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「俺朝は低血圧なんだって!寝惚けんの!だから叩き起こしてくれねえとダメじゃん!!」

「あーやっぱりアレ寝ぼけてたのか。すまん。」

「まぁ遅刻してしまったからにはしょうがねえ、もう急ぐ必要もねえだろ。」

「あー、うん。そうだな。」


時刻は9時過ぎ。
俺達、文化祭準備不参加決定。

つーか俺が居ても居なくても何も変わりやしねぇんだけどな。


俺達は学校に行く仕度をして部屋を出てから、寝坊したにも関わらずガランガランに空いた寮内の食堂でちゃっかり朝食を食べた。

そして、学校に着いた頃には、既に文化祭は始まっていた。



「仲直りしたと思ってたら2人でイチャイチャ登校か。しかも堂々と遅刻して…。」

「「…は…?」」


文化祭真っ只中の教室に入るなり委員長にそう言われ、俺と亮太の目は点である。


「…イチャイチャってなに…。」

「委員長目ぇおかしくなったんじゃねえの?」

「あ、そっか。とうとう委員長まで変態に…」

「そうそう。委員長御愁傷様。」

「御愁傷様。」


亮太の後に続いて、委員長の前で両手を合わせた。


「悪かったよ!ちょっと冗談言っただけなのに!なんだその哀れなものを見るような視線は!!」

「我がクラスを代表する委員長がとうとう頭イカれたと思ったら、な。」

「な。」

「『な。』ってなに2人で示し合わせてんだよ、俺頭イカれてないから…。てか2人とも早く着替えて。お客さんさっきから『2人はどうしたんだ!』ってうるさいんだよ!」


委員長はやれやれ。とため息を吐きそう言った。


「どうしたって言われてもなぁ。優が寝坊したから仕方ねえじゃん。」

「違うだろ、亮太が寝惚けたからだろ?」

「どっちでもいいから早く着替えに行ってくれ!!!」

「「はーい。」」

「うん良いお返事!!!」

「あ!優ちゃん畑野っちやっと来た〜!もう、知樹くんちょー心配したんだからぁ。」


相変わらずのテンションで現れた野田に、亮太が冷たい視線を向ける。


「お前は暑苦しいから近寄んな!」

「それは無理なお願いだな〜。あ、そうそう俺、畑野っちに頼みがあんの!」

「断る。」

「断ってももう遅いんだけどね。優ちゃんと同じ法被、俺が勝手にもう一着頼んじゃったんだよねぇ!だからハイ、コレ。畑野っちの今日の衣裳ね!あ、優ちゃんのは準備室にあるから!」


亮太に法被を渡した野田は、『シャツはちゃんと脱いで来てねん』とやたらキモい笑顔を向けて立ち去った。


「な、なんだあいつ!!!俺に許可無く勝手なことしやがって…!」

「あれ、そっちに怒ってんの?」


『こんなもん着るか!』とかそういうのじゃなくて?


「当たり前だろ!あいつにしてやられたかと思うとまじむかつく…!」

「あぁ…なるほどな。」


要は自分の支配下にある野田に命令されたかと思うと悔しいわけね。


「まぁいいじゃん。亮太だって俺に、野田と同じようなことしてんじゃん。」

「俺はいいんだよ。優に頼んだんだから。でも野田はだめ。」

「あ〜はいはい、そうねそうね。」

「おい、自分から言っといて話流してんなよ。」

「うん、ごめんごめん。まぁ、いいじゃん、法被。お揃お揃。」

「…別にいいけど。」

「あ、いいんだ。」


てっきり『お揃とか言うな!』とか言って怒鳴られるかと思った。





「なあ亮太、なんでそんなに俺と離れて歩くわけ?」


その距離およそ3メートル。

法被に着替えてクラスの宣伝のため校内を回っていた俺達だが、亮太は何故か俺から少し離れて歩くから、どうしたものかと問いかけた。


「え?いや、なんか俺のプライドが傷つきそうだから。」

「はあ?どういう意味だ。」

「優には一生わかんねぇよ。言うならば月とすっぽんだよ。」


続けて亮太は「あっちぃな〜。」と呟きながら、パタパタとうちわで扇いでいる。なんなんだ、月とすっぽんって。


「てかこの法被結構目立つよな。いろんな人にジロジロ見られてるし。あれ?俺の気のせい?」

「いや、言わせてもらうけどな、法被が目立ってんじゃねぇよ?優が目立ってんだよ。」

「え?」


法被が目立ってるんじゃなくて、

俺が目立ってる?


「…ってことはイコール法被が目立ってるっていうことに「なりませんから。」……じゃあ、俺が目立ってるんじゃなくて亮太が目立ってるんじゃ「違うから」……何故…。」


俺、法被の着方間違えてる?
なんかおかしいとこでもある?

うーん、わかんねぇ。

唸りながら考えていると、亮太が呆れたように口を開いた。


「優の露出、無駄に色気出すぎ。腹筋割れてるし。」

「…は?」


………色気?ってなんだ。そして俺が腹筋割れてることが、なんでそんなに不思議そうなんだ。つーかそこまで割れてないし。並だし。


「俺なんか、人より多く筋トレやらねぇとムキムキになれねぇんだからな!」

「え、亮太ムキムキになりたいんだ。」

「あたりまえだろ!男はムキムキの方がかっこいい!」

「…そうか?」


亮太はマッチョになりたいらしい。
もう既に男らしくて凶暴な亮太がマッチョになってしまったらって思うと、俺はちょっと怖くてたまらないけどな。


「つーかあそこにいる男、優の事ガン見してんぞ。知り合いか?」

「ん?」


そう言われて亮太の視線の先をたどってみた。

……確かにガン見されている。

でも、誰?俺の知り合いではないのは確かだ。

「あれ、なんかこっち向かってきたし。しかもすっげー笑顔。優の友達なんじゃねえの?」

「いや、俺あんな男知らねえよ?」

「まじ?じゃあ誰?」

「さあ。」


そんな会話が続く中、噂の男は俺達の目の前までやってきた。しかも亮太の言う通り、すごい笑顔で。


「優だよな!久しぶり!!」


ん?……………今、何と?


「あれ?もしかしてわかってない?」

「………どちらさん?」

「うわっ!優ひどっ!!」


目の前の男はどうやら俺の事を知っているらしい。ハテナマークを飛び散らす俺に、相手は落ち込み始めた。


「…なあ亮太、……この人誰?」

「俺が知るかぼけ!!!」

「はぁ、まあ無理もねぇか。前に会ったの小3の時くらいだしなぁ…。でも普通、幼馴染みの事忘れるかぁ!?」

「お…、」


幼馴染み!?!?


「うわ、優幼馴染みの顔忘れてたんだ。最低だな。」


吐き捨てるように言う亮太だが、今俺はそれどころではない。


幼馴染み、と言えば思いつく人間は1人。近所に住んでた鼻たれ小僧の蓮(れん)くんだ。


「…でも蓮くんは俺よりもっとチビだったしなあ。」


思い出してしみじみと呟く。

目の前の男は俺と同じくらいの身長だ。しかも茶髪に染めたりして所謂お洒落さんである。この男が蓮くんなわけない。

じゃあ他に俺に幼馴染みがいただろうか?


なんて考えていると、男は声をあげて言った。


「だから俺が、その蓮なんですけど!」

「え?蓮くん?ほんとに?あの、鼻たれ小僧の蓮くん?」

「…鼻たれ小僧は余計だけど…。俺変わっただろ?」

「うん。なんか蓮くんかっこよくなったな。」

「…うわ!やばい嬉しい!俺、優みたいになりたくて、いっぱい努力したんだ!」

「俺みたいになりたくて?」


…おいおい、鼻たれ小僧だった蓮くんが俺を目指すと、もっと悪化しそうな気がするんだけど。

なんでこんなにお洒落さんになってんだ。


「まさかの憧れのあの人に会いに来たってパターンじゃねえの?これ。」


俺の横でボソリと呟いた亮太に、蓮くんは大きく頷いた。


「そう!それなんだよ!俺来月この学校に編入することになったんだ!」

「え、うそ。」

「まじかよ。」


まさかの編入発言に、俺も亮太もびっくりだ。なんでまたこんな時期に編入?しかもこの学校に…。

俺がそんなことを疑問に思っていると、蓮くんはちょうどそのことについて話し始めた。


「親父の仕事の都合で俺また引っ越すことになったんだ。で、優が寮制の学校に居るって聞いたからそれなら俺も寮に入った方が都合良いなって!」


そう話しながら蓮くんは、嬉しそうにはにかんだ。


「…あーそっか。蓮くん小学生んときも親父さんの転勤で引っ越したんだったっけ。」

「…もしかしてそれも忘れてた?」

「うん。」


はっきり答えた俺に、また蓮くんはショックを受けたようだった。 


「でも無理もねぇか。優って昔っからいろんなことに無関心だったもんな。」

「無関心だったんじゃなくて、単にぼーっとしてただけじゃねえの?」


…おっと、なかなかの突っ込みを入れてくれるじゃねえの亮太め。


「優に限ってそんなことあるわけねぇし!」

「へぇ〜?えらい慕われてんなぁ?」


亮太が意地の悪そうな笑みを浮かべながら、俺を見た。


「…だって蓮くん、まじで鼻たれ小僧だったから。俺が居ないとすぐ女の子にいじめられんの。」

「わー!わー!わー!言わなくていいから!!」


慌てた蓮くんに、俺は蓮くんの手で口を塞がれた。


「いや蓮くんがいじめられる理由って、鼻たれ小僧だからじゃなくて、優と仲良かったからじゃねぇの?」


は?俺と仲良かったから?


「いや違うだろ。蓮くんが鼻たれ小僧だったからだろ。」

「…そうそう、俺が鼻たれ小僧だったから、…って、そろそろ鼻たれ小僧って言うのやめてくれよ!」

「あ、ごめん。」

「脱、鼻たれ小僧か。」

「お前!初対面相手に結構言ってくれるな…!」

「あ、わりぃ。」

「…まぁいいけど。てか優、もう高校生なんだから君づけはやめろよ!蓮でいいから!」

「ん?そう?じゃあ蓮はいつの間にか俺の事呼び捨てになってんな。」


昔は俺の後を優くん優くん、ってよくくっついて来てたあの蓮くんが。

今ではTシャツとジーンズというわりとラフな服装を、お洒落に着こなしているではないか。

そして目線の高さは俺と同じ。

人って変わるもんだなぁ。


「そりゃー、優に昔の俺とは違うって分かってほしいし。」

「いや、もう十分わかったけどな。」

「まだまだ!これからもっといっぱいわからせるから!だから来月、俺の編入する日を楽しみにしててくれよな!」

「おう。」

「てか優かっこよくなりすぎ!すぐに見つけられたし!あーあ、また俺、努力しなきゃいけなくなった。」


……ん?何に努力するんだ。


「じゃー優と優のお友達、またね!」


そう言って俺が何か言う前に、ピラピラと手を振って蓮くんは俺達の前を後にした。


「なあ優。あいつ優のこと好きなん?」

「いや違うけど。」


少し眉をしかめて歩き出した亮太と共に、俺達は再び校内の宣伝を再開させた。


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