22 [ 24/47 ]

買い物袋を持ち、腕を組みながら歩く亮太と奈々。それはまるで、イチャイチャカップルを見ているような光景だ。


「兄貴、いつまで剥れてるんだよ。」

「俺の可愛い可愛い奈々が亮太に…。」

「心配しなくても今だけだって。」


奈々が俺の友達を気に入ることなんて、今に始まった事じゃない。それより、兄貴の剥れ具合ったらうざい事この上ない。こんなくらいで拗ねてたら、奈々が結婚するとなった時、兄貴どうするんだよ。


「陽にぃ優にぃ!奈々オムライス食べたいから今からフードコートで昼ご飯ね!」


「お、昼飯か!兄貴昼飯だって!早く歩けよ!」

昼ご飯という言葉を聞き、気を良くした俺はポケットに手を突っ込みながらだらだらと歩く兄貴の頭を一発ど突いてからそう促した。


昼時のこの時間帯、フードコート内はたくさんの人でいっぱいだ。


「えー!全然席空いてないし!」

「奈々、仕方ねえよ。ちょっと待てばすぐ空くって。」


奈々にそう言って、フードコートの隅で席が空くのを待つことにする。

すると、少し離れた場所から、こちらを見ながら何か話している女性2人組。


「やば、あそこちょーかっこいい人居るんだけど……ってあれ?」


……ん?


「うわ!?姉ちゃん!?!?」


……え?


じーっとこっちを見ながら話していた2人組に、亮太が気付いて驚いたように声を上げた。…ってか、え、もしかして亮太のお姉さん…?



「亮ちゃんじゃない!…ってことはこっちのイケメンもしかして…!!亮ちゃんの友達の優くん!?」

「なんで姉ちゃんらがここに居んだよ!」

「それはこっちの台詞よ!こんな男前2人も連れて!あら、こっちの方はもしかして亮ちゃんの彼女?」


亮太のお姉さんらしい2人の女の人は、亮太の腕に自分の腕を絡まらせた奈々を、面白いものを見るかのように視線を向けた。


「ちげーよ!!優の妹!!」

「やば、あたしこっちの人かなりタイプなんだけど。あ、あたし亮太の姉の由香って言いま〜す!」

「姉ちゃんなに陽さんに自己紹介してんだよ!どっか行けよ!俺ら今から飯食うんだから!!」

「へぇ〜、亮太のお姉さんですか!お綺麗ですね2人供!俺、優の兄の陽でーす。あ、昼ごはんご一緒します?」

「ちょ、陽さん…!!!」


兄貴の言葉に、亮太が焦ったように声を上げた。


「あ、いいですねぇ。あたし達も久し振りに亮ちゃんに会った事だし。…あら、亮ちゃん何その嫌そうな顔。」

「…ぃ、嫌そうな顔とかしてねえし。…一緒に食えば?」

「亮ちゃんに言われなくても一緒に食べるし。こんなイケメンとの食事逃したらもったいないじゃない。」

「姉ちゃんはイケメンの事しか頭にねぇのかよ。」

「亮ちゃん何か言った?」

「…イエ、ナニモ。」


…すげ、このお姉さん達、亮太を一睨みして黙らしたぞ。亮太の気の強さはお姉さんたちから鍛えられたからかもしれない。


「あ!あそこの席空いたよ!座ろ座ろ〜!!」


奈々が空いたテーブルを見つけたらしく、陣取りに向かって行った。


「いいな〜、優くんの妹可愛いし若〜い!お肌スベスベで羨ましい〜!」

「亮太のお姉さん、何歳なんすか?」


テーブルに向かった奈々を見て、羨ましそうに話す亮太のお姉さんに、少し気になって問いかける。


「あたし18でお姉ちゃんがもうすぐ20!あ、因みにあたしは高3ね!」

「じゃあお姉さんたちも十分若いじゃないですか。」

「キャーキャー、優くんたら!!そんな顔してたらすなんて反則よおっ!!」


何の気なしに言えば、亮太のお姉さんは俺の肩をバシバシ叩きながらはしゃぎ出した。


「…姉ちゃん、コイツたらしてるつもりねぇから。素だから、素!!勘違いすんな?」

「え!?これ、素なの!?やばーい!」


…え、これどう反応すれば良いんだ。と思いながら、お姉さんたちの会話を聞き流した。


その後、無事テーブルを確保できた俺たちは、奈々はオムライス、兄貴はカツ丼、俺はきつねうどんを食べる最中……目の前では亮太のお姉さんと亮太が、見事な姉弟喧嘩を繰り広げていた。

きっかけは亮太の一言から始まった。


「色目使ってんじゃねえよ。」


そうぼそりと呟いた亮太の声を、亮太のお姉さん達は聞き逃さなかった。


「亮ちゃん?聞こえてるわよ。」

「げ。」


自分の呟きが聞こえてしまったと知り、亮太は苦い顔を浮かべた。

俺の隣に亮太、その隣に奈々、奈々の正面には兄貴でその隣が亮太のお姉さんだ。要するに俺と亮太の正面に、亮太のお姉さん2人が座っている状態だ。


「ほんっとに亮ちゃんって生意気!家になかなか帰って来ないと思ったら、どうせあたし達に会うのが嫌なんでしょ?」

「…誰もんな事言ってねえだろ。めんどくせーから帰らねえだけだよ!」

「ふぅん、まぁいいけど。亮ちゃんが居ない間、亮ちゃんの部屋は物置状態になってるから、いきなり帰ってこられても困るしね。」

「はあ!?なんだよそれ!!」

「ちょっと亮ちゃん!唾飛んだじゃない!!汚〜い!!」


主に亮太は、次女である美香さんと言い合いをしている。長女の由香さんと言えば、ずっと兄貴と話していた。歳が近いらしく、話しも合うようだ。


「唾飛んだくらいでグチグチ言うなよ!」

「あたしグチグチなんて言ってないし。汚いから汚いって言っただけでしょ。」

「ああそうですか!!そりゃ悪かったな!!つーかさっきから優に話しかけてねぇで早く食えよな!!」

「あ、そうだ優くん!今度亮ちゃん家に連れて遊びにおいでよ!」

「逆だ逆!俺が連れてくる方だろ!」

「ん〜もう。亮ちゃんうるさい!!」


不意に思い付いたように俺に話しかけてきたお姉さんに亮太が突っ込みを入れると、お姉さんは亮太をあしらうかのように顔を歪めた。


「てか亮太、お姉さん達に亮ちゃんって、えらく可愛い呼ばれ方してんな。」

「あ!奈々もそれ思ったぁ!!」

「俺も呼ぼっかな、亮ちゃ「やめろよ。」冗談だって…。」


ちょっとした遊び心で言おうとしたら、亮太に鋭い睨みで返されてしまった。よっぽど嫌なのだろう。


「ちっちゃい頃はね、まだ今よりは可愛げあったのよ?亮ちゃ〜んってあたしが呼んだら、『なに、お姉ちゃん』って!“お”が付いてたの、“お”が!!それがいつの間にか、『姉ちゃん』になっちゃってるし。」

「細けぇよ!あんま大差ねぇだろ!いつの話ししてんだよ!!」

「亮ちゃんは話し方がいちいちがさつなのよね!男の見本のような人がすぐ側に居るんだから亮ちゃんも少しは見習ったらどうなの?」

「優と俺比べんなよ!こいつこう見えて意外と抜けてんだからな!!」


…ん?何故いきなり俺の話になる。てか『意外と抜けてる』って失礼だろ。


「うんうん、優にぃって確かにちょっと抜けてるとこあるよね〜。」


オムライスをもぐもぐと食べていた奈々は、ごっくんと飲み込んでから亮太の言葉に頷いた。奈々も亮太に便乗してんじゃねえよ。


「へぇ〜、そうなんだぁ。でもそんなところも有りだなぁ。」

「…要するに姉ちゃんは、優ならなんでも有りなんだろ。」

「えへっ、そーゆーこと〜!」


ニコニコと笑顔で話す亮太のお姉さんに、亮太は呆れた表情を見せていた。


亮太のお姉さんと亮太の言い合いは暫く続き、昼飯をみんなが食べ終わったところで亮太のお姉さんたちとはそこで別れた。


「亮ちゃんたまには連絡しなさいよ!お母さんやあたし達、これでも亮ちゃんの事心配してるんだからね!」


別れ際にそう言う亮太のお姉さんに、亮太は大人しくに頷いていて、なんだか少し微笑ましい。

奈々は俺の服と自分の服を買って満足したらしく、俺たちは適当にぷらぷらと店を見てから家に帰ることにした。



家に帰れば、母さんがリビングで浴衣を広げて俺達の帰りを待っていた。


「みんなお帰り〜!優!ほら見て!ゆ・か・たっ!出しといてあげたから今すぐ着てみて!」

「え、なになに?優にぃお祭でも行くの?」


浴衣を見て奈々は、興味津々で浴衣が広げてあるリビングへ歩み寄っていく。


「違うわよ。優文化祭で浴衣着るんですって!ね〜優?」

「…あーうん、まぁ。」

「え!文化祭!?奈々も行って良い!?」


奈々が文化祭と聞けば、こうなるだろうとは思っていたが、やっぱり奈々は文化祭に行きたがった。そんな奈々にいち早く反応したのが兄貴だ。


「奈々は絶っっ対行ったらダメ!奈々みたいな可愛い子が来たらどっかの飢えた野郎共に襲われてしまうだろ!」

「ちッ……兄バカめ。」


必死の血相で話す兄貴に、奈々が兄貴には聞こえないように小さく舌打ちして悪態つく。


「でも陽さんの気持ちなんか分かるかも。男子校だし奈々ちゃん歩かせんのはちょっとなぁ。」

「だろ!?だよなぁ!?亮太よくわかってんじゃん!」

「えぇ!亮太まで!でも奈々優にぃの学校の文化祭行ってみたいもん!」


奈々が『行きたい行きたい』とごねだした最中、俺は母さんにしつこく着てみろと言われ、仕方なく浴衣に腕を通した。


「よし、じゃあ分かった。兄ちゃんと一緒に行くんだったら、文化祭行ってもいいぞ!」

「え〜、陽にぃと〜?」

「そうだ。俺から一瞬でも離れたらダメ。それが嫌なら、奈々が文化祭に行くこと許可できねえ!!」

「…うーん。仕方ないね、じゃあそうする!陽にぃと行く!!」

「まじかよ、2人来んの?」


奈々が兄貴と文化祭に行くと言い出して、今度は俺が舌打ちしたい気持ちになった。


「優にぃのクラス1番に行くからね!…ってうわぁ!優にぃ浴衣姿かっこいいじゃん!似合う似合う!」

「でしょ〜?さすがママの子ね。」


着替え終わった俺の腹を、母さんが満足気に話しながら、ポンと叩いた。


「うん。こりゃ俺達のクラスまじで大繁盛だわ。」

「意味わかんねぇ。つーか俺大繁盛なんて望んでねぇし。亮太めんどくさがりなくせになんでそんなに文化祭は張り切ってんだよ?」

「ん?そりゃやっぱ、女の子来るとなったら俺だって張り切るし!まぁそれに俺、祭系嫌いじゃねぇしな!」


亮太が張り切ると凄まじい事は知っている。球技大会ではドッジボールで総合優勝してしまうくらいだし、亮太が張り切るとほんとに凄まじいことになる。

文化祭で張り切る亮太を想像したら、俺はなんだか顔が引きつりそうになった。

文化祭が大忙しなんて、俺は真っ平ごめんだ。


「懐かしいなぁ、高校の文化祭。」

「あ!そういや陽さん、去年の文化祭で女装したらしいじゃないすか!」

「あぁ、したした!俺かなり美人さんに仕上がってさぁ、その日何人かに告白されちまったっつーの!」


そう言ってガハガハと大声上げて笑う兄貴は、バカ丸出しだ。



久々に実家に帰った日の夜、母さんはいつも以上に夕飯を張り切って作ったみたいで、テーブルにはたくさんのおかずが並んでいた。
丁度ご飯時に仕事から帰ってきた父さんも加わって、家族5人揃った俺達を見て、亮太は何故か唖然としていた。

父さんの事を見たとき亮太は、『陽さんの大人バージョン』と言っていて、なんかちょっと笑えた。確かに兄貴は父さん似だから、亮太がそう言う気持ちも分からん事はない。


夕飯を食べ風呂に入って、俺の部屋に亮太用に客用の布団をひいてから、部屋でテレビ見ながら寛いでいたりして。しかし半時間でテレビにも飽きて、まだ早い時間ではあったが、なんだかんだで今日はもう疲れたため、俺達は眠る事にした。


寮にはもう一泊家で寝てから、その次の日の昼過ぎに帰るという、二泊三日の予定をしている。

次の日は特に何もすることはなく、亮太のボーリングがしたいと言う希望で、地元にあるボーリング場に行くことにした。

兄貴はバイト、奈々は友達とプールに行くらしく、今日は2人でガタンゴトンと電車に揺られて、ボーリング場まで足を運ぶ。

しかしボーリング場は、お盆休みなだけあって客が多すぎてボーリングどころではなく、せっかくわざわざボーリング場まで来たけど引き返して、昼飯だけ適当に何処かのファミレスで食べて家に帰ってきた。


「よっしゃ、んじゃあ何もする事ねぇし、舞台発表の曲歌う練習でもしますか!」


そう言って自分の携帯を手に取って曲を流し、歌い始めた亮太に、一緒になって俺も歌った。





俺の実家で過ごす時間はあっという間に過ぎて行き。


「じゃあ優にぃ!次は文化祭で会おうね!楽しみにしてるから!」

「たまにはママに連絡しなさいよ!亮太くん、優の事よろしくね?」

「あ、はい!なんか泊めてもらった上に飯とか食わせてもらってありがとうございました!」

「亮太、また遊びに来てね〜!」

「じゃあ母さん、奈々、またな」


母さんと奈々と別れの言葉を交わしながら、俺と亮太は寮から持ってきた荷物を持って、兄貴の待つ車に乗り込んだ。

兄貴は俺と亮太を寮に帰すために、わざわざバイトの時間をずらしてくれたらしい。たまには気がきくな。なんて少し思ってみたり。


「それにしても優の家族は凄かったなぁ〜。」


車が発進してまもなくしてから、亮太がしみじみと口を開いた。


「なにがすげえの?」

「え?顔だよ顔!みんっな美形だもんな〜、すげえびびったし!」

「それを言うなら亮太のお姉さんだって。」

「あぁ、まじ凶暴だろ?あの女ども。まさかあそこで会うとはな〜。」

「亮太〜、そんな事言ってると俺、由香さんにちくっちゃうかもな〜?」


亮太がお姉さんの事を愚痴っていると、運転中である兄貴が陽気に口を開いた。


「え!?ちょ、どういうことっすか陽さん!!」

「俺由香さんと連絡先交換したし。いつでも亮太の事、報告できるぜ。」

「まじすか!!!!!」


あっけらかんとそう口にした兄貴に、亮太は焦った様子を見せた。


「姉ちゃんめ、いつの間に陽さんの連絡先聞き出してんだよ…!男絡むと抜け目ねぇな。」

「まぁそう言わないで、亮太もたまには家族に連絡入れろよ?可愛い可愛い弟のことを心配する気持ちは、俺もわかるからさ〜。なあ優?」

「はぁ?なあ、て言われても知らねぇから。つーか兄貴の場合ちょくちょく顔出しすぎなんだよ。ほんと来なくていいから。」


心配する気持ちとかなんとか言って、兄貴は一人暮らしが寂しいだけだろ。


[*prev] [next#]

bookmarktop


- ナノ -