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「…神谷くん…、申し訳ございません。今日だけは、と思いまして、あなたがちゃんとお部屋に帰るまで見届けようと後をつけておりました。

…お身体は…大丈夫でしょうか…?

先程の一部始終をひっそりと拝見させていただきましたが、あのお方が神谷くんの言っていたご友人ですね?」


真田先輩は教室のずっと奥を、鋭い目付きで見つめていた。その先にいるのは恐らく勇大だ。


俺は特に頷くこともせず、無言で真田先輩の襟元をぼんやりと眺めた。

次に真田先輩の視線は光へ移り、真田先輩はまた口を開く。


「夏木くんのお話も聞いておりました。夏木くんは、神谷くんのことをとてもよく考えておられるようで、僕はまだまだだなあと少し悔しい気持ちになってしまいましたよ。

けれど夏木くんのお気持ちは僕も同じ。神谷くんがあのような言われ方をして黙っては居れません。

……僕も、少し言わせていただきます。」


「……え?先輩?」


言わせていただきます、って…何を言う気だ?

そんな真田先輩に少しの焦りを感じていると、真田先輩は俺と光を通り過ぎ、一歩一歩、勇大の元へ歩み寄っていった。



「なんすか?佑都の親衛隊隊長さんから直々に俺に文句でも言う気ですかね?」

「文句…ですか。そうですね。単刀直入に申しますと、これ以上神谷くんの負担になる発言は控えていただきたいと思いまして。」

「へえ。…負担、ねえ?俺の発言が?」


さっそく、真田先輩を前にして、勇大は不機嫌そうに顔を歪めた。


「ええそうです。あなたは神谷くんにこうおっしゃいましたね?

“神谷くんが、親衛隊をいかに上手く管理できるかどうかが重要だったんだ、認識が甘かったな”などと。

これは今日、神谷くんから聞かせていただいたお話です。神谷くんはあなたに言われたことを、とても気にさせておられたのです。

ストレスを発散させようと、あなた方ご友人を頼って、愚痴を聞いてくれと申された神谷くんのお気持ちを考えれば、あなたが言った台詞はただの負担にしかならないです。

それも、神谷くんはまだ親衛隊の存在を知ってそう日は経っていないでしょう。神谷くんが親衛隊を管理するなどまだまだこれからの話です。神谷くんの後輩さんがお怪我をされたのには、僕の認識の甘さからくるものです。それをあなたは神谷くんにその言葉をぶつけましたね。認識が甘かったのはあなたもではないでしょうか?

さらに申させていただきますと、僕は神谷くんが僕に愚痴を吐いてくださって、とても嬉しかった。あなたは嬉しくは無かったですか?

嬉しかったから、あなたはついつい出過ぎたことを言ったのだと思います。いや、そうであってほしいです。

もしそうでないのなら、僕はあなたが神谷くんのご友人だとは思えません。

あなた方の関係に僕が口を挟むなどとでしゃばったことをしている自覚はありますが、我慢できなかった。

あなたは神谷くんが愚痴を吐こうと信頼されたご友人の一人なのですから、分かってほしかったのです。

僕の言いたいことは以上です。」



真田先輩は一通り話し終え、一礼し、勇大に背を向けてゆったりとした足取りで、再び俺と光が立つ場所までやってきた。



「…隊長さん、なかなか言う人だな。」

「夏木くんに感化されたのですよ。僕も、神谷くんのことをたくさん思っています。夏木くんには負けては居れませんからね。」

「いや俺には負けますよ。」


サラリと真顔で真田先輩に言い返している光に、真田先輩はクスリと笑った。

光、お前何様だ。とそんなことを思いながら光の横顔を見ていると、「ん?」と光が俺に視線を向けてくる。


「佑都帰る?」

「ああ、うん。」

「遅くなっちゃったな。」

「そうだな。」

「隊長さんも一緒に帰りましょ。俺が許可してあげます。」

「それは光栄でございます。」


偉そうに真田先輩にそんな言葉を向ける光に、やっぱり俺は何様だと思ったが、今日の光は俺の救世主なので、黙ってそんな光に俺はやっぱり手を握られ、寮へと帰宅したのであった。



最後まで俺は、友人たちに顔を向けることができぬまま教室を離れたから、次会ったらどんな顔をして会えばいいだろう。

ああ、顔を合わせるの嫌だな。
会わないようにすりゃいいかな。

でも猛にはなんかほんとうに心配させてしまったみたいだから、もう一言だけ謝りたいな。


思うことはいろいろあって、まだまだ頭の中はむしゃくしゃすることでいっぱいだけど、


「真田先輩、またいろいろと相談乗ってくださいね。」


俺の親衛隊隊長である、頼れる先輩が居てくれることで、

ちょっと気が楽だなって思った。


「勿論ですよ!僕にできることなら何でもお申し付けください!」

「佑都、俺にもな?」

「ああ、うん。そうだな。」



厄日だと感じた1日だったが、

悪いことだらけでもなかったな。

と思えたのは、真田先輩が居てくれたからだった。


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