モテモテ佑都くん [ 110/112 ]

神谷 佑都 中学2年 身長167cm
モテモテイケメン中学生

夏木 光 中学2年 身長161cm
やんちゃわんぱく中学生




「じゃあみんな、絶対教えてね?」

「うん、自分だけ言わないとか無しね!」

「オッケー!あっ、じゃあさ、みんなせーので一斉に言わない?」

「いいね、そうしよっ!!」


放課後の教室、女子生徒数名が輪になって、恋愛話に花を咲かせていた。


「せーのっ!」

「「「「「神谷くん!!!」」」」」


彼女たちが声を揃えて口にしたその名に、うわああ!!!と彼女たちは盛り上がる。


「ええっ嘘、アキちゃんも神谷くんのこと好きだったの!?なんでぇ!?」

「サキちゃんだって!!この前山下君と仲良さげに話してたから山下君のことが好きだと思ったのにー!!」

「山下とは仲良いけどー…ただの友達?やっぱ神谷くんでしょーかっこいいし!」

「だよねー、あたしもー。でもみんな好きとかどうすんの、やばいってー…」

「抜け駆けダメだよー!!ミホとか神谷くんと席近いから超喋れんじゃん!ずるいしー!」

「え、喋れないから!!喋りたいけど!!だいたい神谷くんって夏木くんとばっか話してるから話しかけ辛いしー…」

「あっわかるー!!あの二人仲良いよねー」

「あ!てかさ、神谷くん夏木くんと仲良いから、3組の宮本さんまずは夏木くんと仲良くなろうとしてたんだよ!!」

「うわ!ウザー!あいつぶりっ子だからあたし嫌ーい!」

「でも夏木くん、全然宮本さん相手にしてなくて笑ったわー。宮本さん、夏木くんに話しかけてんのに夏木くん、『あ!!録画してくんの忘れた!』とかなんか言って慌ててんのー!」

「うわーなにそれ超ウケる!!」





「……佑都、早く教室入りなよ。」

「……お前取ってきてくんねえ?」

「はあ?佑都が忘れもんしたんだろー、なんで俺が佑都の忘れ物取りに行かなきゃなんねーの。」

「この状況で入れっつーのかよ!」

「この状況だから入るのさ!さあ!行きたまえ、佑都くん!」


光はにこやかな笑みを浮かべて、俺の背をグイグイと押した。

「うおっ!?おいやめろよ!」と叫んだ時にはもう手遅れで、教室の扉は光によって開かれてしまい、そこに居た女子たちが一斉にこちらに目を向けた。


忘れ物を取りに戻るために廊下を歩いていた時から、俺のクラスの教室から高い声の会話が聞こえるな、とは思っていた。

思っていたが、まさか自分の話をされているとは思いもしなかった。さらに光の名前まで教室の中から聞こえてきて、「なになに?なんか言われてる」と女子の声に耳を傾け始める光。

廊下で固まっていた俺に、とうとう目的を果たすために中へ入るよう光に促され。さらに、むかつくことに何が楽しいのかこいつちょっとニヤニヤ楽しそうに笑っている。


俺が教室に現れたことで中にいた女子たちは、驚いて声を上げたり、顔を赤くして固まっていたりした。


「ど、…どうかしたの?神谷くん」


中にいた女子の一人が、恐る恐るというように俺に問いかけた。


「あー…うん。忘れもんしたから取りに来た。」


俺はそう言って、自分の席にかけっぱなしにしていた体操服が入った鞄を手に取る。

皆がジー…と俺のことを見ているので、とても居心地が悪い。


「てかなになに〜?放課後に夕暮れの教室でガールズトークでもしてたの〜?」


さて目的は果たしたからとっとと教室を出ようとしていると、光が女子の輪の中へ足を進めて行ったのでギョッとした。


「いやいや、まだ日暮れてねーだろ。」


思わずそんなツッコミを入れてから、さっさと帰るぞ、と光の持つスクールバッグを引っ張るが、なんとこのバカ、「俺も混ざりたーい」などとほざき始めた。


「あほか、ガールズトークに男が混んな!」

「じゃあ俺らも混じってガールズ&ボーイズトークしようか。」

「うっぜー、迷惑だって。なあ?」


そう言って俺は女子たちに顔を向けるが、勢い良く首を左右に振られた。いやいやそこは「うん。」と言ってほしかった。


「ううん、全然!大歓迎!」

「うんうん!迷惑だなんてありえないから!」


そう、うんうん皆に頷かれ、なんだか帰り辛い空気が漂う。いやしかし俺はもう帰るぞ。


「ほらほら神谷くん、一緒に私たちとお話ししましょっ!」

「きめえなお前はいちいち。勝手にやってろ」

「やだー私を置いてかないでー!!!」


女子の前でもこいつはソレをやるか。

勿論ソレとは、気持ちの悪い演技のことだ。

キモい光は教室に置いて、さっさと教室を出ようとすると、光は俺の手首をギュッと強く掴んで来た。


あはは、と笑う女子たちの声。


「ほんとに神谷くんと夏木くんって仲良いねー」と言われてしまった。意味がわからん。今のやり取りをどう見たら仲良く見えるのか。


「2人っていつから仲良いの?」


そしてなにやらそんな質問をし始める女子たち。光は「えー、んーとー」と悩み始める。

だがしかし俺はそこで口を挟んだ。


「あー誤解誤解。俺ら全然仲良くねーから。ただの幼馴染み。」

「はあー!?なに言ってんのー?超超仲良しじゃん!一心同体じゃん!」

「きめぇよ。つかさっさと帰るぞ。はい、お邪魔しました。」


俺はそう言いながら、光の頭を掴んでお辞儀させた。そのまま強引に教室の外へ引っ張って行く。


「うおっちょっとコケるコケる!危なぁ!あっみんなまた明日〜」

「うん、また明日ねー!」

「神谷くん夏木くんバイバーイ!」


ヘラヘラ笑っている光を教室の外へ追いやれたことを確認して、手をはなした。


「佑都もバイバ〜イって言ってあげなきゃぁ。」

「は?言わねーよ。」

「ダメ!言ってきて!」

「なんでだよ!!!」

「おもしろいから!」


光はそう言って、ホラ!早く!と顎で教室を指す。意味わかんねーよ。なにが面白いんだよ。


しつこい光は教室前で立ち止まっていて動こうとしない。


痺れを切らした俺は、「はあ。」とひとつため息を吐いてから、教室を再び覗いた。



「えっなに!?」

「神谷くんどうしたの!?」

「またなんか忘れ物した!?」

「…あーいや、……バイバイ。」


ボソリとそう口にして、素早く顔を廊下側に引っ込めた。

引っ込めたら、光がニヤニヤしながら俺を見ていた。ウザすぎる。なんなんだよ。マジウザい。なんでこいつ、こんなニヤニヤしてんの?


「やーやー、上出来です、佑都くん。」


光がそう言った直後、教室からはキャーキャー騒がしい声が聞こえてきた。


「なに今の、なに今の、なに今のー!!」

「やばーい!!バイバイって言ってくれたよ!!」

「てかあたしたち神谷くんと喋っちゃったんだけど!!」

「グッジョブ夏木くーん!!!」

「ちょっと、みんな、まだ神谷くん近くにいるかもだから声抑えて…!聞こえちゃう…!」


あの、…ええ。
バッチリ聞こえてるんですけど。

聞こえた声に、びっくりしてその場から動けずに居ると、光は俺の肩をポンポンと叩いて隣に並んだ。


「グッジョブ、夏木くぅぅん!だって!俺!夏木くん良い仕事する〜ぅ!」


そう言って光は、愉快そうに笑いながら歩み始める。

こ、こいつ…!!

俺をオモチャにしてねーか。
ムカつくわ。超腹立つんだけど。
あ、やべムカムカしてきた。

その苛立ち全部を俺は、ドロップキックを光のケツに入れることで発散させた。


「ぶへっ!!いったあ!!!なにすんの!?」

「え、仕返し?」

「なんのだよ!」

「あーもーうぜーなあ。早く帰んぞ。」


まだぐちぐちと文句を言っている光を置いて、俺はさっさと歩きはじめた。





翌日、俺は光と共に、いつもの通学路を歩く。いつも通りの学校で、教室へ入れば友人たちと「おはよう」と挨拶を交わす、いつも通りの朝。

けれど、どこかそわそわとしたクラスメイトの女子が、俺と顔を合わせるなり「おはよう!」と言ってきた。
昨日、放課後教室にいた女子の一人だ。

そしてまた一人、また一人、と昨日の放課後少しだけ話した女子が俺に声をかけてくる。

どういう心境の変化なのだろう、今まで挨拶なんかしたことなかったじゃねえか。と不審に思っていると、ニヤニヤとした笑みを浮かべた光が「やーやーみんな頑張ってるねえ。」と言って笑っていた。
意味がわからん。そのニヤニヤとした顔をやめろ、とてもウザい。

ギュッと光の頬っぺたをつねってやれば、「イタタタ」と言ってニヤニヤ顏をやめたので俺は少し満足した。

女子たちは、「おはよう言えたね!」と嬉しそうに固まって話している。

ちょっとなんか昨日ので親近感持たれてねえか。気の所為か。俺挨拶するキャラだと思われたんじゃねえか。言っとくけどいちいち挨拶するほど礼儀正しい奴じゃねえぞ俺は。


しかし「おはよう」と言われればシカトするわけにもいかず、適当に「おー。」とか「あー。」とか返していたが、そんな時、クラスの男子数人が、なんと突然俺を囲って、その中の1人が4の字固めを決めてきたではないか、意味がわからん。


「は!?ちょ、なんだよ!?痛え!!!」

「クッソーー!!神谷ぶっころ!!!」

「いやいや意味わかんねーから!!」

「いいぞ山下もっとやれー!」


周りの男子は俺の身体を締め付けている山下の応援をし始めた。

そんな男子に「ちょっと神谷くんに何してんの山下ぁ!」と輪の中に入ってきた女子は、昨日放課後教室にいた女子の一人だ。

しかし女子が入ってきたからと言って、山下の攻撃はまだ続く。

いい加減苦しいわ暑苦しいわでイライラしてきた俺は、山下の腕にガブリと噛み付いた。多分歯型ついたな。だが知るか、自業自得だ。


「ぐわぁああ!!」


勢い良く俺の身体を離した山下に、今度は鳩尾に指の先をぐさっと刺した。


「うっ……」


痛がる山下に周囲は「勝負あったな…」と言って退散していった。マジで意味がわからん。朝っぱらからなんで俺は格闘させられなきゃなんねえんだよ。


「よっ!佑都くんあっぱれ!」

「うぜー…なんなんだよ朝っぱらから。」

「多分山下の好きな子が佑都に挨拶してたからヤキモチ焼いちゃったんだねー、やーやーモテる男も大変ですな!」

「笑ってんなよ大概お前の所為だからな」

「ええ、俺なんもしてなくね?」


なんもしてなくねーよ。
俺に挨拶してきた女子は山下が好きな子で、それでヤキモチ焼いてこうなったとしたら、そもそも女子が挨拶してきたきっかけは昨日にある。

昨日あのまま忘れ物だけ取ってさっさと帰っていたら、こんなことにはならなかった。

ということで、これは100%光の所為なのだ。


「お前の所為ったらお前の所為だ。」

「えー、佑都ってなんでも俺の所為にするよね。自分がモテる所為だとは思わないわけ?だーから男子を敵に回すようなことになるんだよ。」

「意味わかんねーモテねーよバカ、お前の所為だっつってんだろ!」

「アタタタタタ!痛いって!佑都のバカー!」


八つ当たりも兼ねて、光の首をギュウギュウと片腕で締め付ける。


「あ、見て見てまたあの二人戯れてるー」

「ほんとだーやっぱ仲良いよねー」

「あれあたしもされたーい!」

「あはは何言ってんの、夏木くん超痛そうだよ?」

「確かにーでもやられたーい!」


教室の隅で、俺と光の様子を見ていた女子が、そんな会話をしていることなど俺が知るはずもなく、さらにそんな女子の会話を聞いていた男子が、俺を悔しそうに睨んでいたことなど、俺が知るはずもない。


おわり

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