51 [ 52/112 ]

あーあ、どいつもこいつもうざってえな。

佑都、佑都、佑都、って。
思ったことをはっきり言ってなにが悪い。


親衛隊を公認したからにはそれ相応の覚悟ってのが必要だろ?なにか問題が起きてからじゃ遅いんだよ。それをあの鈍感間抜け野郎にわからせてやるために言ってやってんのによお。


誰かが言わなきゃ改善しねーだろ?また何度も同じこと繰り返すぞ?今は言うべきじゃない?言い方がある?


んなの知らねーよ。


俺は自分が思ったことをはっきり言っただけなんだ。

それがこのザマだ。

辛気臭せえ顔しやがって、これだから人気者はチヤホヤされてすぐ心配されて良いよな。



数分前の佑都とのやり取りを、思い返せば思い返すほど、イライラしてしょうがない。


どいつもこいつも佑都、佑都、佑都だ。


ちょっと顔が良いからって、ちょっと頭が良いからって、多くの人に好かれて、甘やかされて、


……多分そんな佑都のことを、俺はどこか面白くないからって見下してたんだ。



本当は、すげえかっこいいのに頭も良くて運動だってできる。そんな佑都が羨ましくて、憧れる。

でも全然周りなんて興味無さげで、自分が周りに好かれているとも気付いていない。

とても恵まれた環境にいるのにそんなことにも気付いていない。


俺は、そんな佑都を少し憎く思っていたのかもしれない。



そんな、学園の人気者である佑都と友達になって嬉しく思ったのは、紛れも無いこの俺だ。

正直傑までとは言わないけど舞い上がったし、俺自身のステータスも上がった気がして、とても気分が良かった。


話してみれば、今まで知りもしなかった神谷 佑都の一面も知ることができて、そこもまた嬉しく思ったし、元々は全然周りに興味なさそうにしてお高くとまってる奴なのかと思いきや、実は本当に周りに興味が無く、挙句、自分自身にも興味の無さそうな佑都を知った時は笑いが止まらなかった。


なにが言いたいかって言うと、俺は佑都に憧れていて、佑都の才能に恐らく嫉妬してたんだ。


だから、佑都の親衛隊が起こした出来事に俺は、佑都を責めるような口ぶりで言ってしまったんだろう。自業自得だと言ったのも本心。


本気で佑都を心配してる猛や傑、それに凜斗や将也のように、俺は佑都のことを心配できなかったのだ。


ああ、イラつく。すげえイラつく。


何がイラつくって、自分の性格にイラついて、嫌になる。俺だって仲間割れなんかしたくねえよ。けれど、俺はすげえカッコつけの性格で、意地っ張りだし、今更謝りに行くなんてカッコ悪すぎてできるわけねえだろ。


それになにをどうやって謝ればいい?

俺のなにが悪かった?

それもイマイチ分かってねえのに、謝りに行くなんておかしいだろ。


俺の頭は今すげえイライラしてるから、何を考えても無駄な気がした。



Sクラス教室前に群がる野次馬。

その中心は佑都だ。

対する人間は、佑都の親衛隊隊長の真田先輩。

これまた派手にやってんな。と思いながら、俺はそんな光景からそっと視線を逸らし、一人その場を後にした。



最後に目にした佑都の表情は、ひどく冷めきった何の感情も表には出すことがない、どことなく疲れたような、そんな表情で、俺は見るんじゃなかったな。と無意識にため息が出たのだった。


だって、そんな佑都を見てしまったら、さっきの俺の言動に、後悔せざるおえない。


無神経な自分の言動を、心底悔やむ。


俺はその後、イライラとモヤモヤを胸に抱えながら、その日を過ごした。





「佑都ー帰ろー!!」


放課後になり、元気な声が、佑都の名を呼んだ。

チラリとその声の持ち主に目を向けた佑都は、鞄を持って立ち上がる。


「…佑都、なんかあったら俺にも相談しろよな。」


佑都が帰ってしまう前に、俺はそう声をかけると、佑都は相変わらずの冷めた面をして、「ああ、サンキュー。」と礼を言った。

昼休みに勇大と揉めてから、佑都はずっとこの調子だ。おまけにその後真田先輩と一悶着あったから、佑都の機嫌は下がる一方。

機嫌、悪いっつーか…落ち込んでるっつーか…よくわかんねー。佑都が俺に全然話してくれないから、今佑都が何を思ってんのか俺は憶測で考えるしかない。


佑都の力になりたいのに、佑都は肝心な時に全然俺を頼ってくんねえな、と俺は少しさみしく感じた。


「猛バイバーイ、また明日なー!」


教室中に響き渡る声でそう言いながら俺に手を振ってきたのは光で、俺も光に向かって「また明日」と手を振り返す。


それにしても、よくもまああれだけの視線を気にせず上級生のクラスを訪れ、しかも佑都に声をかけられるな。と俺は光を少しばかり尊敬しそうだ。


だって、昼休み後の佑都と言えば、それはもう身体全体から話しかけるなオーラが出ているようだった。
実際、佑都に話しかける者は疎か、近づくものすら居なかった。


それを平然とこなしてしまうあたり、やはり幼馴染は侮れない。



「猛、猛!佑都くんは?」

「あ、今さっき帰ったぞ。」

「えー!!もう!?」


佑都と入れ違いでやって来た傑と凛斗は、既に姿を消した佑都にガックリ肩を落とした。


「その後佑都くんの様子は?」

「あーまあ変わりなく。冷めた面してた。」

「あーもう勇大のバカァァァ!!!」


傑はムシャクシャしたように、自分の髪を掻きむしった。


「聞きたかねえけど、勇大の様子は?」

「あーまあ…不機嫌そうにムスッとしてるよ。」

「へえそう。まあどうでもいいけど。」

「…おいおい、そう言ってやるなよ。」

「俺は怒ってるんだからな、あいつに。」

「…うーん…。」


凛斗は俺の言葉に苦笑する。

その隣で傑も、「猛が怒るのも無理ないよ。」と頷いてくれるあたり、傑もよっぽど佑都のことが心配なんだろう。


「まあ暫くは様子見だな。」

「勇大には将也がついてるから大丈夫だよ。俺らは佑都の心配してよう。」

「勇大の心配なんかしてねーよ。」

「…おいおい…。」


凛斗は再び苦笑した。


[*prev] [next#]

bookmarktop

- ナノ -