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「あれ?てか放課後って生徒会行かなきゃだっけ?」
「集合かかってないから行かなくていいだろ。」
「あ、そう?まあ行かなくていいならさ、佑都、スゥィ〜ツ食べに行こう。俺モンブランが食べたい。」
「勝手に食いに行けよ。」
「よしよし。じゃあ食堂行くよー。」
「因みに俺は行くとは言ってない。」
「美味しいモンブランが俺を待ってる。」
「誰もお前なんか待ってねえよ。」
放課後俺の教室に現れた光に促されるまま、俺は教室を出てきた。
勿論人の話をきかない光は、俺の手を強引に引っ張り、食堂へ足を進める。
はいはい。もう好きにしてくれ。
俺は無言で光に引きずられながら歩く。
「あらま、佑都が素直について来る。」
「お前の諦めの悪さを知ってるから、無駄な抵抗してねえだけ。」
「わぁー佑都くん偉ーい。」
こいつぶん殴ってやろうか。
いやもう手をあげることもめんどくせーな。
今日1日で、俺はなんだかどっと疲れて、もういろいろどうでもよくなった俺は、もうどうにでもなれ状態だ。
親衛隊なんてクソめんどくせーし、友人関係も結構めんどくせーな。
しばらくあいつの顔は見たくねえ。
あの毒舌野郎。どうせまた顔を合わせたらなんか言われるんだ。それなら会わない方がマシ。
めんどくさいのは嫌いなんだ。めんどくさいことになるなら、友達なんか居ない方がいい。
そう考えると、光といるのは楽だ。
気心の知れた奴といるのは安心する。
「ずっと一緒だったもんな。…お前とは。」
「…へ?」
俺はなんだかとてもぼんやりしていたようで、思わず呟いてしまった俺の呟きに、光はポカンと口を開けた間抜けな面で俺を見ていた。
「なんだそのバカ面。」
「え、あ、え、佑都こそどしたの。」
「別にどうもしてねーよ。さっさとモンブラン頼めよ。」
気付いた時にはもう食堂に到着しており、俺は光のケツを蹴って、カウンターへと促した。
いつもは痛い、蹴るなと喚く光だが、なにも言わず大人しくモンブランを頼んでいた。
この時でさえも、俺は食堂を利用していた生徒にジロジロと見られており、その視線が嫌で嫌で仕方なかった。
「神谷様だ!」
「かっこいい!」
「夏木光いいなー。」
そして、聞こえてくる会話にも熟嫌気がさす。
なんで俺を見るんだよ。見てくんな。こっちを見て俺のことを話してんじゃねえ。俺の名を呼ぶな。
その視線から逃れたくて、俺は隅っこのテーブルへ早足で向かった。
ガタリと椅子を引き、腰を下ろす。
もういろんなことが嫌になって、テーブルに両腕を起き、その上で顔を伏せた。
数十秒後、正面の席の椅子を引く音が聞こえる。
光は暫く無言でモンブランを食べていた。
「…はあ。」
沈黙だった俺たちの間に、突如ため息が聞こえた。勿論それは、目の前の光が吐いたものだ。
「なーにを悩んでんだか。」
そして、明らかに俺に向けて言った呟きが聞こえる。
「…別に悩んでねーよ。」
顔を伏せたままぼそりと言うと、「お悩み解決、光くんに相談しねーの?」と言ってきた。こいつ俺の話全然聞いちゃいないな。
顔を上げて、腕の上に顎を乗せて光を見た。
「だから悩んでねえ。」
「あーん。」
「ぶっっ!!!」
顔を上げたのは失敗だった。
フォークに乗せられた一口サイズのモンブランを、口に押し付けられる。
「キャー!神谷様とあーんしちゃったぁ!!!」
そして、気持ち悪い声でそう言った光。
俺は口の中に入ってしまった甘ったるいモンブランをモグモグと噛み締めて、光をジロ、と睨み付けた。
「鋭い視線もス・テ・キ。」
「うぜー。喧嘩売ってんだろ。」
「親衛隊ってさ、だいたいこんなもんだと思わねえ?佑都をただただ褒めまくる集団。残念だったなー、佑都が魅力的だから親衛隊は存在するのだ!
でも褒められるのって悪いことじゃねーよな。だから佑都が気に病む必要なんかどこにもねーんだよ。柚鈴ちゃんのはちょっとイレギュラーしちゃったけどさ。
大丈夫。佑都には俺がついてるから。」
ふざけていたかと思いきや、突然ニコリと笑ってそう言った光。
それは、いつものあのクサイドラマを真似た台詞を言ってんのか、それとも光の本当の言葉なのか、その時俺には分からなかった。
第5章【 新歓と、彼らの暴走 】おわり
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