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「お〜猛いらっしゃーい」

「おーす光。」

「おいおいなに自分の部屋みたいに。」


我が物顔で俺の部屋で寛いでいる光に突っ込みながら、猛用にコップにお茶を注いで机に置いた。


「なあ佑都、無理に話せとは言わないけど、今日生徒会室で寝てたってのは、嘘なんだろ?なんかあったんなら俺にも話してくれよ?」



俺の正面に腰を下ろした猛は、俺の顔にチラチラと控え目に視線を向けながら問いかけた。
気になっているクセに無理に聞き出そうとしないところが、やっぱり猛はお人好しでいい奴だ。


「いや、それはマジでほんと。

昼休みに生徒会室で昼寝してて、その時は5時間目までに教室戻る予定だったけど、会長が来てちょっと話してて、で俺の親衛隊ってあんまりうまくいってねえじゃん?だからかと思うけど、会長に真田先輩とコミュニケーション取れって言われて、昼休み終わったけど真田先輩と生徒会室でいろいろ話してて、で、喋り疲れたからそのあと昼寝したんだよ。」


「あ、そうだったんだ…。なんだ、よかった。なんかあったんだと思ったじゃん。」


生徒会室を出るまでの話を一通り終えると、猛は安心したようにホッと息を吐き出した。

ホッとしているところで申し訳ないが、話はまだ終わっていない。

ここからの話はちょっと言いづらく、言おうか言うまいか悩んでいると、俺と猛の会話にずっと黙って弁当を食っていた光がそこで口を開いた。


「なんかあったよ。」

「……へ?」

「佑都、真田先輩の親衛隊隊長って人に襲われかけたんだよ。」

「……は?…ほんとか?」


……襲われかけたって…。
否定したいところだが、否定できないことが結構辛い。

驚いた表情を俺に向ける猛に、俺はなんとも言えず、苦笑した。


「ベルト抜かれてて、チャック全開だったんだから!俺が来なかったら佑都ヤられてたよ。佑都のバージン奪われてたら俺泣いてたからな!!!」

「おいお前キモいこと言ってんじゃねえよ!!!しかも泣きたいのはお前じゃなくて俺だわ!!!」

「何言ってんだよ!!佑都のバージンはおれが、……ん"んんっ。なんでもない。」


妙な咳払いをして黙り込んだ光に白い目を向けながら、猛に話の続きをした。


「……まあ、そういうこと。

その後風紀委員室行ってて、なんやかんや話してて、さて帰ろうかと鞄取りに教室行ったらお前らが居たってこと。」

「…そうだったんだ…。大丈夫かよ、佑都そんな後ってのに勇大にまで殴られて…」

「ああまじ災難だよな俺。あ、言っとくけどあいつの顔見たくねえから俺さっさと帰ろうとしたんだからな?猛には心配かけて申し訳ねえと思ってる。」

「…いいよ別に。話聞けて良かった。」


猛はちょっと肩を落とし、落ち込んだように視線を下げた。


「猛来てくれてサンキューな。助かった。実はちょっと明日からお前らと顔合わせづらいなーって思ってたんだよ。ほら、情けないところ見られたし。」


落ち込んだ様子を見せる猛にそう言うと、猛は下がっていた視線を再び俺に向ける。


「別に、普通におはよう、って佑都が挨拶すれば、傑とか、凄い喜ぶと思う。」

「あー…向井な。あいつも心配してくれてるみたいだったな。しかも俺、友人関係なんかすげえめんどくなってたし、今日向井に話しかけられた時、俺あいつのことシカトした気がする。」

「あー…。できればなんか声かけてやって。傑、マジで佑都のこと心配そうだったから。」

「そーするわ。…あー。明日学校行くのだりぃなー…。」

「俺と一緒にサボる?」

「誰がサボるか。」

「ちぇっ。」


不満そうな声を漏らした光は、しれっと俺の分のタルタルソースを俺の分のエビフライにかけ、食おうとしていた。


「あ、俺のエビフライ……まあいいや。」


でも今日は光に助けてもらったから、とエビフライを諦めて光の様子を伺っていると、光は箸に挟んだエビフライを俺の口元まで持ってきた。


「はい、あーん。」


食おうとしていたのではなく、俺にあーんをしようとしていたらしい。


「あ。」


口を開くと、光は俺の口の中にエビフライを入れてきたから、エビフライにかぶりついた。


もぐもぐとエビフライを味わっていると、猛がとても不思議そうに、俺と光を見ていた。


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