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季節は春から夏に変わり始めようとしていた。肌寒さは無くなり、ぽかぽかとあたたかい気温になりつつある。
数日前、拓真を目の敵にしていた濱崎らだったが、今では普通に仲良くやっているようだ。
俺もたまに話したりしている。
平穏な学校生活を送っていた。
今は休み時間に次の授業で行われる英語の単語テストの勉強をしているところだ。
休み時間はいつも亮太がうるさいくらいに喋っているのだが、今はトイレに行っているため、なにぶん静かに勉強できている。
覚えた単語を忘れないように、何回も繰り返し単語を書く。今回の単語は綴りが長いものばかりで難しいな。なんて思っていると…
「こんにゃろうっ!!!」
バンッと俺の机に掌を打ち付けて、トイレから帰ってきた亮太が声を上げた。打ち付けた掌と机の間にはなにやら白い封筒のようなものが挟まっている。
「なっ、…なんだ、亮太?」
いきなりのことで肩がビクッとなり、シャーペンを持っていた手が止まる。
「なんで俺にこんなもん預けんだよ、自分で渡せばいいものを!!」
ほらよ。と亮太に思いきり悪態つきながら白い封筒を渡された。
受け取った封筒に目を向けるが、差出人は書いていない。
「これ誰から?」
「知らね。なんかすげえ陰気そうな奴に渡された。すっげーおどおどしながら優に渡してくれってさ。」
亮太の言葉にふぅん、と頷く。
差出人も書いてない封筒の封を開けるのって、なんだかちょっと怖いな。
「早く中見ようぜ。絶対ラブレターだって!」
ウキウキとした様子で俺に封を開けるように促す亮太は、完璧に俺宛の手紙だというのを関係なしに手紙を読む気満々だ。
「亮太も読むのかよ?俺宛だぞ?てか殺人予告とかだったらどうしよう。」
気は進まないが、のりでしっかり閉じられた封筒の封を、丁寧さの欠片もなくビリッと破いた。
中に入っていたのは封筒と同じく白い便箋が1枚。
二つ折りにされた便箋を広げる。
広げた便箋をじっと眺める俺と、覗きこむ亮太。
『今日の放課後、特別棟の校舎裏で待ってます。』
広いスペースのある便箋に、その内容が一行だけ。ポツリと記されていた。
「なんかこれ…、怖くね…?」
読んですぐさま、便箋を封筒に仕舞う。
「そうか?ただの告白するための呼び出しだろ?」
俺の意見に、あっけらかんと答える亮太。
「優はおモテになりますね〜。」
そう茶化すように言いながら、休み時間終了のチャイムが鳴り響くのと同時に亮太は席に着いた。
「こんな内容が告白しようとしてる奴の呼び出しの手紙だと思うか?」
間もなく授業が始まるが、俺は前の席に座る亮太に後ろからコソッと話しかける。
「何シリアスになってんだよ。あ!!つーか今日単語テストの日じゃん!やっべ!!俺覚えてねぇよ!」
ハッと単語テストの存在を思い出した亮太だが、時既に遅し。亮太が思い出したその時には英語の先生の手によって単語テストプリントが配られていた。
俺はと言えば、せっかく覚えた単語も覚えかけていたものも、すべて曖昧にしか書くことができなくて、あの便箋に書かれた内容が、頭の中をぐるぐると巡っていた。
つーか、今日の放課後待ってるって……俺の都合は無視か?もし用事とかあったらどうすんだよ。差出人書いてないから断れねえじゃん。
っていっても、用事なんてもともと無いんだけど。
特別棟の校舎は、滅多な事がない限り一般生徒が立ち寄らない場所だ。
主に生徒会や委員会などで使われる校舎で、俺は入学してからこの校舎に入った事すらない。
ましてや特別棟校舎裏となれば、未知な領域だ。
誰かもわからない奴から、こんなところに、しかも手紙での呼び出しなんて、ぶっちゃけ気持ち悪くてしょうがない。
俺は、行くのを悩んだ。渋った。もう、行かなくていいか。用事があった事にしておこう。
なんて考えたが、亮太に阻止された。
「告白くらいさせてやれよ」と言われた。
俺も本当は興味あるけど、さすがに行けないしなぁ。とぼやく亮太。放課後、俺を置いてとっとと寮に帰っていった。
はぁ。と深くため息を吐きながら、特別棟校舎裏に向かった。
木が数本と、雑草が生えた校舎裏。
幸い、薄暗く気味が悪い事はなくてホッとする。
警戒しながら足を進めていけば、人影が見えた。
ん……?誰だ?あの人。
俺のまったく知らない人間。
一度も会った事がない人間だ。一度会えば忘れないような…、金色の髪をした奴がそこにいた。
あれ?確か亮太は、陰気そうな影薄そうな奴から手紙を受け取ったと言ってたな。
じゃあ、あの人は別に違う用でこの場所に…?
そんな事を思っていると、名前が呼ばれた。
「日高くん。」
やけに整った顔に白い歯を見せながら笑みを浮かべて、その人はこちらに歩み寄ってきた。
一言で言えば、王子様。ぷっくりとしたようなズボンに白タイツと王冠が似合いそうなそんな奴。
「わざわざ呼び出してごめんね。」
俺の前で立ち止まり、話し始めたその人。
確か手紙を渡したのは陰気そうな奴の筈だが…。
コイツのどこが陰気と言えるだろうか?いや、言えない。むしろ物凄く派手だ。
「誰?」
単刀直入に言うのが手っ取り早いと思い、尋ねる。
「おっと、僕を知らないのか!こりゃ失礼。僕は、2年6組18番、次期生徒会会長候補の戸谷 俊哉(とだに しゅんや)。よろしくね?」
手なんか出してきて、握手でも求めているのだろうか。
詳しく自分を自己紹介したその人は、なんと俺の年上だとは少しびっくりだ。次期生徒会会長とはセールスポイントだろうか。
「あの、俺に何の用でしょうか?」
「うん。やっぱり君は、噂通りかっこいいね!イケメンだね!素晴らしいよ!」
「はい?」
話が見えない。何が言いたいんだよこの人。っていうか俺は今まででに接したことのないタイプの人だな。
「是非、僕の片腕になってほしいんだ。」
「はい?」
「副会長だよ!なってくれるよね?」
「いやなりませんけど。」
話は謎な方向に進みまくりだ。
この人いきなりわけわからないこと言ってる自覚ねえのかな?
「なにっ!?会長の頼みを断るのかい!?」
いや、あなたまだ会長じゃなくない?
「てかなんで俺が副会長ですか?まだ入学したての1年ですよ?」
おまけに頭もあまり良くないし。
俺に副会長を任せる理由が見当たりませんが。
「…それはだな、僕は君を隣に置きたいと思ったからだよ。」
胡散臭いほどの笑みを浮かべた先輩が、そう言い放った。勝手だなー、この人。とてもじゃないけど、ついていけそうにない。
「すみませんがお断りします。」
では。と先輩に背を向け踵を返す。
が、しかし。
「待ちたまえ日高くん。」
後ろから声がかかり、肩を捕まれ帰ることができなかった。
「今週末に生徒会選挙があるんだ。僕はそれで、当然会長になるよ。」
「……………。」
「そしたら僕は、君を副会長に推薦するよ。」
「いや困ります。」
「会長からの推薦は断れないよ?」
「あなたまだ会長じゃないでしょーが。」
「今はね。」
そう言って先輩は、バチンとウインクしてきた。
え、今ウインクするタイミングだった?なんか今のはかっこ悪かったですよ…。
…あぁ、だめだ。もう話についていけない。
「とにかく、俺副会長とかやりませんから。まず俺には勤まりませんから。俺馬鹿ですから。じゃ、失礼します。」
この人に流される前に、何か言われる前に、俺は素早く立ち去った。駆け足で。
俺が副会長なんて、想像しただけで気持ち悪い。てか想像すらしたくない。できない。
俺は、気儘に平和に、がモットーなのだ。
俺の平和が、失われてしまう。
*
「あ、おかえり優。どうだった?やっぱ告白?」
部屋に帰れば、俺のベッドにごろんと横になって漫画を読んでいる亮太が問いかけてきた。着々と増えていく亮太の私物のせいで俺の部屋なのに散らかりまくりだ。
「ただいま。告白じゃねえよ。つーか告白より質悪いのだった。」
「え、まじ?なになに?」
読んでいた漫画を閉じて、興味津々で聞いてきた亮太。
「自称会長候補の先輩が、俺に副会長やってくれって。まじ意味わからんこと言われた。」
「へ?なにそれ、確かにそれは意味不明。優1年なのに副会長やんの?」
「やるわけねえじゃん。」
「うん。だよな。よかった。」
そう言ってまた亮太が漫画を読み始めた。
「よかったって?」
「ん?いやぁ優が生徒会とか入ったら、忙しくなりそうだしつまんねーじゃん?」
漫画に視線を向けたまま話す亮太。
なかなか嬉しいこと言ってくれんじゃん!と俺は亮太の髪の毛をグシャグシャとかき回した。
「なにすんだよ!髪抜けんじゃねーか!!」
「いや亮太が可愛い事言ってくれるなぁと思って。やっぱご主人様が忙しいと嫌だよね〜。」
冗談半分でそう言ってやると、亮太の顔がボボッと赤くなった。久しぶりにツンデレ亮太が見れそうだ。
「お前いい加減ご主人様キャラから離れろよ!」とか言って騒いでいる。
「残念ながらそれは無理だな。俺は柴犬とチワワのご主人様だから。」
「意味わかんねえよ!!!」
「いてッ!!」
ペシンと亮太にデコピンされた。痛い…。
「何してるの……?」
騒がしくしすぎたせいか、拓真が部屋の戸をおずおずと開けて様子を伺ってきた。
「あ、拓真。ちょっとね、このわんちゃんを飼い慣らしてたんだよ。ホラ、ヨシヨーシ。」
「だから犬扱いすんな!!」
拓真はそんな俺達のやり取りを見て、「仲良いね…」と半ば呆れ気味で言いながら、苦笑いで自室に戻っていった。
この時の俺は、“副会長”なんて言葉、もうとっくに頭から抜け出ていた。
*
戸谷先輩の言っていたとおり、今週末である今日、生徒会選挙は行われた。
体育館にクラスごと、縦一列になって座らされる。
前に座る亮太が、さっきからずっとこちらを向いてベラベラと話しているのを、俺は適当に相槌を打って聞き流す。
内容の幾らかが野田の愚痴で、あとはダルイだの眠いだのそんなんばっかだ。俺だって眠いっつーの。
「それではこれから、生徒会選挙を行いたいと思います。」
司会者らしき生徒が体育館の舞台に立って話し始めた。
「ってオイ!!優寝んなよッ!!」
生徒会選挙が始まったと同時に目を閉じた俺に気付いて、亮太がガクガクと俺の肩を前後に揺すった。
「まずは立候補者の演説です。」
結局亮太に邪魔をされ、寝れず仕舞いだ。
舞台に目を向ければ、立候補者がずらりと横一列に並んでおり、1人1人順番に「より良い校風をつくるために」など、ありきたりな台詞を言っている。自ら生徒会に立候補するなんて物好きだな…と思いながら、眠くて眠くて堪えきれなくて大きな欠伸を一つした。
「次は、前生徒会長からの推薦である戸谷 俊哉くんの演説です。ではどうぞ」
辺りが若干ざわめいて、あの目立った容姿をした先輩が舞台に登場した。
司会者からの“前生徒会長からの推薦”という言葉を聞いて、自信過剰だったのはここからか…。と、やっと謎が解けたような気持ちになった。
「優が言ってた自称生徒会長候補の先輩ってあの人だよな?前生徒会長からの推薦とかやばくね?もう決まったも同然じゃん。」
「え、なんで?」
「そりゃあそうだろ、前会長が推薦してんだぜ?他にだれが会長やりたがるんだよ?」
「まぁ…そうだな。じゃあ亮太会長に立候補してよ。」
「え、なんでだよ、わけわかんねぇよ」
「おもしろそうじゃん。亮太が会長。」
「おもしろくねぇよ。」
「あの先輩と対決しろよ。」
「もう遅いだろ。立候補者の演説さっき終わったじゃん。」
「あ、そっか。つまんねえな。」
「つまんなくねーよ。」
「…ひ…くん………日高くん!………日高 優くん!!!早く壇上に上がって下さい!!!」
「「え?」」
司会者にマイクを通して、名前を呼ばれた。と言うより、叫ばれた。
え、何故?壇上に上がれって。
…え、なんで?
亮太と顔を見合わせて首を傾げる。
「優、話し聞いてなかったの!?戸谷先輩が優を副会長に推薦するって言い出したんだよ!!もう!!喋ってる場合じゃないよ!!!」
後ろから焦ったように、拓真が俺達に説明してくれて、俺はとっさに舞台に立つ戸谷先輩を見た。
すると、ニコニコと笑った先輩とバチンと目が合った。確実に先輩はこっちを見ている。
どんだけ視力良いんだよ、なんて思っている場合ではない。
だから俺は、副会長なんかやらないって、ちゃんと断ったはずだ。
「優、早く行った方が良さげじゃね?」
周囲から突き刺さる視線や騒めきに、亮太が戸惑ったように言ってきた。
仕方ない。とりあえず行くしかないな。と立ち上がり、亮太の首根っこを掴んだ。
そのままズルズルと亮太を引き摺って壇上を目指す。
「うぉいッ!!!なんで俺まで!!つーか離せよ!!!首締まる!!」
「道連れ。」
「俺行く必要ねえだろ!!!」
「俺一人で行くの嫌だし…」
言うならば動物園にパンダを1匹放り込むよりは、2匹放り込んだ方が目立たずにすむという考えだ。…あれ、結局目立つには違いないか。
「痛ぇ!痛ぇ!!」と痛がる亮太を、結局最後まで引き摺って壇上まで連れてきた。
「…あ、日高くん、マイクどうぞ。」
司会者が亮太の姿を見て驚きながら、俺にマイクを渡してきた。
マイク渡されて何すればいいんだろうと固まっていると、戸谷先輩から「日高くん、演説よろしくね!」と声がかかった。
ふと視線をずらすと、未だ俺に首根っこ掴まれている亮太が、容赦なく俺を睨んでいる。
そんなに睨んでも離さないのに。
「俺は副会長なんてやりません。どうしても、って言うなら、この畑野 亮太くんが会長になるのなら俺は考えてもいいです。」
「おまッ!!!」
「何言ってるんだいセニョリータ!会長は僕だよ!そして君は副会長!!」
セニョリータってあんた…。
それ素で話してんのか?
「だから俺は副会長なんてやりませんってば。」
「てか副会長に立候補者3人もいるんだからそっから決めろよ。」
副会長を断わる俺に続けて、亮太がムスッとした口調で言い放った。依然、俺を睨んだまま。
しかし亮太、ナイスな事を言ってくれたな!が、首根っこは離さないぞ。離したら逃げられるのは確定だ。
「立候補者の3人には悪いけど、僕は日高くんを副会長の位置に置きたいんだ。学年なんて関係ないよ!それに、副会長を決めるのは会長の特権だと思わないかい?」
ねぇみんな!と、生徒一同に同意を求める先輩。
だからなんで俺が副会長なんだよ。
ざわめく体育館と睨む亮太に俺は居た堪れない気持ちになった。
「優を副会長にしたいっていうのは単なるお前の我が儘じゃん。てかいくら会長の推薦っつっても優には断わる権利くらいあると思うんですけど。つーかその前にまだお前会長じゃねえじゃん。」
亮太がマイクの声にも負けない声量で言い放つ。
俺はその亮太の意見に、うんうん。と頷いた。
さすが亮太。やはり亮太をここまで引き摺ってきた甲斐があった。
「うーん困ったなぁ。僕、君には勝てそうにないよ。………うん。じゃあこうしよう!僕は当然会長!日高くんは副会長!そして、畑野くんには書記をやってもらうことにするよ。」
「はい!?」
俺と亮太を含め、その場にいるほとんどが皆、唖然とした。
「おい待てや!!俺が書記だって!?ふざけんな!!お前知らねえだろ、俺の字は破滅的に汚ねえんだぞ!?つーかこんなんで役員が決まったら始めから選挙なんて必要ねえだろーが!!」
「………時間が限られてますのでそろそろ投票の説明に移らせていただきまー…す。」
「シカトかよ!おい優!!お前が俺を巻き込んだんだから、ボケッと突っ立ってねーでなんか言えよ!!!」
「いてっ」
亮太にげしっと尻を蹴られた。痛い…。
俺達を置いて、どんどん話は進んでいく。
「では、このあと投票用紙を配りますので、各役柄に一人ずつ、名前を書いて四つ折にしてから、クラス委員長に提出して下さい。
尚、緊急役員候補者の1年2組、日高 優くんと、同じく1年2組、畑野 亮太くんに票を入れる場合は、名字だけで結構です。」
司会者が、つらつらと説明を述べる。
ニコニコと笑う戸谷先輩と目があった。
あぁ、俺が今更この人に何言っても、もう物事はどんどんあらぬ方へ進んでいっていると思うと、なんだか力が抜けてしまった。
「…つーか今考えたら、優は別としてまず俺に票入れる奴なんていないよな。だって俺、字汚ねえしな。あいつ、考え方が馬鹿だな。」
ハッと鼻で笑う亮太に、それもそうかと思った。そうだよな、“選挙”なんだから生徒の票が無いと役員にはならないんだよな。と少しホッとした。
だって、俺まだ1年だし。
亮太だって字汚ないんだし。
まず俺達に票入れる奴なんていないよな。と高を括っていた。
良からぬ事は考えず、とりあえずもとの自分たちの場所に戻り、説教してくる亮太に謝りまくって、「俺の部屋で居候させてあげてるだろ」という言葉で大人しくなったことにひとまずホッとして、そのまま生徒会選挙は終了した。
*
翌日の朝、 学校に登校すると、“生徒会選挙結果”とでかでかと書かれた紙が掲示板に貼られていた。掲示板の周りは生徒でごった返しになっている。
「なぁ亮太。一応掲示板見とく?」
「は?見る必要無くね?どうせ生徒会なんてやらねーんだし。」
亮太の言葉に、それもそうか。と、生徒で溢れかえっているそこを尻目に足を動かす。
「ね、ねぇ…なんか2人ともすごい見られてるよ…?」
拓真が遠慮がちに口を開いた。
まさか。と思って辺りを見渡せば、居心地が悪いほどジロジロと見られている。
そんな数々の視線に、俺は嫌な予感がしてきた。
「なぁ亮太…、やっぱ掲示板見てみよ。」
「はぁ?なんでだよ。」
「とりあえず見るだけだから。」
嫌がる亮太を引っ張って、大勢の生徒が群がる掲示板近くまで来れば、近くの生徒たちに思いっきりガン見された。
おまけに頼んでないのに掲示板の真ん前までの道をあけてくれる生徒たち。
【 生徒会選挙結果
会長 戸谷 俊哉(2-6)】
その文字は、当たり前のように書かれていた。問題はその下だ。
「…………やっぱり。」
嫌な予感が見事当たってしまった。
できることなら、錯覚であることを願ったが、それはやはり叶わぬ願い。
【 副会長 日高 優(1-2)】
確かに紙に書かれた俺の名前。
「ちょっと待てよ…なんで俺が…。字汚ねぇっつってんだろーが…。なんで俺が……。立候補者にやらせろよ…。なんで俺が…。俺望んでねぇぞ…。だから俺字汚ねぇっつってんじゃん…」
呆然と立ち尽くしたまま紙を眺る亮太が、ぶつぶつと呟いている。
【 書記 畑野 亮太(1-2)】
間違いなく投票結果には、こう記されていた。
「あ、優ちゃん畑野っちオッハー!生徒会入りおめでと〜!!言っとくけど、俺、2人に票入れてやったんだぜ、感謝しろよ!!」
教室に足を踏み入れたところで、野田が現れて、何故か誇らしげにペラペラと話している。
「は?何お前、俺に票入れたとか正気?それ、殺してくださいって言ってんのと同じだぞ?つーか回りくどい事してねーで殺してくださいって言いにこいよ、なぁ?と・も・き・く・ん?」
「……や、やべぇ。畑野っちに殺される…。優ちゃん助けて!!」
腕を野田の肩に回して話す亮太に、あのチャランポランな野田が本気で怯えている。
助けてって言われても。
野田が余計な事を言うから亮太がキレて当然だ。
俺と亮太に票入れたとかまじで野田はどうしようもない馬鹿だな。俺達が舞台で言ってた事コイツ聞いてなかったのかよ。
「ッッダァァァァァー!!!」
亮太に股間を蹴りあげられた野田の叫び声が、まもなく教室中に響き渡った。
「なんだ野田、朝から騒がしいな。ちょっとは大人しくできないのか?」
野田が叫んでいる最中、丁度富田先生が教室に入ってきて野田を呆れた表情で見る。
「あ、なぁタミオ。コイツ窓から落としていい?」
「うーん、そうだね。そうしたら静かになるかな?」
「タミオまでひでぇ!!!」
顔をひきつらせる野田に、亮太と富田先生は一致団結したように、野田をからかいまくっていた。
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