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「いつまで手を繋ぐ気だ?」
「…いつまでも。」
「……はあ。」
こりゃダメだな。
風紀委員室を出てからも、俺は諦めて光の手を引いて歩いた。
鞄を取りに行くために、俺と光の教室に向かう。
放課後になった校内はチラホラ生徒が歩いており、視線は必ずと言っていいほど、俺と光の繋がった手に注がれる。
「今日だけだからな。高校生にもなって手繋いで歩くとか恥ずかしすぎ。」
「…だって離したくねえもん。」
むっすりした表情で、光はぼそりとそう言った。あーあ、困ったな。光の扱いに。
おちゃらけた態度を見せない光は調子が狂う。いつものやつ早くやれよ。そしたら俺は、思いっきりお前を呆れた目で見て、手なんか簡単に振り払うのに。
こんなに光の扱いに困ったのははじめてだな。十数年一緒に過ごして、はじめて。
「…心配かけて悪かったよ。もうあんなこと起こらないように気ぃつけるから。」
「…うん気ぃつけて。あの隊長の人には、もっとしっかりしてもらわねーと。」
「…真田先輩?あの人はもう十分しっかりしてるだろ。」
「あんなんまだまだだよ。」
「…おいおい。」
厳しいやつだな。
こいつこんなに厳しかったか?
表情も不機嫌でなんか怖い顔してるし、似合わなさすぎんだよ。
ああもう、ほんと、調子狂う。
「モンブラン奢ってやるから機嫌直せよ。俺はもう大丈夫だから。」
「今日は食堂行かないよ。お弁当買って帰ろ。佑都の部屋でお弁当食べよう。」
「ああうん。まあなんでもいいよ。」
今日の光の言うことに、俺が首を振ることはない。何故ならそれほど、光に感謝をしているから。
ポツリポツリと光と会話をしながら到着した俺のクラスの教室。
放課後の教室は誰もいないと思っていたが、扉を開けるとそこには、5人の友人たちがいた。
「佑都!!!」
「佑都くん!!!」
ガタリと勢い良く椅子から立ち上がった猛と向井。
そのすぐ側で、「どこ行ってたんだよ…」と心配そうに俺を見る凛ちゃんと将也。
少しみんなから離れた席で、偉そうに足を組んでいる勇大は、不機嫌そうな顔で携帯を弄っていた。
ああ、嫌な奴の顔見てしまったな。
まあいいけど。
鞄を持ってさっさと帰ろう。
「…光…お前なんかあったのか?」
教室に足を踏み入れ、彼らが囲っている俺の席へ足を進めると、猛が俺に手を引かれる光の姿をまじまじと見つめながら問いかけた。
光は黙ってそっぽ向いている。
何も話す気が無さそうだ。
勿論、俺だって何も話す気はない。
光が口を開かないことは、俺にとってはとても都合の良いことだ。
「生徒会室で寝てたら放課後になっててすげえびっくりしたわ。」
猛にそんな当たり障りのないことを言いながら、鞄を手に取る。
「…はあ?なんだよ…びっくりさせんなよ…」
猛はほっとしたようにため息を吐いた。
放課後になっても教室に戻ってこないから、心配かけていたのだろう。
「ごめんな。じゃあまた。」
そう言って俺は猛に背を向けると、「ちょっと待てよ。」と一番聞きたくない奴の声がした。
自然に寄った眉をそのままに、勇大へチラリと視線を向けると、奴は偉そうな態度で足を組んだまま俺を睨んでいた。
「…なに。」
「お前なんなんだよその態度。」
「…は?」
「人に散々心配かけといて、寝てたって。その態度はねーだろ。」
「別に俺心配して下さいとか一言も言ってない上に、俺がどこでなにしてたって俺の勝手だろ?なに偉そぶってんだお前、うぜーんだよ。」
元々勇大には腹を立てていたが、更に偉そうに俺に話しかけてくる勇大に、口が止まらなくなった。
すると、ガタリと音を立てて椅子から立ち上がった勇大は、俺を睨みつけながら俺の元へ歩み寄ってくる。
俺もジッと勇大を睨みつけていると、勇大は俺の目の前まできて、そして、俺は勇大に顔面を殴りつけられたのだった。
「おい勇大!?」
「落ち着けよ!!!」
突然の勇大の行動に、戸惑う友人たち。
殴られた勢いで、ようやく離れた光の手。
そして俺は、その勢いのまま尻餅をついた。
ああもう最悪。
今日は厄日だと思った。
すぐに立ち上がって、あいつを殴り返してやりたいと思ったけど、俺は先程、あのゴリラに散々腹を殴られた直後だ。腹が痛いんだよ。俺は。それと勇大に殴られた時の衝撃で、また腹はズクズクと痛み、その痛さのあまり腹を抱えて蹲る。
イラつく。ムカつく。悔しい。
なんでこんなにうまくいかないんだろう。
どうして俺がこいつに殴られなきゃなんねーんだ。一言謝ったじゃん。猛には心配かけたんだと思ったから、一言謝ったんだろ。それのなにがいけないんだ。
ムカついて、イラついて、唇を噛み締めて、また涙が出そうなった。
しかし勇大は、さらに俺の心臓を抉るかのように、ズケズケと毒を吐いてくる。
「自分勝手で、自分本位だなお前は。この前のことだってそうだ、俺はお前のためを思って言ったことに対して、お前は逆ギレしてどっか行きやがったけど、まるで俺が悪もんみたいじゃねーか。
そんでお前はまた、周りに心配されていいよな。しかもお前が放課後になっても教室戻ってこねーって、ずっと残って心配してるダチに向かって、寝てたって。笑わせんなよ。
もうちょっと周りのこと考えろよ。」
吐き捨てられるように勇大から言われた言葉に、俺はもう何も考えたくなくなった。だから誰も心配して下さいとか言ってねーよ。自分勝手で自分本位で悪かったな。そんなに俺が嫌なら俺の前に現れんな。
言ってやりたいことはいろいろあるが、言うのがめんどくさくなった。考えんのも、めんどくさくなった。今日は、もう疲れたんだ。早く帰らせてくれよ……
「…佑都?」
なにも言わない俺に、猛が側に来て、しゃがんで問いかけた。顔を覗き込まれ、顔を見られたくない俺は、膝に顔面を押し付ける。
「なんか言えよ。ああ、言い返せねえってか?そりゃあそうだよな、俺の言ってることは正論だろうし?」
「勇大もうやめろって!!お前そこまで言う必要ねえぞ!?」
まだ頭上では勇大の憎たらしい声が聞こえるが、そこで向井が間に入った。しかし勇大の口は止まらない。
「ああ?うるせえな、俺がなんか間違ったこと言ったかよ。」
苛立ったような口調で勇大がそう言ったその直後、まるで人が変わったかと思えるくらいの冷めた光の声が、辺りに響いた。
「お前さ、ちょっと黙ったら?」
「…は?」
光の一言で、勇大は呆気に取られたように暫し固まった。そんな勇大に構わず、光はベラベラと話し始める。
「さっきから話聞いてたらお前の言ってることむちゃくちゃすぎ。自分勝手で自分本位ってお前じゃない?
生徒会室で寝てて、放課後になっても帰ってこないから、って心配かけただろう猛に佑都謝ったじゃん。何が不満だったわけ?
そういやお前、佑都が生徒会室で寝てたって聞いて怒り始めたけど、そもそも真面目な佑都が生徒会室で授業サボってまで寝るってさ、結構異常だよ?お前はそこになんの疑問も感じねーの?
佑都が逆ギレどうこうっていう話しは俺は知らないけど、どうせそれだってお前がなんか佑都に気にさわること言ったんじゃねえの?
お前はどうやら自分本位な奴みたいだからな。
自分が満足したいがために、佑都の気持ちなんか少しも考えねーであれこれ言いやがったんだろ、今みたいにさ。
あーあ、ウザいウザい。
鞄取ってお弁当買って、さっさと帰るつもりだったのにとんだ邪魔が入っちゃったな。
佑都、立てる?もう俺の鞄はいいよ。こんな奴放っておいてさっさと佑都の部屋帰ろ。」
ベラベラ喋っていたかと思えば、突然俺の両脇に両手を挟んできた光。
ゆるゆると光に立たされ、また光は俺の手をギュッと強く握ってきた。
心配そうに俺を見る猛や向井に、今はなんとなく顔を向けることができず、俯く。
今度は俺が光に手を引かれながら教室を出ようとした時、教室の出入り口には真田先輩が立っていた。
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