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「勘違いするなよ、佑都を責めてるんじゃねえからな。ただ、お前にはまだ自覚というものが足りねえからな、良い機会って言ったらアレだが、これを機会に佑都は自覚すればいい。お前自身の持つ、影響力ってやつを。」

「…会長、何の話してんですか…?その口ぶりだと、まるで俺が関係してるみたいじゃないですか。」

「お前が関係してるから言ってんだ。」

「………は?」


俺が、関係してる?

ゆゆが階段から突き落とされたことに?


会長に言われたことに、俺は本当に意味が分からず、唖然とする。いつもヘラヘラ間抜け面な光は、そんな俺をジッと心配そうに見てくるから、調子が狂う。とても、居心地が悪い。なにも言葉が出てこない。

数秒の沈黙を破ったのは、光だった。


「ゆずちゃん突き落としたやつ、…佑都の親衛隊ですか。」


滅多に見ることのない真面目な顔つきをした光が、一体なにを言い出すかと思えば。

俺はハッとして光を見ると、会長の頷く声が聞こえた。

「そうだ。夏木の言う通りだ。なんだお前、バカな奴かと思ってたけど、意外と賢いんじゃねえの?」

「ドラマ好きですから。こういう推測は得意なんです。」

「ああ、なるほどね。」


会長と光の会話がまったく耳に入ってこない。ゆゆを突き落としたのは、俺の親衛隊?なんで?なんでゆゆを突き落とすんだ。意味がわからない、ゆゆが一体なにをした?


黙ってそれを考えていた俺に、会長は俺の頭をポンポンと叩いた。

ゆるゆると顔を上げると、会長は「ちょっと場所変えるか。」と体育館の舞台裏まで俺の手を引いた。

黙って会長の後を追う。
とりあえず飯食うか。と弁当を渡されたが、正直今、食欲なんてものは無い。

パイプ椅子に俺と光と会長3人、向かい合って腰を下ろした。


パキ、と割り箸を割って弁当を食べ始める会長だが、俺も、そして恐らく光も、まったく弁当を食べれる気分ではない。


「佑都、これだけはマジで言っとくけど、お前の所為では無いからな。でも無関係とも言い難い。それが親衛隊を持つと言うものだ。」


会長は、ずっと黙り込んでいた俺にそう言った。


「…ゆゆは…なんで俺の親衛隊に、目を付けられたんですか。」


俺の親衛隊に目をつけられているのは、光だと思っていた。だから、なにか問題が起こる前に、と策を立てたつもりだった。

実際光への野次は減ったし、うまくいってると思っていた。


「ゆゆ、って松波のことか?」

「…そうですけど。」

「はぁ…まあ佑都の所為じゃねえとは言ったが、佑都の自覚の無さが原因ってのはあるな。」


会長は、ため息混じりでそう話す。

だから、俺の所為じゃねえとか、自覚の無さとか、意味わかんねーよ。話全然進まねーよ。俺にどうしろってんだよ。

だんだんムシャクシャしてきて、俺は自分の髪を掻き混ぜた。


「あーもー!!!なんなんすか!?はっきり言えよ!わかんねえよ!自覚ってなんの自覚だよ!!?」


八つ当たりだ。わかってはいるけど、ムシャクシャして抑えられない。

そんな俺に会長は、「ああ、悪ぃな。お前、マジでなんも分かってねえもんな。」と悪びれる様子もなく言うので、俺はもう何も言い返す気がなくなった。



「あ、そうだ。夏木、お前の今考えてること言ってみろよ。」

「……俺?」

「ああ。お前、実はちょっと察してんだろ。松波が佑都の親衛隊に目つけられた原因。」


会長の視線は今度は光の方へ向いた。
光は一度チラリと俺を見てから、なんとも言えない表情で口を開く。


「…俺に手出しできなくなった…から?」


光は、少し自信無さげにそう話す。


「俺、佑都の親衛隊に嫌がられてたけど、ある日突然野次が減ったんだ。佑都がなんかしてくれたんだろ?で、俺は佑都と一緒に生徒会入って、一緒にいる時間も増えたし、そしたらもう親衛隊、俺に手出しなんかできねえじゃん?…だから、その俺の代わりが、ゆずちゃん…。」


そう言って光は、下を向く。

しかし、「それに佑都!!」……そう言いながら、再び光は勢いよく顔を上げた。


「なんかゆずちゃんに超甘い!人前で頭とか撫でるし!呼び方も違うし、口調も優しい!!そりゃゆずちゃん嫉妬されてもしゃーねえよ!?」

「…お前が嫉妬してるみたいにか?」

「はあ!?!?」

「……冗談だよ。」


光の発言に突っ込みを入れた会長は、勢いよく会長へ視線を向けながら声を上げた光に若干体が引き気味になっていた。


「あー…まあ、夏木の言ったことは良い線いってると思う。つまりどういうことかと言うと、佑都から特別な扱いを受けた奴への嫉妬の気持ちで、親衛隊は動く。佑都の言動はそれほど、影響力がある。それを自覚するべきなんだ。
佑都はその親衛隊の標的になってんのが夏木だっつーことしか頭になかっただろ。それが今回起こったことの大きな原因だと、俺は思う。」

「…じゃあ俺にどうしろって言うんですか。」


会長から話を聞いて、ハイ自覚しました、自分には影響力がある、ゆゆが親衛隊に狙われました、それで俺にどうしろって言うんだ。


「守れねえもんには下手に近付くな。手を出すな。話しかけんな。それが第一の解決策だな。」

「…なんだそれ。意味わかんねえ。」

「それが無理ならなにか策を考えろ。人目につかないところで話すとか、何かしら考えるんだ。
まあ相談なら乗ってやるから。いつでも頼れよ、後輩。」


そう言って会長は、俺の肩をポンポンと叩いて立ち上がった。

もうじき昼休憩も終わるため、会長は役員が集まっている輪の中へ向かって行ったが、俺は今誰とも話したくない気分で、フラリと体育館出口へ歩んでいくと、背後から光の声がかかる。


「佑都、どこいくの?」

「……便所。」


ボソリとそう答えて、光が何か言ってくる前に俺はさっさと体育館の外へ出た。

勿論、便所なんて嘘だ。
どこか、一人になれるとこに行きたかった。


ゆゆが階段から突き落とされた、その原因が俺であることが分かって、俺は自分で思っている以上に驚いて、衝撃を受けて、動揺した。

少しは分かった気でいた親衛隊の実態を、俺は全然分かっていなかったんだ。



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