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「優!俺今日作戦実行すっから!」


朝、体操服に着替えている俺に向かって、亮太が張り切った様子で口を開いた。

今日は待ちに待った球技大会だ。

1日授業が無いということで、俺は球技大会をそれなりに楽しみにしていた。


「え、作戦って…?てか亮太も早く着替えろよ。飯食う時間なくなるぞ。」


未だ布団に寝っ転がったままの亮太に、部屋にほったらかしにしたままだった亮太の体操服を投げつける。


「俺さぁ、2日前の体育で気付いたんだけどな、……田沼もドッジボールだったんだよねー。これってかなりチャンスじゃね?」


そこで亮太はニヤリと笑った。楽しさが顔から滲み出ている感じだ。


「まさか亮太、顔面でも狙う気か?」

「それも考えたけどな。顔面ってアウトになんねーもんなー。何回もぶつけられるじゃん?」

「それはちょっと…酷じゃね?」

「うん。だから顔は狙わねえよ。怪我人出んのは俺も後味悪いしな。」


亮太の返事を聞いて、ちょっとホッとしたのは内緒だ。


暫し亮太が準備し終えるのを待ってから、いつものように食堂で朝食を食べ、集合場所である学校のグラウンドに向かう。

グラウンドにはおそらく体育委員と運動部の生徒が準備してくれたらしい、サッカーゴールが置かれていたり、ドッジボールのコートの線が引かれたりしていた。

因みにバレーは体育館で行われる。


午前は同学年総当たりで試合を行い、午後は上位2クラスが他学年とトーナメント形式で戦うことになっている。

各クラス最低5試合は必須な上に、試合に勝ち進めばなかなかハードな1日だ。

けれど、拓真情報によると球技大会をサボれば1週間学校回りの清掃というペナルティーがあるため、誰も球技大会をサボらないらしい。おまけに言うとこのペナルティーは、他の行事でも共通のようだ。


グラウンドに人が整列し、集合予定の時間がきたところで、会長である戸谷先輩による挨拶で球技大会の幕を開けた。


体育委員長の言葉やルール説明などを一通り聞き終わり、司会者の合図で各種目の場所に移動した。


一応他種目のクラスメイトを観戦ができるように午前だけは対戦相手がある程度はずらされているから、俺と亮太と拓真はバレーの応援で体育館に来ていた。


「あ、見てみろよ。野田がいるぞ!あいつバレーとかできんのかよ?」


亮太が野田を見つけて、指差してケラケラ笑っている。そんな亮太に気付き、野田が嬉しそうに手を振ってきた。


「知樹はバレー上手いよ!アタックが凄いんだよ。」


拓真が感心したように野田を褒める。


「そういや松本も、野田は運動神経良いって言ってたっけ。」

「へぇ〜。まぁ変態は運動神経良いって言うしな。」

「言わねえよ、誰の名言だよ。」

「俺。」

「じゃあ亮太も変態だな。」


なんてったって亮太の身体能力は、なかなかの賜物だからな。何が凄いかって、腕力脚力は日頃の行いからしてもちろんのこと、反射神経や持久力などもかなり優れている。

あ、でも筋肉はつきにくいとか言って嘆いてたっけ。


「俺は変態じゃなくて天才。」

「変態と天才は紙一重。」

「お、マイ名言返しか?」

「何言ってんだよ、一般論だよ。」

「もう!2人ともくだらない事でなに言い合ってるの?試合始まるよ!!」


拓真のそう言われてしまった後に、試合開始のホイッスルが鳴り響いた。


試合が始まり、バレーボールがネット上を行き来しラリーは何回か続いていた。

しかし、クラスメイトの1人がトスをあげ、そのボールは野田のアタックによって、相手チームのコート内に落ちていった。


相手チームの面食らった表情と周りの歓声が、野田を調子乗らせる。点がこちらに入ると同時に、野田は何かしらポーズを取るのだ。


「お前きめえんだよ!真面目にやれよ!!!」


そんな野田に亮太は野次を飛ばした。


「えぇ!畑野っち今の俺の超スーパーミラクルアタック見てないわけ!?」

「なにが超スーパーミラクルだよ、あんなんできて当然だ!!!」


えー、隣の方が何かおっしゃってるんですけどー…


「亮太…、世の中は亮太が基準じゃねえんだぞ…。俺はあんなアタックできねぇよ…。」


隣で野田を野次る亮太に、俺は少々自嘲気味になりながら亮太に話しかける。

俺はバレーが苦手で、レシーブすればあらぬ方向へ飛んでいく俺の気持ちをわかってほしい。


「えー。野田ごときのアタック受けられねぇ相手チームってへぼくね?」

「おい亮太喧嘩うってんのか!?」

「は!?なんで優キレてんだよ!」

「キレるに決まってんだろ!俺だってあんなアタック受けれねぇよ!!ヘボくて悪かったな!!」

「…優。僕も気持ちすごいわかるよ…。」


俺と亮太の会話を隣で聞いていた拓真が、苦笑いしながら俺を慰めてくれた。

拓真は相変わらずいいやつだ。


そんなくだらない言い合いをしていた間にゲームは着々と進んでいて、野田はアタックをばしばし決めていたようだ。

早くもマッチポイントとなり、俺たちのクラスは野田のアタックのお陰であっさり初戦を勝利で納めた。


「次はサッカーだな。優シュート決めろよ!!てか絶対勝てよ!!」


亮太にそんな命令をされながら、俺たちは体育館を出てグラウンドに移動する。


「無茶言うなよ、確か1組にはサッカー部がいたぞ。」

「あ、でもうちにはマツもいるから大丈夫だよ!」

「あぁ、松本な。確かにあいつサッカーうまいよな。」

「でしょ?マツは中学んときの球技大会ですっごい活躍してたんだよ!!」


拓真の話を聞き、そういえば松本は元サッカー部って言ってた事を思い出した。


「あ!いたいた日高!もうすぐ整列っぽい。」


噂をすれば、松本がこっちに歩いてきた。


「あ、まじ?じゃあ行くか。」


松本の言葉に返事をし、俺達は1組と2組の試合が行われる場所に向かった。





「お前には、顔は負けてるがサッカーでは負けねぇ!!!」


般若面でそう叫びながら、俺の持つボールを奪いに来たのは、言わずもがな1組のサッカー部の奴だ。

さっそくボールに足を出してきて、奪われると思った俺は、間一髪で松本にパスする。


「ダー!!!ちっくしょう!!」


野太い声をあげて今度は松本の方へ向かうサッカー部。俺はホッと胸を撫で下ろした。

びっくりした事と言えば、松本がサッカー部の奴とほぼ互角で戦っていると言うことだ。

上手いなぁ〜。なんてぼんやり考えていれば、またもや俺にパスが回ってきた。


「わぁー!!日高くん頑張れー!!」

「かっこいー!!その調子ー!!」

「日高くんこっち向いてー!!」


…へ?『こっち向いて』…?

俺に言ってる?いやいや無理だろ。
俺今かなり必死なんですけど。


やたら歓声を浴びながら、俺は必死に目の前の敵を1人2人とドリブルで突破していくと、ゴール前にしてまたもやサッカー部が現れた。


「調子に乗るのは顔だけにしときな!」


意味のわからない捨て台詞を吐きながら、真っ正面から向かってくるサッカー部。

頼みの松本はマークされていて、パスを回せる味方が周りには居ない。

仕方なしに一か八かで強行突破を図った俺は、フェイントをかけてからサッカー部の股下に抜いて交わした。


「なっ!!」


面食らったような顔をしているサッカー部を尻目にシュートすれば、案外あっさりとボールはゴールに吸い込まれていった。

キーパーはどうやら初心者らしい。

俺のへなちょこキックでも、初心者にしたら止めるのは難しかったみたいだ。

クラスメイトとハイタッチをしたり、歓声が聞こえたり、サッカー部の悔しそうな顔を拝んだりできて、なかなか気分が良い。


残り時間僅かとなった時、サッカー部は単独であっという間にゴールまで向かい、さすがはサッカー部なだけあって鋭いシュートを放つサッカー部に、キーパーは止められるはずもなく勝負は振り出しに戻ってしまった。


しかし、そんなサッカー部に松本も負けてはいなかった。

点を取られた後すかさず自分でボールを確保し、ロングシュートを放ったのだ。

綺麗に弧をえがくボールは、キーパーの手をすり抜けてゴールに入っていった。


「松本すげー!!!」


思わず興奮して松本の元に駆け寄り、ハイタッチをすれば、松本は照れくさそうに笑っていた。


バレーの時と同様に、俺達は初戦を1対2の勝利で納められ、他の種目の奴らも皆一緒になって喜んだ。


俺達1年2組は、なかなか団結力がある良いクラスだ。


「さーってと、じゃあ次は俺らの番か!!拓真、行こーぜ。」


亮太は恐ろしいほど指をポキポキ鳴らしながら、拓真を連れてドッジボールのコート内に向かっていった。


「う、うん。」


拓真はそんな亮太に、苦笑しながら頷いた。


野田が言っていた『ドッジボールは地味』というのは、あながち間違ってはいなかった。

ドッジボールのコート内は、ガリ勉のような奴や、運動ができなさそうな奴で大半を占めていた。そして、生徒のやる気も無さそうだ。

その中で亮太は、異様な目立ち方をしていた。


相手チームの周りよりはいくらか運動神経が良さそうな奴がボールを放れば、それを透かさず亮太がキャッチし、目にも留まらぬ速さでボールを相手チームのコートに向かって放り投げた。

ボコッと鈍い音がして、相手チームの1人が早くも亮太にボールをぶつけられて、アウトとなった。


あまりのボールの速さに、相手チームは疎か観客まで目を丸くして固まっている。

拓真を含む2組のクラスメイト達は、引き攣った笑みを浮かべている中…


「おっしゃ、1人目〜」


当の本人だけは、楽しげに笑いながら次に来るボールを待っていた。


「ちょっとちょっと!!なにあの剛腕!!怖っ!!」


俺の隣で見ていた松本が、亮太を見ながら興奮したように口を開く。


「なんか自分でマシンガン左腕とか言ってたよ。」

「マシンガン左腕!?なんじゃそりゃ!でも確かにマシンガンだなあれは。自分で言ってるとこがまた恐ろしいわ…」

「あ、また1人亮太にぶつけられた…。」

「………すげぇ。」


いまのところ誰一人亮太の放ったボールを受けられずに、1人…2人…と相手チームの外野に人が集まっていった。

それに比べ、依然として2組の内野は誰一人欠けていない。

それもそのはず、飛んできたボールをすべて亮太が取っているから、ぶつかり様が無いのだ。


「畑野っちいいぞいいぞ〜!かっこい〜!!愛してるー!!!」

「うるせえな!ぶつけるぞクソ野郎!!!」

「や、やめてくださいもう喋りませんから。」


野田のハレンチな声援に、亮太は野田にボールを投げ付ける真似をしながら罵倒した。

そのまま相手チームにそのボールを放り投げ、また1人、と外野に人を集まらせる亮太。

外野の奴らは、また内野に戻ろうなんて思っている人はどうやらいないらしく、その場に座り込んで静かにそのゲームを眺めている。


相手チームが残りの1人になった時、その生徒は泣き出しそうな表情を浮かべて、亮太のボールに大人しく当たっていた。

うん。よく頑張ったよ君たちは。

俺は、相手チームに拍手を送りたい気持ちになった。


「まぁ初戦はこんなもんだな。」


満足気にぼやきながら爽やかに汗を体操服のシャツで拭っている亮太に、『タオルどうぞ』なんて言いながら亮太を囲む男たち。


「はぁ?いらねえよ、なんだよお前ら暑苦しいな。」


ありったけの皺を眉間に寄せて、そう言いながら周りを蹴散らしている。


「亮太にモテ期が来てる。」

「ホントだ。すっげー顔嫌がってるけどな。」


そんな会話を松本としていると、拓真が笑顔でこっちにやって来た。


「ねぇ優、言った通りだったでしょ?」

「うん。ありゃマシンガンだな。」


ドッジボール部とかあったら、亮太は間違いなくエースだ。


1組との試合が一通り終わった後、次の対戦相手は5組だった。

田沼がいる3組と当たるのはどうやらこのクラスが終わってかららしい。1試合目が終わってからの亮太は、やたらと機嫌が悪い。


「なんだよこのタオル気持ちわりぃな。」


そう悪態く亮太が手にしているのは、試合終了時に名前も知らない男から渡されたものだった。


「まぁそう言わずに使ってやれよ、相手からの好意なんだからさ。」

「これは無理だって!だってここちょびっと湿ってるんだぞ?」

「あ、ホントだ。」


亮太が言う場所に触れてみれば、確かに少し湿っている。


「落とし物拾ったふりしてココに置いとこ。」


何食わぬ顔をして地面にタオルを置く亮太を、俺は止めなかった。



球技大会は着々と進んでいき、野田率いるバレー組は順調に2回戦目も勝っていた。

しかし、俺達サッカー組は、相手側にサッカー部が3人いて、俺達は1点は取れたものの3人のサッカー部員を筆頭とするパス回しとドリブルに、見事な負けを見せられた。


「優ちゃんドンマイ!ちょーかっこよかったよ知樹くん惚れちゃっ「アターック!!!」痛ぁーッ!!!畑野っちひでぇ!!痛い痛い痛い!!」


試合終了後、俺を慰めようとしているのか、野田が背後から俺に腕を伸ばしてきたのを、亮太が手に持っていたボールを野田の方向へ強烈にアタックし、制止させた。

ちょっと方向がずれていたら俺に当たっていたかもしれねぇから恐ろしいな。コントロールまで良いなんて。


「お前が優にセクハラしようとするからだろ。」

「でも顔狙うのはひでぇよ!!俺のビューティーフェイスが!!」

「あぁ?顔面ウンコ野郎が言ってんだよ。」

「ゥ…、ウンコ………!」


亮太の言葉に、野田は本気で傷付いた表情をしている。でも顔面ウンコなんて言われたらそりゃ落ち込みもするよな。


それから、相変わらずの腕っ節で今度は5組に圧勝する、亮太率いる2組ドッジボール組。

観客は皆口々に、亮太を褒め称えていた。


「僕のタオル使って下さい!!」

「いいや、俺のタオルを!!」

「お茶どうぞ!ぼ…僕の飲みさしですけど…」


再び亮太の周りには、見ていた観客がうじゃうじゃ集まっていく。


「いらねーよ!!暑苦しい散れ!!」


顰めっ面で身を捩らせながら人と人の間を抜け出そうとする亮太に見兼ねて、亮太の元へ向かう。


「亮太、水飲むだろ?」

「おぉ優サンキュー!」


亮太の側へ行きペットボトルを渡せば、亮太が笑顔になり一安心する。

だって亮太の不機嫌顔はこえーからな。何か仕出かしそうな気がして。


「さぁーてさて、次はお待ちかねの3組との勝負だなー。優絶対負けんなよ!」


待ってましたとばかりに、やたらニコニコな笑顔を浮かべる亮太。


「え、田沼はドッジボールだろ?」

「そうだけど全部勝ちてぇじゃん。あいつのクラスには。」

「…まぁ最善は尽くすよ。」


さっき負けたから、次は俺だってできれば勝ちたい。





もちろん、と言うかやっぱり、と言うか、バレー組は3組に勝っていた。流石野田!とでも言ってやらん事もない。


松本情報によると、3組にサッカー部は2人いるらしい。

「でも俺より下手だ。」と松本は自信を持って言っていたから、ひょっとすると勝てるかもしれない。

ホイッスルが鳴り、ゲームが始まった。

松本は相変わらずの上手さで、1人、2人と交わしていく。

そのままゴールいけんじゃねぇの?って思ったところで、松本の前には2人敵が現れ、松本のドリブル突破を阻止する。一目見ただけでそいつらがサッカー部だと分かった。


「日高!!」


松本が俺にパスを回し、ボールをもらう。ゴール近くまでボールを持っていき、シュートしようとしたところで、サッカー部の1人が俺の足に自分の足を引っ掻けてきた。


「うわ…っ」


前に倒れそうになったがとりあえず持ち堪えて転けずに済んだ。

そのまま相手にボールを取られたから、ホッと一息つく暇なんて無い。


「ゆうー!大丈夫かぁー?」

「おう!」


転けかけた俺を心配する亮太の声が聞こえて、返事をする。


「絶対勝てよー!!!」

「ぉ、…おう!!」


返事はしたものの…
物凄く自信がない。

頼みの松本は今、サッカー部2人を相手にボールの取り合いをしていた。

いくら松本が上手くても、サッカー部2人相手はさすがに無理があるらしい。

俺は、サッカー部2人に挟まれる松本からパスを貰おうとそちらに向かうと、今度は松本が足を引っ掻けられ、地面に突っ伏した。


「いって…ッ」

「松本!!大丈夫か!?」


顔と膝を打ったらしい松本が、そこを押さえながら立ち上がろうとした。


「やべ、足挫いた…」

「まじかよ!?大丈夫か!?」

「松本わりぃ、足出ちまった〜」


松本の足を引っ掻けたサッカー部の1人が、わるびれる様子も見せず松本にそう言った。


「お前、わざとだろ。さっきも俺の足引っ掻けたよな?」

「は?何言ってんの?つーかそうカッとすんなよ!かっこいい顔が台無しだぜ?」

「お前何言ってんだよ。」


「はーいはい、優落ち着けって!松本、大丈夫か?」

俺とサッカー部が揉めてるところに、観客に混じっていたはずの亮太が側に寄ってきた。そんな亮太に、審判をしていた生徒はおどおどしている。


「あぁ、ちょっと足挫いた…。」

「大丈夫かよ?俺代わりに出るわ。ビブス貸せ!」

「え、選手交代していいのかよ?」

「いいよな?審判!」

「あ、あぁ、やむを得ないからな…。」

「おっしゃ!じゃあ松本俺に任せろ!!3組には絶対勝たなきゃなんねえからな!」


亮太はやる気満々で、松本から受け取ったビブスに腕を通した。


「亮太いいのかよ?この後ドッジだろ?」

「あーいいのいいの。それはそれ、これはこれ。」

「…亮太がいいなら俺は何も言わねぇけど…」


松本の代わりに亮太が入ったことで、ゲームは再開された。


「優、俺サッカーあんまりできねぇからロングパスメインで優がシュートな?」

「え、あ、うん、分かった!」


亮太が作戦らしき事を俺に言ってきたから、とりあえず俺はゴール付近で待機する事にした。


その場でうろうろしていると、さっそく亮太は敵からボールを奪ったらしく、思いっきりこっちに向けてボールを蹴った。


「うわっ、すげぇ勢い!」


飛んできたボールを、胸で止め、地面に降ろしてからゴールに向かってシュートを放てば、ボールはすんなりとゴールに入っていき、俺はホッと一息ついた。


「優ナイス!!」

「亮太もな!」


そんな言葉を交わしながら、再び俺はゴール付近で待機する。
だが、敵が2、3人、俺を徹底的にマークし出した。

やばい、と思い亮太を見れば、亮太はマークされた俺に気づいたらしく、荒っぽく敵からボールを奪い、そのまま凄い勢いで真っ直ぐゴールに向かい、ドリブルしてきた。


うわ、亮太ドリブルも速っ…

なんて思ったのも束の間、ゴールから数メートル距離があるにも関わらず、亮太はミドルシュートを放つ。
脚力の強い亮太が蹴るボールを、誰も止める事ができずにゴールに納まる。

反撃しようと攻める3組だが、試合終了のホイッスルが鳴り響き、驚くことに勝負はあっさり2組の勝利となったのだった。


「亮太サッカーできねぇとか言いつつ、できてるじゃん!」


凄かったぞ!と亮太を褒めるが、亮太は何故か苦い表情を浮かべる。


「俺のドリブルもシュートも単なる勢い任せなだけで、サッカー部とか松本とかみたいな技術じゃねぇし。これが球技大会だったから勝てたもんだよ。

それよりアイツら、優と松本に足引っ掻けるとか、まじうぜえよな。」


サッカー部のくせに卑怯だ!と、俺の足を引っ掻けたサッカー部を睨みながら悪態つく亮太。


「やっぱ亮太はすげぇよ。まじ凄かった。さっきのドリブルもシュートも。」

「……優の方がうめぇじゃん。

あ!!ドッジの奴らもう集まってる!!!じゃあな優、俺の本気のドッジ楽しんで見とけよ!」


2組と3組のドッジボールの生徒がコート内に集まってきているのに気付いた亮太が、慌ててコートに向かって行った。


…ん?ちょっと待てよ、
『俺の本気のドッジ』…?

おいおい。俺はてっきり、今までで十分本気出してたと思ってたぞ。これ以上暴れる気か。


つーか俺、その前に然り気無く亮太に褒められた?

……褒められたな?

聞き間違いじゃなけりゃ、俺、亮太にサッカーうまいって褒められたよな?

うわ、なんか亮太に言われたらすっげぇ嬉しいんですけど。


…なんて俺が浮かれている間に、2組と3組のドッジボールが既に始まろうとしていた。

亮太はさっそくボールを手にしている。

相手側のコートには、そんな亮太を睨み付けている、田沼が居た。


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