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「あ!ゆずちゃんいいところに来たー!ちょっと聞いてよ、っくふふ。」


ゆゆを手招きしながら笑う光の足をグシッと思いっきり踏んづけてやった。


「あっはっは、ダメだ、腹痛い!」


足を踏んづけたのに腹を押さえ笑いを堪える光に苛立ちが募ってゆく。そんなに笑わなくてもいいじゃねえかよ。


「なに?光どうしたの?」

「佑都がさ、ゆずちゃんのこと…くふふ。」


まだ笑う光にいい加減腹がたって、パシンといい音がするほど光の頭を強くしばいて黙らせた。


「なに?佑都先輩が、僕のことを、なんなの…?」


笑いすぎで続きを話さない光に、ゆゆが不安そうに、しかしその頬はいつものように真っ赤に染め、俺を見上げた。

仕方ない、と、光の代わりに俺がゆゆに、先程知った自分の勘違いを告げた。


「ゆゆ、ごめんな。俺お前の名前勘違いしてたみたいなんだわ。」


光があまりに笑うもんだから、自分の間違いに少し恥ずかしくなり、ゆゆから視線を外しながらポリポリと頬をかく。


「ゆゆずだと思ってたんだってっくふふ。」

「光お前ちょっと黙れ。」

「だぁってさぁー!うふふ、面白い。」

「うぜえ。」

「痛い!」


容赦無く光の頬をグイッと強く引っ張った。
「佑都は暴力的すぎる」とかなんとか文句を言ってる光だが、暴力的にさせる光が全部悪い。


「あー…まあ。とにかくごめんな。…ゆず。」


本当の名前を呼べば、ゆゆ、改めゆずは、途端に顔を真っ赤にした。


「い、いえ、全然…っていうより、ゆゆ、って呼び名、結構好きなので、そのままでもいいです…。」

「あ、そうか?じゃあゆゆでいいか?もう呼び慣れたし。」

「はい!!!」


赤い顔をした満面な笑みでゆゆが頷くもんだから、じゃあお言葉に甘えて、と変わらずゆゆ、と呼ぶことにする。



「…ところで佑都先輩、写真撮って貰えるって本当ですか?」


スタンプを押し終えたゆゆは、伺うように俺にそう問いかけた。


「いいや、それはここにいるバカのせいでなんかそんな風になってるだけだぞ。」


俺がゆゆにそう言うと、「え?バカ?どこどこ?」とわざとらしく光はキョロキョロ辺りを見渡す。


「お前だバカ。」


そう言いながら、バシンと光の頭をしばけば、光は「んもー、佑都さっきから俺の頭叩きすぎでしょー。バカになったらどうしてくれんのー?」と文句を言っているが、残念でした。
もう十分すぎるくらいお前はバカだ。


「…そうなんですね…残念です。」


頭を押さえて痛がっている光を冷めた目で見ていると、ゆゆは落胆しているようにそう言った。


「佑都先輩と写真、撮りたかったです…」と。


え、まさかそんなに落ち込まれるとは思わなかったからちょっとびっくりした。別にゆゆとなら写真くらいいつでも撮れるのに。

落ち込むゆゆに、ポンポンと軽く頭に手を置くと、ゆゆはチラリと赤い顔をして俺を見上げた。

赤面症なこの後輩は、とても可愛げがある。


「ゆゆならいつでも撮れるだろ、落ち込むなよ。写真、後でな。」


そう言ってゆゆの頭に乗せていた手でゆゆの髪を撫でると、ゆゆは嬉しそうに笑った。


「なんかなんかなんかぁ、佑都ってぇゆずちゃんに甘くなぁ〜い?超妬けるんですけどぉ〜。」


今度は何の真似なのか、光は女子高生ギャルのようにバカみたいに語尾を伸ばして喋り始めた。やっぱりバカか。


「なんかなんかなんかぁ、お前まじキモいんですけどぉ。」


バカな光の口調に似せて話すと、光はその途端にハッとしたように俺を見た。


「佑都がノッた…!」

「あ、やっべ。」


ついバカな光に加担してしまったじゃねーかよ。そして嬉しそうな顔すんな。



ゆゆが美術室へ来てからは、暫くゆゆと話していたため、1年生はスタンプを押して遠巻きにこちらを窺いながら、去って行った。


「写真撮ってもらえそうにないね」と言って帰っていった生徒も数人いたことに苦笑する。だから写真撮る場所じゃねえっつーの。まったく。変なことになってしまった。


はやく終われよスタンプラリー。と思いながら、俺に話しかけてくる1年生と一言二言会話をしながら、スタンプラリー終了の時間を待つ。


12時を過ぎた頃にはほとんど生徒は来なくなったので、そろそろ引き上げようかと体育館へ向かった。


「めっしーめっしー俺ちょー腹減ったぁー。」


ようやく昼食が摂れるとご機嫌な光の後を追う。

なんだかんだ光に文句言っていた俺だが、このスタンプラリーで1年生と光が少しでも交流できたのなら、まあいいか。と写真撮影できる場というのを作り上げてしまった光の行動を水に流してやることにした。



さて、俺も腹減ったしさっさと飯食って午後に備えよう。と体育館に戻った俺たちだったが、物事はあらぬ方向へ進んでいた。


体育館へ入ってすぐ、会長がなにやらこちらを見ながら手招きしている。


「佑都、夏木、ちょっと来い。」


そう呼ばれて俺と光は、会長の元へ駆け足で向かうと、風紀委員の生徒も会長と共に俺と光に用があるようで、「来た来た。」と俺たちに視線を向けた。


「なんですか?」

「夏木、松波 柚鈴って1年、確かお前の友達じゃなかったか。」


会長に俺が問いかけるも、会長は光に向かってそう問いかけた。しかもここでゆゆの名前が出てくるとは。ゆゆに何かあったのだろうか、と眉を顰める。


「友達ですよ?それがどうしたんですか?」


会長の口からゆゆの名を聞いて、光も不思議そうに首を傾げる。

なんというか…嫌な予感っつーか…あまりよくない話をされるのではないだろうか、と少々不安になりながら会長が話し出すのを黙って待つ。


「その生徒が今し方、階段から突き落とされたらしくてな。」

「は!?」


会長の言葉に驚きの声を上げたのは光だ。

勿論俺だって驚いている。けれど、会長からゆゆの名前を聞いた時点でそういう話は予想できたため、驚きと言うよりもやっぱりそういう系の話なのか、という落胆する思いが強い。


「幸い足首と手首の捻挫と擦り傷で済んだみてぇだけど、打ち所悪かったらまあ危ねえ話だわな。」

「ゆずちゃん今どこですか!?つーか誰だよゆずちゃん突き落とした奴!マジ許さねえ1回死んでこい!寧ろ俺が殺してやろうか!?」

「あほか、ちょっと落ち着けよ。」


物騒なことを口にする光に会長も風紀委員も若干引き気味だ。


「突き落としたのは1年Aクラスの生徒。主犯じゃねえけど同じく1年Aクラスの生徒2人も一緒に居て松波に野次飛ばしてたとか。」

「なんでゆずちゃんが野次られんだよ!!」

「…佑都、心当たりあるんじゃねえか?」

「……え?…俺が?」


驚いた。突然、真剣な目をした会長が、俺をジッと見たからだ。

心当たり?……ゆゆが野次られて、突き落とされた心当たり…?


言われている意味が分からず、茫然とする。突然話が俺の方へ向いたことに、ついていけない。…心当たりって?一体会長は何を言ってんだ。


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