嫌顔の亮太が映っているはずだ。

少し。…いや、かなり。空気が重かった。


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