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文化祭当日。
俺達生徒会メンバーは、朝から照明やマイクの準備などでさっそく忙しい時間を送っていた。
みんなより1時間ほど前に体育館に来て、せっせと働く俺と亮太。と言っても俺は体育館の暗幕を閉めるという比較的楽な仕事だけど。
「おい畑野!そのマイクはそっちじゃねえよ!こっち!!」
「はぁ?知らねえよ!じゃあ俺に頼むなよ!!」
「それくらいちゃんとやれ!」
「うるせえ変態!」
「今変態は関係ねえ!無駄口叩いてねえで働け!」
朝から元気な亮太と戸谷先輩は、今日も仲良く言い合っている。2人の声が響いた体育館で、ふぁあ。大きな欠伸をした。
「あと10分もしたら生徒が集まってくるからな。それまでにトイレとかは済ませとけ。あ、優と畑野は司会進行をやってもらうからこのプリント渡しとくな。翔太と向井は舞台裏で発表者とかの指示と補助。」
変態の皮を脱いだ戸谷先輩は、会長の顔になってつらつらと文化祭の流れを説明し、俺と亮太にホッチキスでプリント数枚を纏めたものを渡してきた。
1、始めの挨拶
2、校長先生のお言葉
3、模擬店のPR(希望者)
4、……………
「亮太、任せた。」
「は?」
プリントには目次が書かれていて、俺は見た瞬間亮太にそれを押し付けた。
戸谷先輩、なんで当日になってから司会進行しろとか言うんだよ。事前に言っとけよなまじで。
「おい戸谷!なに一番めんどくせえこと俺達に押し付けてんだよ!いきなりこんなの無理だって!」
「は?押し付けじゃなくてこの学校では司会進行は下級生の仕事なんだよ!」
「は!?変な決まり作ってんなよ!あぁもう!優もなに俺にプリント押し付けてんだよ!2枚もいらねえわ!」
ぶつぶつ言いながら亮太から返されたプリント。あーあ。最近、次から次へと面倒な事が増えてくな。
そうこうしているうちに、体育館には続々と生徒が入ってきて、クラスごとに座るように並べられた長椅子にどんどん人が埋まっていった。
*
文化祭始まりの時間が訪れ、体育館の電気が消され、辺りは真っ暗になった。
パッと一部だけ照明の明かりが当てられ、それが向けられたのは俺と亮太が立つ司会者のポジションだ。
全校生徒の視線が一斉に俺と亮太に向けられ、俺はドキッと一瞬で緊張感を味わった。
「えーと…、みなさんこんにちは、司会進行を務める1年畑野と、「日高」…です。」
プリントをガン見しながら棒読みで話し出した亮太。いいのかよ、こんなやらされてる感剥き出しなやつが司会して。
…と思った矢先、辺りから野次が飛んだ。
「プリントしまえー!」
「畑野すげえ棒読みー!」
「敬語似合わねー!」
「よっ、黄金コンビ!」
「日高くん今日もかっこいいー!」
騒がしくなった体育館内で、亮太が小さく舌打ちをした。
「うるせえ、っす、静かにしてください。そんじゃ、まずは始めの言葉です。」
「…戸谷先輩お願いします。」
亮太に『言え』と目で合図され、渋々持っていたマイクの電源をオンにし、口を開いた。
てか亮太が注意したにも関わらず明らかにさっきより騒がしくなってるんですけど。みんなちょっと静かにしようゼ。
「やぁやぁ、みんな静かにしたまえ。僕の可愛い後輩が困ってるだろ?」
「俊哉キモいぞー!!」
「引っ込め猫被り野郎!」
何を思ったのか猫被りで舞台に登場した戸谷先輩に、これまた辺りは騒がしくなった。
「うわ、戸谷の猫被り久々。やっぱまじキモい。」
隣でぼそりと呟いた亮太だが…
マイク通っちゃってるし。
「それではみんな、文化祭を目一杯楽しみまし「ありがとうございました、それでは次は校長先生のお言葉です」…っておい!畑野!俺がまだ喋ってる途中だろ!?被らせんなよ!」
猫被りで始めの挨拶を話す戸谷先輩にイラついた亮太が、先輩が話終わるまであと一歩。というところで、司会を進めてしまった。
そして亮太に文句を言う戸谷先輩に、体育館内は笑い声で包まれた。
「…さっさと喋れよ。」
「畑野くん。そういうことを言う時はマイクの電源は切ろうね?…オホン。じゃあ改めて。みなさん、文化祭を楽しみましょう!…以上、会長戸谷俊哉でした〜。はい拍手!」
「…うっぜ。じゃあ次校長先生のお言葉です、校長先生舞台へお願いします。」
司会進行の流れを掴み始めた亮太に俺はすっかり任せっきり。
戸谷先輩が話してる隙をみて、近くにあったパイプ椅子を亮太の隣に置いて、腰を降ろした。
すると亮太に頭を叩かれ、仕方なしに亮太の分のパイプ椅子も持ってくる。
椅子に座ってリラックスモードに突入した俺達を、教師達が呆れた表情で見ていた。
「続いては、明日、明後日に校舎内、もしくはグラウンドで行われる、模擬店のPRに入りたいと思います。PR希望者は1クラス2名ずつ、左側通路に出て順番に並んで下さい。」
ぶっきらぼうな声で説明する亮太に従って、生徒は立ち上がり、左側通路に並び始めた。
「あれ?俺達のクラスって誰かPRすんのか?」
「あぁ、なんか委員長と野田が出るとかちらっと聞いたぞ。あ、ほら、あそこに2人並んでる。」
「あ、ほんとだ。」
暗くて見えにくいけど、亮太が指差した方を見てみれば確かに委員長と野田が列に並んでいた。
委員長はともかくなんでまた野田なんだ。どうせ野田が『目立ちたいから』とか言い出したんだろうけど。まあバカな事言わなけりゃ誰でもいいけど。
「見ろ、あいつ俺達の方見てバカみたいに手振ってんぞ。」
「バカみたいにというか、バカなんじゃねえの。」
「お!優もたまには正論言うねえ。」
「たまにはってなんだよ、いつもだよ。」
「畑野、優、もうみんな並び終わったみたいだから進めていいぞ。」
PR希望者が順番に並んでいる間、手を振る野田を見ながら亮太と話していると、戸谷先輩から声がかかった。
「それでは模擬店PRを始めます。順番に舞台に入り、PRを終えた人は右側通路から出て席に戻って下さい。それではどうぞ。」
亮太の声を合図に、1組ずつ生徒が舞台に上がり、PRタイムが始まった。
「2年3組で〜す!喫茶店開くんで来てくださーい。安くて美味しいコーヒーが飲めるんで!待ってま〜す!」
「3年5組、お化け屋敷します。無事ゴールできたらおにぎり配るんで。あ、参加費50円!お手頃価格なんで来てくださ〜い。ぶっちゃけあんま怖くないんで!!」
「3年2組は運動場で焼き鳥焼きまっす!1日限定200本!あ〜、あと麦茶付き!早い者勝ちなんでお早めに!みんな来いよー!」
クラスの代表2名が舞台に出て思い思いに模擬店を紹介していき、1組1組順調にPRは終わっていく。
そして、半分ほどが終わったところで、野田と委員長が舞台に出てきた。
「あ、野田がこっち見た。」
「しかもニヤニヤしてる。後で殴っとくか。」
「……哀れ野田。」
野田バカだなぁ。と思って見ていると、野田の隣に立つ委員長がマイクを持って話し出した。
「1年2組は夏祭りをテーマに焼きそばとフランクフルトの店を開きます。みなさん是非来てくださいねー、お待ちしています!」
委員長がPRし終えたところで、野田が委員長からマイクを奪った。
「今じゃ学園のアイドル黄金コンビは1年2組!2人の浴衣姿が見れちゃうんで、みんな絶対買いに来てね〜!」
「野田殺す…!!」
「おい…!」
亮太が持っていたマイクを俺に渡して、野田の元へ目にも止まらぬ速さで向かっていった。
そして、野田の尻にタイキック。
俺も含め、場内に居る人みな、亮太のタイキックに唖然とした。
「畑野っちひでぇよ!尻痛ぇじゃん!!」
「うるせえ!お前後で覚えとけよ?もう1発尻蹴ってやるわ!」
「あ!畑野っち!早く舞台降りないと後ろつまってるよ!」
「お前がバカな事吐かすからだ!このクソハゲ!」
「い゙だっ…!」
野田は2度亮太にタイキックを喰らい、痛そうに尻を擦りながら舞台を降りた。……野田哀れ。
「あいつまじうぜえ。俺目当てで来る客なんていねえっつーの。バカじゃね?」
こっちに戻ってきた亮太は、俺に預けたマイクを受け取りながらぶつぶつ言っている。
「いると思うよ、亮太目当ての客。」
「は?優まで俺に殴られてえの?」
「滅相もない。」
思ったことを口に出して言えば、亮太の鋭い目がギロッと俺に向けられた。
…野田の二の舞にはなりたくねえな。
「あ、PR終わったみたい。次優が司会しろよ。さっきから俺ばっかだし。」
「えぇ、どこ言うの。」
「ここ。文系部の出し物んとこ読んで。」
亮太に聞くと、亮太はプリントの一部を指差した。なんやかんやで亮太ってしっかりしてると思う。…あ、俺がぼーっとしすぎなのかな。
「それでは次は、文系部の出し物に入りたいと思います。吹奏楽部のみなさん準備をお願いします。…吹奏楽部?拓真が出るやつか。」
「そうだけどさ、優ぼやくならマイクの電源切ろうな。」
「あ、そーだった。つい。」
亮太から指摘を受け、マイクの電源をカチンとオフにした。が、今更だった。
舞台にはずらりと3列ほど吹奏楽部が並びはじめ、拓真は背が低いからか前列の端の方に座っている。
「なぁ、拓真のあれなんて楽器?」
「んぁ?あー知らね。笛じゃね?」
「あれはフルートだ。畑野、間違ったこと優に教えるな。」
「うわ、びっくりした。」
いつの間にか隣に立っていた戸谷先輩が、俺達の会話に口を挟んだ。
「別に間違ってねえだろ!笛は笛だ!お前一言余計なんだよ!!」
「始まるから静かにしろ。」
「ぬぁっ!うっぜえ…!!」
戸谷先輩に注意され、声を抑えながら先輩を睨む亮太。次第に準備が完了したようで、吹奏楽部の演奏が始まった。
「おっ、結構上手いんじゃね?男ばっかりだけど。」
「女紛れてたら逆に焦るわ。」
「2人供知らねえのか?うちの吹部はけっこうコンクールで上位の学校なんだぞ?」
俺達の会話にまたまた戸谷先輩が口を挟んだ。いつまでここにいるんだこの人は。
「へぇ、拓真頑張ってんだな。」
「うん。濱崎とかもな。」
「あ、アイツらいたのか。」
俺の言葉に亮太は、まるで忘れてたかのようにポツリと呟いた。
…確かに存在感あんまねえけどな。
「あ、てか俺らの番っていつ?」
「自分の出番も知らねえのかよ、プリントに書いてあんじゃん。最後だよ最後。」
「……最後。」
ふと気になり問いかけるの、亮太から説教じみた口調で返されてしまった。
「最後までずっと緊張しっぱなしなのか…。」
「ん?優緊張してんのか?大丈夫だ、安心しろ。俺が本番前に緊張ほぐしのキスしてやっから。」
「…やめてくださいよ、していらないっす。」
「わはは!愛しの優くんにチュー断られてやんのー。戸谷ショック〜」
「うるせえぞ畑野。今演奏中だろ?静かにしろよバカ犬。」
「バカ犬だと!?俺のどこがバカ犬だ!お前さっきから一言余計なんだよ!」
…今のは亮太が余計な事言うからだろ…。『愛しの優くん』ってなんだよ。自分が言われたら絶対怒るくせに。
戸谷先輩に歯向かう亮太を見て、やれやれとため息を吐く。
その後吹奏楽部の演奏はフィナーレとなり、ハイレベルな演奏に会場は大盛り上がりを見せ、文系部出し物プログラム1番目が終了となった。
2番、3番と続く出し物は、同好会っぽい合唱グループが歌謡曲をアカペラで歌う。というなかなか笑えるものだったり、演劇部の演劇であったりで、次々と午前の部の出し物が終了していった。
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