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文化祭は昼休憩の時間となり、生徒のほとんどが食堂に足を運んでいた。
俺と亮太もまたその1人で、食堂を見渡せばたくさんの人でいっぱいだ。
「なんか今日は一段と人が多いな。」
「はぁ…。優はほんっと、何も知らねえんだな。今日は文化祭限定メニューがあるからだろ、どうせ。」
「あ、そうなんだ?じゃあ俺今日はカレーうどんにしよっかな。」
「いやいや、カレーうどんは毎日あるだろ。てかお前まじうどん好きだな。」
「おう。うどん愛好家だ。」
「はいはい。」
亮太に軽くあしらわれながらとりあえずカレーうどんを頼み、食堂のおばちゃんから受け取る。
「うわー、席全然空いてねえな。」
「だな。外で食う?優のカレーうどんを真横にこんな暑苦しいとこで食いたくねえ。」
「…遠回しに俺の事責めてる?」
「責めてるっつーか本音?だってさー。ほら、湯気。」
「いやふーふーしなくていいから。」
カレーうどんの湯気に向かってふーふーと息を吹きかけ始めた亮太から、俺はカレーうどんを遠ざけた。
俺はちょー熱々で食べるうどんが大好きなのに。
「どこで食う?教室施錠中だろ?」
「もう階段でよくね?涼しいし。」
「うん、もうそれでいいや。」
亮太の案に頷き、俺達は人通りがまだ少ないであろう階段の踊り場に座り込み、昼食を食べる事にした。
「うんめっ!これまじうめえ!!」
文化祭限定メニューである冷麺を食べる亮太は、さっきから上機嫌だ。
ずるずると勢いよく麺を啜る亮太に比べ、はふはふと熱々のカレーうどんを食べる俺。
時たま前を通る生徒にジロジロと見られたり話しかけられたりしながらも、気にせずにずるずると麺を啜る。
そんな時、階段で視界の隠れた位置から『カシャ』と何かカメラのシャッター音のようなものが聞こえた。
「は?今何か聞こえたよな。」
「うん。…シャッター音か?」
「だよな。ぜってー逃がさねえ!!」
「あっ!ちょ、おい亮太!!!」
持っていた冷麺の器を床に置いて、亮太はシャッター音が聞こえた方に向かって猛ダッシュした。
冷麺置いてこんなところで俺を1人にすんなよ!誰か来たらどうするんだよ!
…なんて思ったのはほんの数分。しばらくしてすぐに亮太は戻ってきた。
「…見失った…。」
「そっか。おつかれ。」
「あれ、冷麺がもう無ぇ…。」
「それは自分が食ったからだろ。」
「なんかまじ腹立ってきた!!!盗撮犯許さねぇ!!!」
「…盗撮犯って…。」
ん…?ちょっと待てよ、盗撮……?
あれ、盗撮ってもしかして…。
森岡?
…ハハハ、まさかな。
ふと思い浮かんだ名前を、脳内で笑ってかき消した。
「ちょっとカレーうどん食う?」
「うん!食う!!」
不機嫌になりつつある亮太にカレーうどんを差し出せば、亮太は勢いよく頷いた。
「はい。食い過ぎたら怒るぞ。」
「うめえ!もう一口。」
「それ普通の人の3口くらいなんだけど…。まぁいいけど…。」
亮太によって大分減ったカレーうどんの残りをさらえて、完食した器を食堂に返しに行ってから、俺たちは体育館に戻った。
しばらく椅子に座って寛いでいると時間はすぐに経ち、体育館には徐々に生徒が戻ってきて、文化祭午後の部を始める時間となった。
「それではみなさん、文化祭午後からの発表が始まるので、席に座って静かにして下さい。」
戸谷先輩の指示で司会を進める亮太の声で、文化祭1日目の午後が始まった。
午後は主に、自ら舞台に出たいと名乗り出る物好きな人達が、のど自慢や芸などをしていき、時間はどんどん過ぎていく。
午前よりも午後の方が時間が短く、俺達生徒会の出し物の番はすぐにきてしまった。
「それでは次で、文化祭1日目最後のプログラムになります。俺達生徒会メンバーによる発表です。」
「準備の間、少々お待ちください。」
司会をする俺と亮太はマイクを置いて立ち上がり、既に舞台裏で準備を進める戸谷先輩と刈谷先輩に合流する。
ジーンズに4人で揃えたカラフルな色違いTシャツ、という無難な格好に着替え、その上から俺と亮太はちゃっかり用意された着ぐるみを着た。
やべえな、この格好ほんと暑すぎる。
でも本番間近なこの状況で不満を言えるはずもなく。額に伝う汗を袖で拭いながら、俺と亮太が着ぐるみを着終えると、4人で小さく円になって向き合った。
「ま、なるようになるだろ。気楽に行こうぜ。」
「日高と畑野が歌うんだから、嫌でも盛り上がるんじゃねぇ?」
「つーかまじ暑ぃよ、この格好。なぁ優?…ってお前緊張してんのか?表情固えよ!!」
亮太が俺の顔をまじまじと見ながら、びょーんと頬っぺたを引っ張った。痛いんですけど。
「んじゃ翔太、先に舞台行くか。」
「おう。2人は曲が流れてきてからすぐ登場な。」
「「はい。」」
刈谷先輩に返事をする俺と亮太の声を聞いて、2人は先に舞台へ出ていった。
「えー、お待たせしました。ただ今からの発表は、俺達生徒会メンバーが夏休みに生徒会の仕事をこなしつつ、忙しい時間と戦いながら練習に励んだ、素晴らしいハーモニーです!みなさんどうぞご堪能あれ〜!」
舞台に立った戸谷先輩は、マイクを持ち、超忙しい中練習したアピールも欠かさずそんな言葉を口にする。
その声にざわついていた体育館内はさらにざわつき、間抜けにもそんな中でアニメソングの前奏が流れ始めた。
「行くぞ、優!」
舞台裏に用意されていたマイクを持ち、亮太に手を引っ張られて俺達は勢い良く舞台に出た。…着ぐるみで。
舞台に出れば広がる光景は当たり前だけど人、人、人。んで、照明が眩しすぎる。
「うわ!何かでてきた!!」
「黄金コンビだ!」
「2人ともかわいい〜!」
「日高くんがんばれ〜!」
「畑野調子乗って失敗すんなよー!」
観客席のあちらこちらから声が飛び交い、圧倒しつつある。まもなく前奏は終わり、俺と亮太は2人揃って歌い始めた。
アニソンをノリノリで歌う亮太につられて、俺も緊張の中少しずつモチベーションは上がっていき、観客席からも一緒になって歌う声が聞こえてきたりして、早くも体育館内は凄い盛り上がりを見せてくれた。
亮太が考えた“1曲目にアニソン”という案は、大成功だったようだ。
いつのまにか緊張も消えていて、着ぐるみの暑さと汗も気にならないくらいで、隣ではノリノリな亮太が踊っていて、なんか楽しくなってきて。
1曲目はすぐに終わってしまった。
アニソンが終われば感じる暑さに、はぁはぁと息を切らしながらもすぐに舞台裏に引っ込む俺と亮太。
急いで着ぐるみを脱ぐ俺達。
「あっついししんどいなーこれ!でもちょー楽しい!」
「うん、俺も!」
「優!今までの練習の成果、全部出しきろうぜ!」
「おう!」
「わりぃ戸谷の姉ちゃん!これで汗拭かせてもらうわ!」
「あ、俺も!」
会ったことも無い戸谷先輩のお姉さんに謝意を込め、既に自分の汗が染み込んで臭そうな着ぐるみを額にあて、流れてくる汗を拭った。
すぐにまた体育館内には2曲目の前奏が流れ出し、俺達は着ぐるみを脱いだ服装で、再び舞台へと急いだ。
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