54 [ 55/112 ]

そもそも俺がこんなところに来たのは、人と接触するのが嫌だったからだ。会話をするのがめんどくさかったからだ。親衛隊の話にうんざりしていたからだ。

誰も居ない生徒会室でホッとして、肩の力が少し抜けたと思ったのに。

生徒会室に来たのは失敗だったな、と思った。じゃあ俺はどこへ行けばホッと一息つけるんだろう。


黙ってそんなことを考えていると、会長がじっとこっちを見つめながら、「佑都。」と俺に呼びかけた。

そして、真面目な顔をした会長は言う。


「本音は全部真田に吐け。愚痴でも不満でもなんでもいい。」

「…は?…なんで…んなこと…。」

「そうすれば、お前にとっての最善策を、あいつはちゃんと考えてくれる。逆にお前がなに考えてんのか分かんねえと、あいつもどうすれば佑都のためになるのか、何が最善策なのか分かんねえだろ。

松波のことがあった後に言うのもなんだけど、お前は親衛隊に恵まれてる方だと思うぞ。隊長が真田だからな。もっと不満とかあいつに言ってやれ。絶対それで悪いようにはなんねえから。」


会長は俺にそう言って、再びイチゴミルクに手をつけた。もう俺は、イチゴミルクを飲む会長などまったく気にならず、頭ん中では会長に言われたことを思い返していて、それで、妙に納得している自分がいた。


「愚痴…か。…言っていいかな。真田先輩に。」

「おー言え言え。溜まってるもん吐き出さねーからむしゃくしゃするんだ。んで、真田とコミュニケーションとりまくれ。俺が言うんだ、間違いなく悪い方向にはいかねー。」

「まあ…確かにちょっと説得力あるな。」

「だろ?」


…だろ?…って。すげードヤ顔。
自信満々かよ。それで悪い方向行ったら会長のこと責めてやるからな。と俺は心に決めた。


「うまくいかなかったら会長の所為な。」

「ああ。うまくいかなかったらな。そん時は俺が責任取ってやる。」

「へえ、それはちょっと楽しみだ。」


ふっと笑うと、目の前の会長もニヤリと笑い、またイチゴミルクを一口飲んだ。


やっぱり似合わないなと思った。


その後、他愛ない会話を会長としながら昼休み終了までの時間を過ごし、昼休み終了10分前に会長と揃って生徒会室を出た。


会長に「真田んとこ行くか?」と言われたので、俺はそれに頷いたのだ。

それは、3年Sクラスの教室に戻る会長に着いてくるか?と言う意味だ。せっかくだからそうしようかと、俺は会長に流されるままに3年Sクラスの教室へ足を運ぶ。


会長と並んで歩くと、ざわざわと騒がれながらあちこちから視線を感じるものの、みんな会長のことを見ているんだと思えば、とても気が楽だった。


この人は、グサグサと突き刺さる視線をどう思っているんだろう。



3年Sクラスの教室へ、会長と足を踏み入れると、ざわりと教室がざわついた。

会長は元々自分のクラスの教室なので、このざわつきの原因は俺だと分かる。


「真田ー、いるかー。」


会長が真田先輩を呼ぶと、ガタリと椅子から立ち上がる音がして、音のする方へ視線を向けると、驚いた顔をして慌ててこちらへ駆け寄る真田先輩の姿があった。


「神谷様っ、どうされました…?」


とても不安そうに、真田先輩の瞳は揺れている。

会長にポン、と背中を叩かれ、「俺の友人にずっとあんな顔させたままだと許さねえぞ。」とコソッと言われ、会長は次に真田先輩へ視線を向けた。


「真田、佑都と生徒会室行ってこい。」


突然の会長の発言に、真田先輩はポカンと口を開けた。俺もまた然り。


「1時間くらいサボってもお前らの頭で文句言う奴いねーよ。」

「おいおいなに勝手に話進めてんだよ。」

「だってこうでもしねーとお前らわざわざ放課後会って話すとか絶対やらねえだろ?」


「ほら、早く行け。」と会長は俺と真田先輩の背を押した。

真田先輩は戸惑いながら、俺と共に教室を出る。



「…なんかすんません。こんなつもりじゃなかったんですけど…。」


ただちょっとだけ顔見て話してみようと思って来ただけだったのに。


「…あ…いえ、僕は全然…。それより、どうかなされましたか…?」

「…いや…。別になんかあったとかではないんですけど…。生徒会室…行きますか?」

「は、はいっ…神谷様さえ良ければ…!」


問いかけると真田先輩は、緊張した趣で頷いた。


生徒会室へ向かう途中、セットした携帯のアラーム音がズボンのポケットから響き、ビクッと肩を揺らす。


「あ、俺昼寝しようと思ってアラーム設定してたんだった。」


携帯電話をポケットから取り出して、アラーム音を止める。そのついでに、猛に授業をサボることと、後でノートを見せて欲しいということを伝えようと、メール作成画面を開いた。


「あ、ちょっと友達にメールします。」

「どうぞどうぞ、ごゆっくり…!」


やっぱり真田先輩は、俺相手にとても緊張しているようだった。


顔を赤くして、アタフタとした様子を見せる真田先輩。…会長、本当に大丈夫かよ。真田先輩。この人に愚痴とか不満言ったら泣くんじゃねーの?と俺は会長に言いたくなった。



再び戻ってきた生徒会室。



「なんか飲みます?…えーっと、あ、コーヒーと紅茶なら多分あった。」

「あっいえ!あの!お構いなく…っ!」


あ、そうだこの人にこういうことするとすげえ畏るんだった。困ったな。


「俺コーヒー飲みたいんでコーヒー淹れますね。あ、飲めます?」

「はい…!あっ、あの、僕がやります…!」

「いやいや、俺がやりますって。てか先輩、もっと肩の力抜いてくださいよ。俺相手にそんな畏る必要無いですよ?でないと俺も、先輩に話しかけ辛いですし。」

「…そういうわけには…。」

「てか座っててください。」


生徒会室へ訪れ、ずっと立っていたままの先輩に、ソファを指差して言うと、真田先輩は戸惑ったように俺とソファを交互に見た。


「5秒以内に座らないとコーヒーの中に角砂糖10個入れますよ。」


真顔で先輩にそう告げると、先輩はおずおずとソファに腰を下ろした。勿論冗談だが、先輩がソファに座ってくれたのでホッと一息つく。


「ちなみに砂糖入れる人ですか?」

「あっ…はい…っ、少しだけ…。」

「じゃあ1粒いれときます。」

「…ありがとうございます…。」


俺にしては結構頑張って話しかけている方ではないだろうか。けど真田先輩の固さはなかなか取れない。

俺の周りって結構俺が黙っててもぺちゃくちゃくっちゃべってる奴多すぎるから、こんな空気はなかなか慣れないなと思った。


[*prev] [next#]

bookmarktop

- ナノ -