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第6章【 親衛隊 隊長 の 役割 】


【 昼休みに音楽室へ来てください。】


それだけ書かれた白い紙が、今朝登校してきた俺の机の中に入っていた。


「…は?今度はなんだよ…。」


机の中に手紙が入っていたことは初めてではないが、呼び出しの手紙は初めてだった。


「…行くわけねーだろ。来て欲しかったら名前くらい書いとけよ。」


呟きながらその紙をくしゃくしゃに丸めてゴミ箱の中に放り込んだ。


「佑都どうした?」

「なんでもねえ。」


共に登校してきた猛が、一人呟く俺を不思議そうに問いかけてくるが、俺は何事も無かったように机の中に教科書を入れながら返事した。


昨日の勇大とのいざこざからか、猛はとても心配そうな目で俺を見てくる。けれど俺は昨日のことにはまるで蓋をするように、何事も無かったような顔をして、猛といつも通りに登校してきたのだった。


これが多分、一番楽な方法だ。

なにも考えないように、何事も無かったように、周りには一切見向きをしない。


面倒なことから、俺は 逃げた。


そうして過ぎてゆく時間。
なんだ、簡単なことだな。
面倒なことを避けたいのなら、逃げればいいんだ。





「佑都くん!ご飯一緒に食べよう!」

「わりぃ、俺ちょっと用事。」


昼休み、明るい口調で俺を昼食に誘う向井。俺はそんな友人からも、逃げた。


向井は落ち込んだような表情を浮かべたが、俺はなんとも思わなかった。
人との関わりを持つことを今俺はとても面倒に思ってしまっていて、それを避けれたことにホッとしている俺は最低だな、と思った。


用事なんてのは嘘だ。

ちなみに今朝机の中に入っていた手紙の存在など、俺はとうに無かったものにしている。

しかし用事なんて行った以上、どこか別の場所に移動しなければ。

ああ、そうだ。

いい場所があるじゃん。



俺が向かった先は、生徒会室。

部屋には誰もいなかった。

最高だな。静かな空気。最高だ。



やたらふかふかのソファが二つ置いてある。そのひとつのソファに寝そべった。昼飯いいや。寝よ。


昼休み終了5分前の時間に携帯のアラームをセットして、目を瞑った。


しかし俺が昼寝をできたのは僅か3分ほどだった。


「珍しいやつが来てんな。」


何故なら部屋に、声がして会長らしき人物がやって来たからだ。


「おーい。佑都。起きてんだろ?」

「…寝てる。」

「起きてんじゃねえか。」


ふっと笑い声を漏らした会長は、寝ている俺に気を使うということなどまあ当然せずに俺に話しかけてきた。


「どうしたんだよ、別に生徒会室に用ないだろ?飯は?食わねーのか?腹減るぞ。」

「飯より仮眠を取りたい気分だったんで。」


目を閉じたまま、返事を返す。
俺が寝ているソファの正面のソファに会長が腰を下ろす気配を感じた。


「ふーん。あ、そう言えばお前真田と揉めたのか?あいつ昨日なんかやけに落ち込んでたけどどうせ佑都関連だろ?」

「…真田先輩のこととか俺が知るわけねえだろ。」

「おいおい。自分とこの隊長だろ。」

「ああそう言えばそうですね。」


わざとらしく、吐き捨てるようにそう言って、寝返りを打って顔を隠すようにソファの背もたれの方へ顔を向けた。


会長からの反応は無く、シーンと静まり返る生徒会室。


数秒後、「やさぐれんなよ。」という言葉と共に、俺の身体に何かが当たった。


ソファの背もたれと腹の間に何かが落ちてくる。手に取ると、それがサンドイッチだとわかった。


顔を少し上げ、チラ、と会長に視線を向けて、会長の方へサンドイッチを投げ返す。


するとまた会長にサンドイッチを投げ返されて、ケツに当たった。


「なんなんだよ。」

「いや俺からの心遣いだろ。食えよ。」


そう言いながら、ごそごそとビニール袋の中を漁っている会長。

俺は無言で身体を起こした。
くれると言うのならありがたくサンドイッチはいただこう。腹減ったし。


「じゃあ遠慮なく。」

「あ、やっぱそれ返せ。こっちにしろ。」

「はあ?」


そう言って会長はクリームパンを投げつけてきた。いやもう遅いだろ。


サンドイッチのビニールをはがしにかかった俺は、クリームパンを投げ返した。


「俺サンドイッチの方がいいんで。」

「いや俺がサンドイッチの方がいいんだよ。ってなにもう食ってんだよ!」

「食えよっつったの誰だよ。」

「…はあ、まあいいや。優しい俺に感謝しろよ。」


会長はそう言いながら、クリームパンを袋に戻し、袋の中から2個目のサンドイッチを取り出した。

なんだよサンドイッチもう一個あるじゃねえか。と思っていると、更に紙パックのイチゴミルクも取り出した。…うわ、この人イチゴミルクとか飲むんだ。似合わねー…。

モグモグとサンドイッチを食べながら、イチゴミルクを飲む会長を眺めていると、会長と視線がかち合った。


チュー、とイチゴミルクをストローで吸い込んだ後、会長は口を開く。


「お前んとこの親衛隊のことにとやかく口を挟む気はねえけどさぁ、隊長とは仲良くしとけよ。あ、言っとくけどこれは口出しではなく、アドバイスな。」


そう言ってまた、イチゴミルクを飲む会長。

まじ似合わねー。

イチゴミルクを飲む会長を見ていると笑いそうになるため、視線を逸らす。



「…そりゃできることならそうするけど。知り合ってまだ何回かしか話したことない上に相手は先輩だぞ。難しいだろ。」

「まあそれもそうだけどな。でもお前が悩んでたり困ったりしてると、きっと隊長はお前のために一生懸命考えて、一緒に悩んでくれるぞ。
ましてやお前の隊長は真田だ。俺は結構真田とは長い付き合いだけど、あいつは無責任な奴じゃねえし、真面目で良い奴だ。信頼して良い。俺が保証する。」


そう言い終わり、会長はまたイチゴミルクをチューと飲んだ。だから似合わねーって。


「…イチゴミルクとか飲むんすね。」

「ああ、好きだからな。」

「…似合わねー…」

「ほっとけ。って話逸らすなよ。」


…チッ。


親衛隊関連の話したくねーんだよ。


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