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早くも迎えた文化祭前日。

授業は一切無く、文化祭準備の時間に当てられ、学校内は既に文化祭色に染まっていた。

舞台を使用しても良いと舞台練習用に割り当てられた時間に、俺達生徒会役員は本番に向けてのリハーサルをするため、体育館に集る。


「はい、優と畑野これ着ろ。」

「…ん?」

「なんだそれ。」


俺と亮太は戸谷先輩に何かを手渡され、手にしたものを広げてみた。


「…え、これ着るんですか…?」

「うん。それで派手に登場して、アニソンが終わったら約1分ほどで次の衣装に着替えてもらう。っていう計画。」


淡々と言ってのけた戸谷先輩に、俺達は唖然とした。…計画って、リハーサル直前に言われましても。言うの遅いって先輩。

広げた衣装をまじまじと眺める。着ぐるみだろうか?小さい子供のパジャマのような、フードに耳がついたツナギのようなそれ。

「いい歳してこんなん着れるかよ!!戸谷が着ろよ!」

「そうですよ、戸谷先輩が着たらいいじゃないですか!」

「俺が着たところで盛り上がりに欠けるだろ?ただ歌うってだけじゃ地味すぎじゃん。ね?」


何が『ね?』だよこの人…俺は歌うだけで精一杯だっていうのに。地味でいいだろ。


「いつの間にこんなん用意してたんだよ。」

「え?アニソンが決まってすぐ。あぁ、気にするな。俺の姉貴のコレクションを借りただけだから金は掛かってねえぞ。」

「なんだよコレクションって!お前姉まで変人なのかよ!?」

「言っとくけど俺より姉貴の方が変人だぞ?つーかつべこべ言わずに早く着ろ!時間限られてんだから!優も固まってないで。ね。絶対似合うから。」


『ね。』と言いながら俺の頭を撫でる戸谷先輩。絶対似合うからって…嬉しくねえよ。てか頭撫でてんなよ。


ぶつぶつ言いながらも制服の上から着ぐるみを着る亮太に続いて、仕方なく俺も足を着ぐるみに通した。



「わははははは!なんだそれ、優やばい!ウケんだけど!真顔やめろって!」


着替え終わり、向かい合わせになった俺と亮太。自分だって似たようなもの着てるくせに、亮太は俺を指差して大爆笑している。恥ずかしすぎて自分の顔がボッと熱くなった。


「…先輩。これ普通に考えてかなりキモくないですか…?やめません?」

「優がキモいわけねえだろ?かなりチャーミングだ。これで盛り上がりはもらったな。よっしゃ、それじゃあリハ始めっから、照明音響準備!」


俺の声など、先輩にはまったく届いてなどいない。そして、最初は嫌がっていた亮太も、今は着ぐるみを身に纏って、のりのりでよくわからない踊りを踊っていた。

なんだよ、浴衣に法被に着ぐるみに…。文化祭は仮装パーティーかよ!
てか暑すぎだから。この格好。ただでさえ暑苦しい温度にこんな服着せて殺す気か。

と、暑さでどうにかなりそうになりながら、リハーサルは始まった。


着ぐるみ姿で登場し、アニソンを歌い終えてから着ぐるみを脱げという指示に従い、2曲目に入るまでに舞台袖で着ぐるみを脱いでまた舞台へ。
残りの3曲を歌い終えてからフィニッシュ、という形となった。

リハーサルを終えれば俺も亮太も汗だくで、直前に着替えを入れたことにより、バタバタと慌ただしい仕上がりになった。

明日本番だってのに、こんなんでいいのかと物凄く不安になってきたのだった。






「あー、黄金コンビ発見〜!」

「明日文化祭で歌うんだよね?」

「畑野ー、日高くんの足引っ張んなよ〜?」


文化祭前日の夜。

食堂で晩飯を食っていた俺達は、上級生だと思われる生徒3人に見事に絡まれた。
今日、文化祭の事柄が書かれた冊子が全校生徒に配られたため、その冊子が理由でか俺達生徒会の出し物を皆知っているようだ。


「うっへぇぁ!」


上級生だと知ってか知らずか、構わず親子丼のごはんをもぐつきながら話す亮太。通訳すると『うっせぇな』と言いたいらしい。


「今飯中なんだから話しかけんなよ!てかその黄金コンビとかいうわけわかんねぇ呼び方やめろ!」


ごはんを飲み込んでグビッと水を飲んだあと、再び亮太は口を開いた。


「亮太くーん。俺ら先輩なんですけどー、なんでため口なんですかー?」

「亮太くんとか呼ぶな気持ちわりぃ。先輩なら先輩で、先に名乗りやがれ!」

「あはっ、生意気だなぁ亮太くんは!」

「畑野は生意気が売りだからねー。日高くんも毎日大変だね〜?」


いきなり俺に話を振られ、びっくりして食べていたうどんがずるっと喉に流れていった。


「ゲホッ、…あ、すんません。そっすね、大変です。」

「あはは、日高くんが噎せたー!」


初対面の人に俺が噎せたのを笑われた。この人達失礼極まりないな。


「ゆっくり飯食わせろよな!俺ら疲れてんだから。そりゃ優だってたまには噎せるわ!ほら、わかったならおっさんどっかいけよ!シッシッ!」


そう言って亮太は、先輩たちを向こうに行くよう促した。

『おっさんだって。』『酷いな〜畑野くん。』なんて言いながらもたいして気にせず、先輩はその場から立ち去っていった。後輩におっさんと言われても怒らなあなんて、悪い先輩では無さそうだ。


「ったく。親子丼冷めたし。」

「俺のうどんもう冷めかけ。」

「一口ちょーだい。」


立ち去った先輩にぶつぶつ愚痴をいった後、亮太は俺のうどんを欲しがってきて、器を亮太に近づけてやる。

そんな時、俺達の頭上に人の影が。


「日高と、…畑野!」


名前を呼ばれ、次は誰だよ!と思いながら視線をそちらに向ける。


「あ、森岡…。」


見ればそこに立っていたのは森岡で。まためんどくさいのが来たな…と思ったのは秘密。


「んぁ?」

「…って亮太俺のうどん食い過ぎ!!それ一口って言わねえよ!!」


森岡が目の前にいるにも関わらず、俺のうどんをずるずる食べ続ける亮太。

最悪だ…、俺のうどんがかなり減った…。


「2人とも今御飯中…?」

「見てわかんねえの?」

「あ、うん、そうだよな、ごめん…。」


亮太に軽くあしらわれ、森岡は表情を暗くした。…まぁ亮太が言う通り、どう見ても御飯中なんだけど。


「森岡はもう食べたのか?」

「うん、さっき食べ終わったとこ!…あ、そうだ!この後部屋遊びに行っていい…?」

「…え、」


森岡の突然の誘いに俺は見事に固まった。このタイミングで俺達に話しかけたのは、どうやらそれが目的らしい。

本音で言えば、文化祭前日である今、部屋に戻って早めに寝る準備をしたい。しかし、亮太の目の前で森岡の誘いをピシリと断ってしまうと、森岡はどう思うだろうか。

軽く一言、「今日はごめん」と言えばいいのに。メールでいつも断り続けていた手前、本人を目の前にするとかなり断り難い。

しかし、少しの間返事に渋っていると、横から亮太が口を開いた。


「今日はダメだな。」

「…え?」


突然の亮太の発言に、森岡は笑顔を引きつらせた。つーか多分、俺も引きつった。


「優部屋戻ったらすぐ風呂入って寝るだろ?」

「…え、あぁ、まぁ…。」


できれば俺はそうしたいんだが。
まさかの亮太からの発言で、俺は動揺しまくり。


「森岡。文化祭準備の事とかで優も結構疲れてんだよ。だから休ませてやろうとか思わねえ?こいつ睡眠時間10時間必要なんだよ。」

「は?10時間も寝ねえよ。」


気遣いのような台詞にも聞こえるが、最後の無茶苦茶な内容にはとりあえず突っ込みを入れておく。


「あらそう?ま、いいや。飯も食ったしそろそろ部屋戻ろうぜ。」

「ええっ、ちょ、亮太!!」


森岡がいるにも関わらず、食べ終わった自分と俺の器を持ち、返却口に返しに向かう亮太。

俺の分まで食器を返してくれるのは非常にありがたいんだが…森岡の存在を無視するのはちょっとどうかと…


「わりぃ森岡!!またな!」


慌てながら森岡にそう言ってから、帰ろうとする亮太の後を追った。



「優さぁ、なんか森岡に気ぃ使ってね?弱味でも握られてたりすんの?」


部屋に戻ってきてから、亮太は徐に口を開いた。


「弱味…?いや、握ってねえけど。」


寧ろどっちかと言うと、俺が握ってる感じ?


「ほんとかよ?じゃあ部屋来ていいか誘われてもきっぱり断れよ。優だって部屋に上げんの嫌だろ?だいたいさ、大して仲良くねえのに図々しく部屋に上がり込むってどういう神経してんだよ。まぁ優も優だけどな。お前がはっきり断らねぇから、アイツが付け上がるんだぞ?それともなんか、断れねぇ理由でもあんのかよ?あんな奴1人くらい断ろうと思えばちょろいもんだろ?てか未だにちょいちょいあいつとメールもしてるだろ。俺知ってるんだからな、優がメール見てめんどくさそうにしてんの。」


…どこから返事を返そうやら…。亮太のマシンガントークにまったくついていけずに戸惑った。


「…俺森岡に気遣ってるか…?」

「俺から見ればかなりな。まじ謎なくらい。だって優いろんな奴にアドレスとか聞かれてるけど、ほとんど断ってんじゃん。それに部屋来ていいか誘われたって、絶対優なら『今眠いから』とか言って断りそうじゃん?なのに森岡とはメールもしてるし部屋にも一回上げたし。その割に学校で喋ってるとことか見たことねえし。まじ謎!」

「…まぁ。言われてみれば…。」

「だろ?まじで何でそんな気遣ってるわけ?脅されてるとか?」

「…いや、単に俺が気遣ってただけだと思う。大丈夫、脅されてはねえから。」


笑い混じりに言えば、眉間に皺を寄せていた亮太の表情が多少和らいだ。


「ならいいんだけど。俺的にはもうあいつ部屋に上げてほしくない。」

「え、…なんで?」

「だってあいつ絶対変態。目付きがさぁ、まじ変態!」

「へぇ…すげぇな。目付きで変態かどうかわかるとか…。」

「いや、わかるっつーか…感じる?だってこの前部屋来た時、俺の浴衣姿が楽しみとか言ってきたんだよなぁ。まじキモくね?」

「…はは、そうなんだ。…キモいって…ドンマイ森岡…。」

「ん?なんか言った?」

「え?あ、ううんなんにも。」


もう俺は、人の色恋沙汰に関わるのは懲り懲りです。

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