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「おっしゃあ!よしっよしよしよっしゃああぁー!!!」

「…亮太うるせえ…。」


返却されたテストを片手に、ガッツポーズをして叫ぶ亮太。

テストの点が良かったのかと思い、後ろから亮太のテスト用紙を覗き込み、点数を見て呆れた。


「40点…?亮太なんでそんな点で喜んでんの?」

「40点まじ良くね!?赤点ギリギリセーフだし。しかも俺英語はいつも1桁に近い点数だったからさー、どうしよう!俺まじ頭良くなったんじゃね!?」


亮太はピラピラとテスト用紙を振り回して喜んでいる。


「なになに?畑野っち点数良かったの?」

「おう。聞いて驚け、40点だぜ、40点!!」

「わ、俺の半分〜!」

「は!?なにおまえ80点!?くたばれ嫌味野郎!」


野田からテスト用紙をひったくった亮太が、紙飛行機を作り出し、それを黒板に向けて放った。


「ああぁー!俺のテストー!!」


亮太にテスト用紙を飛ばされ追いかける野田は、クラスメイトの笑いの虜になっている。


「あ、ちなみに優は何点だった?」


亮太が紙飛行機を飛ばしてから、何食わぬ顔で俺のテスト用紙を覗いてきたから、自分の点数を亮太に見せる。


「俺60点。」

「なにっ、俺より上か!!」

「つーか兄貴に教えてもらっといて50点以下だったら、俺まじでなに言われるかわかんねえよ。」


まずバカ呼ばわりされるのは確実だ。

んで、兄貴の事だからテストの復習しろ!って煩く言われるだろう。


「え!じゃあ俺やばくね?陽さんに怒られる!?」

「いや?兄貴は俺に厳しいだけだから。」

「へぇ〜、兄弟愛だな!」

「そんな愛はいらねーよ。」





その日、ほとんどのテストが返却され、見事俺と亮太は赤点無しでテスト期間を乗り越えたため、夏休みの補習と追試は免れた。

しかし、俺達は知らなかった。

夏休みには補習でもなく、追試でもなく、況して生徒会の仕事でもない、文化祭準備という面倒な事があることを。

俺達がそれを知ったのは、テストが全科目返却され、ホッと一息吐いたその日のホームルームだった。


「明日は文化祭のクラスの出し物を決めるから、みんななにかいい案を考えてくるように。それと、出し物が決まったらさっそく文化祭準備に取り掛かるぞー。当然、夏休みにも学校に来て準備だからな!」


富田先生がそう言い終わった後ホームルームが終了し、先生は教室を出ていった。


「文化祭とか男だらけでやって何が楽しいんだよ、むさ苦しいだけじゃねぇか。」

「えー!畑野っち知らねぇの?この学校、文化祭には結構女の子来るんだよねー。まぁ俺からしたら煩わしいだけだけど?」

「は!?その情報確かか!?」


亮太が野田の肩を激しく揺さぶって、文化祭の事について聞き出している。亮太必死だなーなんて思いながら、俺は帰る支度を始める。


「ほほほんとだから!畑野っち揺さぶんの無し!!」

「うおお!俄然やる気出てきたあ!!早く文化祭になんねぇかな〜!」

「亮太、ウキウキのとこ悪いけど早く帰る支度しろよ。置いて帰るぞ」


ホームルームが終わっても今だに帰る準備をしない亮太に言えば、慌てて鞄の中にプリントや筆箱を詰めだしたから、暫し待ってやる。


帰宅中、文化祭に浮かれる亮太に、「まだまだ先の話だろ?」と言えば、理解しがたい返事が返ってきた。


「優がいれば客寄せになるんだから、優も文化祭気合い入れろよな!!」

「…はあ?なんで俺が。」


俺は昔から、球技大会と体育祭以外の行事は、すべてやる気の欠片も見せない人間なんだぞ。

ちなみに中学の頃にあった合唱コンクールは、見事な口パクを披露したくらいである。





「じゃあ今から、文化祭の出し物について何か意見がある人手を挙げてください。」


クラス委員長が、チョークを握って黒板前に立つ。

テスト返却が終了した次の日から、5、6限の昼からの授業はぽっかりと無くなり、文化祭準備の時間としてあてられた。


「ハイ!」

「はい、じゃあ野田。」


手をピンと上に伸ばして、歯切れ良く声を発する野田に、委員長が野田を指名した。


「お化け屋敷がいいでーす!」

「あぁ!?お化け屋敷!?駄目に決まってんだろーが!!」


野田の発言に亮太が立ち上がり、思いっきり突っ掛かった。

あ、そういや亮太はホラー系が苦手なんだっけ。…お化け屋敷なぁ。おもしろそうだけど準備大変そうだな。


「えー、いいじゃんお化け屋敷。あ!もしかして畑野っち、そーいう系苦手?」

「誰もんな事言ってねえよ!!とにかくお化け屋敷は駄目だ!!」

「じゃあ畑野は何がいい?」


委員長が『お化け屋敷』と黒板に書くか書かないか渋り、結局亮太に意見を求めた。


「やっぱここは女受けがいい出し物だな。」

「えー、それこそ駄目だって。女の子集っちゃ俺困るー。」

「お前の意見なんて誰も聞いちゃいねえんだよ!」


亮太と野田が言い争いを始めてしまい、委員長はやれやれと首を振った。


「委員長委員長。」


俺は亮太と野田が言い合いをしている隙に、ちょいちょいと委員長に手招きする。


「ん?どうした?日高」

「俺、休憩所が良い。」

「…ん?休憩所?」

「うん、休憩所。」

「…ごめん、多分それは無理だな…」

「だよな。言われると思った…。」


あわよくばを狙い、半分駄目元、実は本気で言ってみた俺の案は、見事却下されてしまった。


「優…文化祭やる気ゼロだね…。」


委員長は申し訳なさそうにしながら黒板前に戻って行き、後ろから拓真がしみじみと俺に話しかけてくる。

休憩所にすれば、面倒な準備をする必要はない。という俺の魂胆はバレバレのようだ。…そりゃバレるよな。


「うん。できればサボりたいけどさぁ…ペナルティー受ける方が邪魔くせぇしなぁ。」

「は!?優がサボるとか俺が認めねえぞ!優には何か目立つ衣装着て看板娘やってもらうからな!」

「…はい?」


いつの間にか俺と拓真の会話を聞いていたらしい亮太が、何やら意味不明な事を言っている。


「なに?看板娘って。俺女?」

「じゃあ看板息子?」

「どっちにせよ俺はそんなのやらねえぞ。つーか亮太がやれよ。」

「俺がやっても面白くねえだろ。」

「じゃあ俺がやったらおもしれえの?」

「優がやれば良い客寄せになる。」


…良い客寄せってなんだ。

客が増えるイコール仕事も増えるだろ。


「ハイハイ誰か良い案ありませんかー?」

「ハーイ、じゃあお化け屋敷が駄目なら俺ミュージカルやりたーい。ライオンキング!俺がムファサで優ちゃんシンバなんてどう?」

「お前まじ意味わかんねえから!キモいから喋んな!無難に食いもん屋にしよーぜ。」


亮太の意見にクラスメイトは頷き、次は何の食べ物にするかの意見を委員長がみんなに聞き始めた。



それからすぐあと、ウトウトと睡魔が襲ってきて、暫し居眠りを始めた俺が目覚めた時、黒板にはでかでかと『夏祭り』と書かれていた。


「夏祭り…?なぁ亮太、夏祭りって何?」

「お、優やっと起きたか。
俺らのクラスは夏祭りをモチーフにして、飲食店開く事になったんだよ。ちなみに優は宣伝係りな!俺が勝手に優の係り決めといてやったから!」

「は…?宣伝係りってなにすんの?」


寝起きで半ボケ状態のまま亮太の話を聞くが、まったく話が理解できずに亮太に聞き返す。


「優には浴衣着てもらって、校内を看板持って歩き回ってもらうから。あとチラシ配ってもらったり。」

「…何で浴衣?てか断っていい?」

「だって夏祭りだし。居眠ってた優に断わる権利なんかねえよな〜。」


そう言ってニコニコと笑う亮太。


「…そうですね。でも浴衣は嫌だな。制服でいい?」

「もう決定済みだから。心配しなくても調理の人と裏方以外はみんな浴衣だって。」

「…じゃあ俺裏方がいい。」

「だからもう決定済みだって!!優しつこいぞ!」


卑怯だ…、俺が寝てる間に係りを決めるなんて…。
…いや、ちょっと待てよ?宣伝係りって事は、宣伝してる最中にふらっとサボれるんじゃねぇか…?


「あ、優今なんか企んだだろ。」

「…いーや?別になにも。」

「嘘だな、絶対何か企んだ!」


亮太が眉をしかめて俺を見るから、ついつい亮太から視線を外したのが間違いだった。


「優には監視役でもつけてやろうか?なんなら俺でもいいけど。」

「え…。」


亮太には俺の考えが、すべてお見通しだったようだ。俺としたことが…。


「じゃあ浴衣着る人!浴衣持ってない人はレンタルしたりするから、あるかないか夏休み始まる前までに家の人に聞いたりして調べといて!」


相変わらず、クラスの中心で頑張る委員長が、騒がしい教室内でみんなに聞こえるように声を張り上げている。


「ほんとに浴衣着るんだ…。」

「なんだよ、優そんなに浴衣嫌なのか?なら優だけ違う衣装にしたっていいんだぞ?思いっきり目立つやつ。」


俺の呟きに、なにやら亮太が嫌な提案を持ち出した。


「…目立つやつ?なんだそれ。」

「袴でも来ちゃう?」

「は?嫌に決まってんだろ、浴衣でいいよ浴衣で。」

「えー、おもしろくねぇなぁ。」

「俺に面白さを求めんな!」


ぶつくさと小言を漏らす亮太を軽く睨む。面白さを追求するなら野田にでもなんか着せたらどうなんだ。


「それじゃ、ある程度の事は一応決まったから、明日から本格的に活動開始っていうことで!今日はもう解散な!」


委員長がそう言いまとめ、本日のホームルームは終了した。


「優浴衣持ってんの?」

「…さぁ?俺着たことないからわかんね。兄貴のがあったら借りるけど…母さんに聞いてみないと。」


…嫌だな、母さんに電話すんの。





ここ西ノ森高校は、文化祭にはどの行事よりも力を入れるらしく、野田曰くかなり盛り上がるらしい。

3日間文化祭は行われ、1日目は体育館のステージを使った発表会のようなもので部外者は立ち入り禁止だが、2日目、3日目は一般公開なため、人の多さが半端じゃないとのこと。

そして、学年順位と総合順位がつけられ、総合3位に入ったクラスには賞品が貰えるため、どのクラスも気合いが入るらしい。


「じゃあ調理係窓際、衣装係真ん中、大道具の人廊下側にとりあえず分かれて!あと各係りのリーダー、副リーダーと会計の人はちょっと説明することがあるから俺んとこ集まって!」


今日も委員長が前に出て、みんなを仕切っている。
委員長に言われた通りに皆立ち上がり、指定された場所へ移動する。

亮太や拓真も席を立ち上がるのを見て、俺は思った。

あれ?俺ってどこ行けばいいんだ?

とりあえず俺も席を立ち上がり、委員長に聞きに行こうと、委員長がいる黒板前に向かう。


「なぁ委員長、俺昨日、亮太に宣伝係りって言われたんだけど、その係りはどこに移動すればいいんだ?」

「あー、それね。日高はどこでもいいよ。」

「え?」


いやいやちょっと待て、どういうことかまったく理解できてねえぞ?


「あ、その様子だとあんまり意味わかってないって顔だな。日高には当日ばっちり働いてもらうから、準備は好きなところに入ってくれていいんだよ。」

「………。」


委員長の言葉を聞き、俺の頭は見事にフリーズした。

一体全体俺が眠りこけている間にどんな会話があって今こんな状態になっているんだろうか。
なんで俺だけハミってるんだ。


「おーい日高?大丈夫かー?」


話についていけなくて思考が止まった俺の顔の前に、委員長がひらひらと手をちらつかせた。


「…俺やっぱ当日サボろうかな。」

「それは畑野がキレるからヤメテ。」

「…ははは…。」


委員長の切実なお願いに、乾いた笑いしか出てこなかった。


「ゆうー!ちょっとこっち来いよー!」


顔を引きつらせた状態で突っ立っていると、真ん中の衣装係りが集まった輪の中から、俺を呼ぶ声が聞こえてきて、目を向ければ亮太が手招きをしている。

『はあ。』と大きなため息を吐いてから、俺は亮太の元へ向かった。


「なに?」

「あ、優!今衣装の事話してたんだけどな、優には最終日、法被着て宣伝回ってもらおうって事になったんだけどいいよな!」

「ハッピ?」

「おう、法被。」

「法被かぁ。うん、いいよ。」


寧ろ浴衣より全然良いな、と思い、亮太にそう返事をした。


「おっしゃ、じゃあ決まりな!2日目が浴衣で、3日目が法被!」

「みんな3日目法被?」

「ちげーよ、優だけ。浴衣も法被も用意してたら大変だろ?」


…俺だけ法被?それはそれで嫌だな。


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