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「えー、着ぐるみもう終わりー?」

「脱ぐの早ぇよ!」


俺と亮太がジーンズとTシャツで登場したことにより、観客からは非難されまくってしまった。

着ぐるみが観客にウケた事が、俺てきにはビックリだ。

舞台の上は、物凄く暑い。

自分の体が照明に照らされ、視界に映るのは俺達の歌声に盛り上がってくれている観客。

観客が盛り上がれば盛り上がるほど、俺のテンションも上がって、ますます暑くなっていく。

身体から出る汗は止められず、暑くて暑くて、でも曲が止まらない限り俺も歌うのを止められない、ていうか止めない。

なにより俺は今、この時間を楽しんでいて、終わってほしくないと思った。

2曲目、3曲目と曲はどんどん終わっていき、ラストの4曲目はすぐにきた。

俺と亮太が練習で一番苦戦しまくった4曲目。2人の声が綺麗にハモれず、何度も何度もやり直した。

でも、これで歌うのは最後。
だから失敗はしたくない。

最初は俺がボーカルなんて、絶対無理だって思ったけど、やってみれは楽しかったし遣り甲斐があった。


アップテンポな2、3曲目に比べて、4曲目は静かめだ。
盛り上がっていた体育館内は、4曲目が流れ出した瞬間に静まった。

静まったと同時に、俺の緊張が戻った。やばい。もうすぐ歌い出しだ。ドキンドキンと心臓が高鳴る。


「優!」


少し離れた位置に立つ亮太から俺にだけ聞こえる声で名前を呼ばれる。

名前を呼ばれ振り向けば、亮太はニカッと俺に笑顔を向けてきた。

あ、なんか鼓動が落ち着いた…。
俺も亮太にニカッと笑顔を返した。

そうだった。失敗したら笑い飛ばしゃいいだけじゃん。うん、気楽に行こう。

亮太と視線を合わせたまま、俺達は歌い始めた。
別々の音程で、別々の歌詞。時々重ねる同じ歌詞。俺と亮太の呼吸を合わせて、俺達は歌った。





静かに4曲目は終り、歌い終わって「ふぅ」と息を吐き出す。これで全曲、終った。


「ありがとうございました!」


最後は4人揃ってお辞儀する。

すると、静かだった体育館内は、観客の声でいっぱいになった。

同時に送られた拍手に、俺は妙に感動してしまい、不覚にもなんだか涙が出そうになった。


「おっしゃー!!優!!やったぞ!俺らやりきった!!」

「わっっ、ちょ、亮太!」


感極まったのか、亮太が両手を広げて思いっきり俺に飛び付いた。


「おい畑野!!優に抱きつくとか反則だぞ!今すぐ離れろ!」


同時に戸谷先輩が俺達に近づいてきた。苦笑いを浮かべる俺に、亮太はそのまま俺の肩に腕を回し、満足そうに笑っている。

そんな中、観客席の人間が、俺達に向かって手拍子を始め、口を揃えて『アンコール、アンコール』と言い始めた。


「日高、畑野!!もっかい着ぐるみで!」

「俺も着ぐるみもっかい見てぇ!!」


そう叫ぶ観客に、俺達4人は顔を見合わせた。そして、4人でニヤリと笑った。


「そんじゃあアニソンいきますか!優、畑野!もっかい着ぐるみ来てこい!あ、向井!アニソン流す準備よろしく!」


戸谷先輩の指示に従って、俺と亮太はもう一度舞台裏に引っ込んだ。

「やっべ、汗だく!まさかアンコールくるとはな!まじテンション上がる!」


着ぐるみを着ながら話す亮太に、俺も頷く。まさかもう一度この着ぐるみを着るなんて。


着ぐるみを着て戸谷先輩にオッケーと合図を送ると、すぐに体育館内にはアニソンが再び流れ出した。

走って舞台に出る俺と亮太。

観客達は盛り上がり、俺達はみんなで歌った。


最高の形で、文化祭1日目は幕を閉じた。


「んじゃ!俺らの成功を祝って!かんぱーい!」

「かんぱーい!って、なんか地味じゃね?」


文化祭1日目が終わって俺と亮太は、体育館の近くにある自販機で缶ジュースを買って、地べたに座り込み、2人で地味に乾杯した。


「じゃあ派手に乾杯する?かんぱーい!!!!」

「言い直さなくていいから!声でけえよ!あそこにいる生徒もろにこっち見てんだろーが!!」

「っぷはぁ。疲れたあとのコーラ最高。」

「一気のみは身体に良くねえぞ。」

「酒じゃねえし。コーラだし。」


早くもコーラを飲み干して空き缶を潰しに入る亮太。俺はちびちびとオレンジジュースを飲む。

なんか疲れて眠くて、目がトロンてしてきた。俺今なら5秒で寝られる。

今日が文化祭1日目だから、あと2日間あるんだよな。てか2、3日目が文化祭のメインなんだよな。なんかもう俺、これで文化祭終わってくれて構わない感じ。まじ疲れた。


「って優!!こんなところで寝るなよ!目を開け目を!!」


すうっと俺の瞼が落ちていったその瞬間を捉えた亮太が、勢い良く俺の肩を揺さぶった。


「ダメだ、眠くなってきた。」

「じゃあ部屋戻る前にちょっと早いけど食堂で夕飯食ってから帰るか。さっさとオレンジジュース飲めよ。こぼすぞ。」

「もーいらね。亮太あげる。」


残りのオレンジジュースを亮太に押し付けて立ち上がり、腕をうーんと上に伸ばした。


「優ってまじでマヌケだな。イケメンのくせしてイケメンらしくねえぞ。」

「…なんだそりゃ。イケメンじゃねぇからイケメンらしくしねぇんだよ。」

「あーうん、そうだな。優だもんな。」

「意味わかんね。」

「明日はみんな優にメロメロだな〜。浴衣だぞ浴衣〜。」

「そんな事言って。亮太が一番俺にメロメロになってたりして〜。」

「……は…?」

「…あ、いやごめん、ジョークジョーク。固まんなよ。」


亮太の冗談を冗談で返せば、亮太が無言で固まった。しばかれるかと思い、顔と頭を覆うように手を構える。


「優冗談キツいし。しかもなに構えてんだよ。」

「いや、うん。ごめん。俺も自分で言っててキツいと思った。」


…あれ、なんで俺謝ってんの。元はと言えば亮太から言い出したんだろ、俺にも謝れ。


「てか亮太、顔赤いぞ。大丈夫か?」


顔面を覆っていた手を降ろして亮太を見れば、頬っぺたが赤くなっている。


「あ、もしかして文化祭の熱気にやられた?あれ?それとも照れてる?」

「………黙れマヌケ!!!」

「え、ちょ、マヌケマヌケって…亮太ひど。」

「お前眠てえんだろ!!黙って歩けよ!ったく!さっきから優むかつくぞ!」

「え、なんか亮太怒ってる…?」

「怒ってねえし照れてもいねえ!!」

「ぉ、おう。わかったから落ち着けよ。照れてんだよなヨシヨシ。」


ツンツンデレデレ。
…じゃなくて亮太の場合は、ツンツンツンときてからのデレだ。


「…優、明日覚えとけよ。お前に休み時間はやらねえからな!!」

「…さぁーて、さっさと食堂で飯食ってさっさと部屋帰ってさっさと風呂入ってさっさと寝よ。」

「あ、話逸らしやがったな!まじ覚えてろよ!優なんか化粧バリバリギャルに囲まれればいいんだ!」

「え、それはよくねえよ。助けろよ。」

「さぁ〜?どうかな〜。俺の気分によるな!」

「あ、なんか頭痛くなってきた。風邪かも。大事を取って明日は学校休もう。」

「喋んなマヌケ!」


亮太さっきからひどくね…?
なんかホントに明日学校休みたくなってきた。



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