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俺はいつも以上に力一杯空気を吸い込み、「むっ!」と息を止めた。

透明人間になれると言っても、実は息を止めている間しか透明になることができない。息を吐いてしまうと俺の身体は元に戻るが、また息を止めれば良いだけの話。今までそうやって気楽に覗きを繰り返していたが、今回はそうも言っていられない。

姿が一瞬でも奴らに見えてしまうと、何をされるか分からない。命懸けで透明人間になるのは生まれて初めてなのだった。


暴走車が突っ込んだ民家は窓のガラスが割れ、強盗に入られている。最低な奴らだ。いつもならダーヤ一族が放っておかないというのに、この世はすでにそれどころではなくなってしまっている。


俺は身を潜められるところへ移動しながら何度も息継ぎをし、暴走車の中に侵入することに成功した。


暴走車の天井には、ソーラーパネルのような装置が取り付けられている。ダーヤ・ルイの落雷に打ち勝つ装置は恐らくこれのことだろうな。


俺はポケットからスマホを取り出し、カシャ、と撮影した。


「誰だ!?」

「やっべ。」


透明になれても音は聞こえるんだった。一瞬息を止めるのをやめてしまい、俺の姿がスッと奴らの目に写ってしまい、俺はまた慌てて息を止めた。


「車の中に誰か居るぞ!?」

「なに!?探せ!!!」


車の外へ透明人間のまま逃げ出したが、息を止めながら走るのは無理がある。


「いたぞ!あいつだ!!!」

「取り押さえろ!!!」


やばいっ!!俺の人生、ここまでか!?
せっかく透明人間という力を手にして生まれてきたのに!まだもっともっと、俺は覗きをしたかったのに…!!!


そう思ったのも束の間、俺の目の前には眩い光と共に一人の青年が姿を現した。


「お前らバカだな〜、車から出たら普通に攻撃受けんじゃねえの?なんだっけ?えーと、確か、ミラーエナジー?」

「なっ…!」

「やばい!ダーヤのリトだ!早く車に戻れ!」


焦り始める奴らを前に、青年はニタリと笑いながらピッと何かを弾き飛ばすように奴らに向かって人差し指を向けた。するとそこからくるくると小さな渦が発生し、それは次第に大きくなってゆく。


これはあの有名な、ダーヤ・リトの竜巻だ。

つまりこの目の前の青年が、ダーヤ・リト…


「うわああああ!!!!!」

「やめてくれ!!!ダーヤー!!!!!」

「こうなると分かっててやってるんじゃねえのか?バカなのか?言っとくがお前らはまだ運が良い。兄貴の雷じゃなかっただけマシだと思え。」


ダーヤ・リトはそう言いながら、最後にブン、と奴らを吹き飛ばした。そして地上に落下し、ぐったりする奴らにハッと鼻で笑いながら、奴らが乗っていた車に移動する。


「ほ〜?この車で俺らとやり合おうってのか?ガチで馬鹿げてるな。」


運転席の扉を開け、中を覗き込んだダーヤ・リトは、そのまま運転席に腰掛けた。

…え、ダーヤ・リト運転できるのか?


「ゾーモリも乗れよ。」

「えっダーヤ様が何故俺の名前を…!」


これは多分、喜ばしいことではないのだろうが、俺の名前を知っていたダーヤ・リトに喜びながら助手席に乗り込むと、ダーヤ・リトはその次に恐ろしいことを口にした。


「そんじゃ行くぜ〜初ドライブだぁ〜!!!」


楽しそうなそんな声と共に、ダーヤ・リトは車を急発進させた。同時に俺の背筋からは、ダラダラと滝のような汗が流れた。やばい、俺、次こそ本当に死ぬかもしれない。


まるでゴーカートにでも乗っているような感覚でいい加減に車を運転しているダーヤ・リトは、1台の暴走車を見つけてニタリと笑いながら暴走車に向かっていった。


「待て!やめろ!ぶつけるなよ!?」

「俺に指図すんな、覗き野郎の分際で。」

「それもそうだが。…いやしかしだな!!!ああああ!!!」


ダーヤ・リトは、見事に暴走車の方に突っ込んで行き、ガン!と煽るように車ぶつけやがった。


「なんだ!?どこのやつだ!?」

「なにしやがる!喧嘩売る相手間違ってんぞ!」

「え〜?間違ってないよ〜ん。」


ダーヤ・リトは相手に向かって生意気に舌を出しながら、ぴょい、と車から降りた。


「なーんかザコの相手一人一人すんのもだりぃな。おいリナ、ちょっとこっち来いよ。」


突然ダーヤ・リトは誰かに呼びかけるようにそう口にすると、再び眩い光が現れ、今度は美少女が現れた。


「うおおおお!!!!!クサカ!?クサカあああー!!!!!この子は間違えようもない!ダーヤ・リナ様だ!!!!」


見て一瞬で分かるほどの美しさ…!カシャカシャカシャ!!!と俺はすぐにスマホを取り出し、クサカに見せてやるためにダーヤ・リナ様を連写した。美しい…美しすぎる…!


「も〜なに呼んだぁ?せっかくお菓子食べながらリトの暴走見てたのに。」

「この暴走車の天井に兄貴の雷対策の装置が取り付けられてる。つまり奴らは、上からの攻撃しか跳ね返すことができねー。」

「うん。それで?」

「お前が横から突風を吹かせて、こいつらの車を横転させていけ。」

「なるほどね〜。うん、いいよ〜。むかつくしやっちゃおっか〜。」

「やっちゃえやっちゃえ〜。」


ダーヤ・リト、それにダーヤ・リナまで、まるでこの現状を楽しむように笑いながら、竜巻を起こし、突風を吹かせた。

そしてダーヤ・ルイが降らし続けていた雨は横殴りの雨となり、そこはまるで、台風の目のようになっていた。


…え、これやばくね…?

俺は無事に、生きていられるのだろうか。


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