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「あ、夏木 光見つけた。」


ゆずちゃんと体育の授業が終わった後、教室へ帰ろうと廊下を歩いていると、風紀委員長がまるで俺を待ち伏せしていたかのように廊下の壁に凭れて立っていた。


「なんか用ですか?」

「冷めた面しやがって。お前あのメールなんなんだよ。」

「…ああ。なにって、そのまんまの意味ですけど。言っといてくれました?」

「言ってねーよ。お前俺のことなんだと思ってるんだ?」

「え、なにって。風紀いいんちょさんでしょ。」


なにを分かりきっていることを聞いてくるんだと、やや眉間に皺を寄せながら答えると、風紀委員長は一歩俺の方へ詰め寄った。


「気に食わねえな。目上の人に物を頼むのにメール1通で済むと思ってんのか?」

「え、じゃあどうしたら良いんです?」

「俺の元に頼みに来るんだよ。」

「……ああ、なるほど。

………あ〜!ちょうど良かった、風紀委員長さんお願いがあるんですけど、ゴリラに佑都のカッターシャツ弁償するよう言っといてください。では。」


俺はわざとらしくいかにも風紀委員長に今出会ったかのような言い方をして、風紀委員長に背を向けた。

だって直接頼めば問題ないんだろ?


しかし風紀委員長はまだ気に入らないことがあるのか、「待てよ。」と俺の手首を掴んでくる。


ちょっとうざったく感じ、思わず風紀委員長を睨みつけると、風紀委員長は「やっぱりそれがお前の本性だな?」と俺を食い入るように見つめてきた。


本性?一体何が言いたいのかイマイチよくわからず、俺は風紀委員長ににっこりと笑いかける。


「すみません、よく分かりませんがよろしくお願いしますね。あのゴリラの所為で佑都が不便な思いするの俺嫌なんで。」

「ならお前があいつに言いに行けよ。」


…と風紀委員長はそう言ったあと、「あっ…」と少しまずいことを言った、というような表情を浮かべた。


「……そうですね。俺が言いに行きます。すみませんでした。」


そうだ、なにも風紀委員長に頼まなくたって、俺が直接言いに行けばいいじゃねえか、と思い、俺は風紀委員長の腕を振り払って再び背を向けた。


その後の風紀委員長の表情は見ていないから、どういう思いを俺に抱いたのかわかんねえけど、しかしさきほどの俺の返答が原因なのか、どうやらめんどくさいことになってしまったようだ。


いつあのゴリラに言いに行ってやろうか考えていた昼休みに入った直後、何故か風紀委員長は俺のクラスの教室に現れたのだった。



しかし俺は風紀委員長の存在など気にせず、風紀委員長から避けるように席を立つが、風紀委員長はまた俺の手首を掴んでくる。


まだなにか言いたいことがあるのか。

風紀委員長はジッと俺を黙って見つめてきた。


「…なんですか?」

「やっぱりさっきのは無しだ。」

「…さっきの?」

「俺が浅井に言うから、お前は言わなくていい。お前が絡むと面倒そうだ。」

「…そうですか。それではよろしくお願いします。」


この人なんかめんどくさい。

俺はなんだかたった数回のやり取りでそう感じて、早くどっか行け、と思いながら返事をするが、風紀委員長はまだ俺の手首を離してくれない。


ちょっとムッとして、風紀委員長にまだなにか言いたいことがあるのか、と問うように視線を向けた時、「光?」と俺を呼ぶ佑都の声が聞こえたから、俺は無意識に風紀委員長の腕を勢い良く振り払って、佑都の声がする方へ視線を向けた。


「佑都?どうしたの?」


俺が駆け足で佑都の元に駆け寄ると、佑都は風紀委員長の方へ視線を向けた。


「あれ。なんか話してた?」

「んーん?佑都どうしたの?」

「いやお前、朝いきなり先行ったから。なんなんだと思って。」

「……なんなんだと思って、…光が気になってたんだよってか!?」

「いや言ってねーよ。」

「照れちゃってぇ。」


グイグイ、と肘で佑都の腰をつつくと、佑都はうざったそうに眉を顰めた。


「なんでもないならいい。あーあ、無駄なことしたー…帰ろ。」

「無駄じゃない無駄じゃない無駄じゃない!なんでもないことはないから!」

「……あっそ。」

「なにその目!冷たい!」

「お前いつもどおりじゃねえか!」

「と思うじゃん?実は心に闇抱えてるから。」

「あーいつもどおりだった。帰ろ。」

「あー!あー!あー!お待ちなすって!」


俺は佑都の手を掴み、全力で佑都を引き止めた。せっかく佑都が自ら俺のところに来てくれたというのに、このまま帰らせるなんてことはさせない。



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