幼馴染みの誕生日 [ 109/112 ]

神谷 佑都 中学1年 身長163cm
モテモテイケメン中学生

夏木 光 中学1年 身長158cm
やんちゃわんぱく中学生



「ゆーうっとくーん」


ダンダンダンダンダン

俺の名を呼びながら階段を勢い良く上ってくる足音が聞こえる。
今日は日曜日で学校が休みの貴重な休日。俺は10時過ぎまでのんびり布団の中に居た。


『バンッ!』

「ハッピーバースデー、俺!」


しかし勢い良く開かれた扉の音と、テンションの高いあいつの声で、完全に目が覚めてしまった。
あーもう…最悪…
あと少し眠る予定だったのに。


「ハッピーバースデー馬鹿野郎」


そんな言葉とともに枕を投げつけた。

「ぶへっ!!」


見事顔面でそれを受け止めた光。


「まっ、待ってまさか今のが誕生日プレゼントとかねぇよな!な!」

「おーじゃあそれにしとけ」

「ゆっ、ゆうとのまくらがプレゼント…!」

「あーうるせ」


うるさい光のせいでもう二度寝は無理と分かった俺は、部屋を出る。1階に降りて、キッチンへ。


「あー腹減ったー。母さんなんか食いもん」

「あら、やっと起きてきたの?冷蔵庫にケーキ入ってるから光と食べなさい。」

「え、朝からケーキとか無理。米ねーのかよ。」

「もう朝じゃないし。昼ごはんまでケーキで我慢しなさい!」

「…うへー。」


とにかく空腹で仕方なかったため、大人しく冷蔵庫からケーキを出して、テーブルに持っていった。

皿2枚とフォーク2本とコップ2つを用意すると、当たり前のようにテーブルのイスに座ってくる光はもう見慣れたいつもの風景だ。


「ゆうとママケーキありがとねー!」


リビングでテレビを見る母さんにそう叫ぶ光の皿に、イチゴの乗っかったショートケーキを乗せてやった。

嬉しそうにケーキを食べはじめる光を眺めながら、コップに麦茶を注いだ。


「あ、佑都俺行ってみたいとこあるんだけど」

「は?どこ?」

「それは行ってからのお楽しみー」

「…絶対行かね。」

「えぇ、嘘!誕生日だぞ、俺!」

「知らね。」

「お願いお願いお願い!」


突然ガキのように駄々をこね始めた光を無視してショートケーキを口に運ぶ。うへー…やっぱ甘い。

麦茶を飲んでいると、母さんがなにやらこっちへやって来た。


「もう、光誕生日なんだから!今日くらい言うこと聞いてあげなさい!ほら!おこずかいあげるから!」


そう行って、お金を俺に手渡す母さん。


「ゆうとママぁ!女神!」

「あらぁ女神だなんて。ありがと」


母さんはやたら光に甘い。
そして仲がいい。

めんどくさいことにこうなったら、光のお願いを聞くしかなくなった。聞かなければ聞かないで後からめんどくさいことが待っているのは目に見えている。

ケーキを食べ終わった食器を片付け、出かける準備をはじめることにした。



「で?行きたいとこってどこ?」

「ふっふ〜んそれはですねぇ…」



やたらご機嫌な光に連れて来られた場所は……


「………スイーツパラダイス…?」

「そう!略してスイパラ!」

「却下。無理。行かね。」

「いやいやいや佑都くん!?俺!今日!誕生日!」


無理なもんは無理。つーか俺は米が食べたいのになんでまた甘いもん食べなきゃなんねーんだ。
それになんだよ、あの雰囲気。
どーみても女子が来るとこじゃねーか。
つーか女子と子連れのママさんたちしかいねーじゃねーかよ。あほか。


引き返そうとする俺の腕をグイグイ引っ張る光。


「いらっしゃいませ」

「あ、2名です2名!!」

「あっばかやろ、すんません違うんで!」

「えっ違うくないから!」

「…えーと…2名様で…よろしいですか?」

「はい!お願いします!!!」


…あーもう…最悪………
困った表情を浮かべる店員を前にもう何も言えず、光に引きずられるように店内へ足を進めた。

案の定来ているのは女性客だらけで、完全に浮いてる俺と光。男性客がいてもそれは可愛い女の子を連れたカップルである。


「うっひょお!90分食べ放題!」

「…はあ。」


喜ぶ光に俺はひとつため息を吐き、大人しく案内された席に着いた。


「見て見て、あの男の子たち。かわい〜」

「ほんとだ、2人で来てるのかな?」


……ちょっと待て、会話聞こえてんだよ。
そこのお姉さん2人組。そしてこっちをがっつり見てんな!


「あっ俺マシュマロ食べよ〜。佑都マシュマロいるー?」

「うるせー!ちょっと静かにしろよ!」


マシュマロを皿に取りながら1人席で座っていた俺に大声で話しかけてきた光。
俺がそう返す返事さえもちょっと大きな声になってしまい、周りの女性客はクスクス笑いながらこちらを見ている。

あーもう無理、恥ずかしい。
なんだよこの甘ったるい空気。
マジ帰りてー。


数分後、るんるんと皿にマシュマロやら小さく切られた何種類ものケーキを乗せて戻ってきた光が俺に言う。


「佑都、カレーライスあったぞ!」

「…………マジ?」



光に言われて見に行けば、確かに隅っこの場所に、カレーを含むパスタやらサラダやらの、スイーツ以外も置いてあった。

あー…ちょっと救われた気がする。

途端にお腹が減り始めた俺は、平たく大きな皿を持ち、白ご飯を大量に盛って、カレーのルーをこんもりとかけた。


「あはは、あのかっこいい子、スイパラなのにがっつりカレー取ってきてる」

「お腹減ってたんだねー」


…だから!聞こえてるから!会話!
ちょっと黙れよお姉さん方…!

恥ずかしくなりながらそそくさとテーブルに戻る。


「おいー、佑都せっかく俺がスウィーーツを堪能してんのにそりゃねーよ。カレーの臭いやべぇし!」

「うるせー!お前がカレーあったって言ったんだろ!嫌なら教えんな!」

「あっ、いいこと考えた。マシュマロカレーに付けて食べる?」

「あっバカ!やめろよ!きっめーなおいお前それ責任もって食べろよ!?」


俺のカレー皿にバカな光はコロンとひとつ、マシュマロを入れてきやがった。
すかさずそれを皿から出して、光のケーキの乗った皿に放り込む。


「ああっ!俺のケーキにカレーが…!佑都のバカ!」

「お前がバカなんだろ、自業自得。」

「ううっ…」

「お残しは許しまへんでぇ」

「…俺今日誕生日なのに…」


ええ、こいつマジ凹みしだしたよ。

少し様子を見ながらカレーライスを食べ進める。

チラリと光を見ながらもぐもぐ食べる。

何故か隣のテーブルに座るお姉さん2人組も、俺たちの様子を伺っている。
さっきまで騒がしかった俺たちの席が急に静かになったからか、俺たちが喧嘩したとでも思ったのか、成り行きを見守っているようだ。こっち見んなマジ。

あまりの沈黙に耐えきれず、ひとつため息を吐いて、光のケーキの乗った皿に手を伸ばした。

「拗ねんなよ。これだけ食べてやるからあとお前が食べろよ。」

「……マシュマロの方?」

「当たり前。それはほんとにお前の自業自得だろ。…うわ、まっず、これ」


カレールーがついたチョコケーキの味は最悪だった。


「…わかった、佑都ごめん…」

「もういいから。新しいケーキ取って来いよ。あ、そのカレーマシュマロ食ってからな」

「うん!!!」


気合いを入れて、光はマシュマロを口の中に放り込んだ。


「……………あれ、意外とイケるんだけど!!!」

「は?お前味覚おかしいんじゃねーの?」

「これは新発見ですわ!」

「そーかよ。」

「マシュマロとカレー取ってこよー」


…はあ。もう好きにしろ。

ぐったりしながらカレーライスを食べる俺に、お姉さん2人組…更には近くの女性客まで、俺たちのやり取りを見て笑っていた。

なにがおかしい。
笑い事じゃねーんだよこっちは。

そう思いながら、俺はその後、ヤケクソになってパスタやらサラダやら、スイーツ以外を食べまくったのだった。


「ふぅ、食った食った。」

「ラストはやっぱソフトクリームだな」

「意味わかんねぇ。ラストは麦茶だろ。」

「つーかさ、ソフトクリーム作ってたら可愛いお姉さんに超笑われたんだけど!なんで?」


…あ、こいつここ来てからずっと俺ら見て笑われてたこと知らねーんだ。
そりゃそうだよな、だって光、頭ん中マシュマロだらけだったしな。

「ハッ」と笑って、「お前があまりにもバカ面だったからじゃねーの」と言って、麦茶を一気に飲み干した。

「バカ面なんかしてねー!」と反抗しながらソフトクリームを食べる光の顔は、文句無しのバカ面である。

そんな感じで、スイーツパラダイスを堪能したご様子の光は満足そうに店内を出たのだが、やっぱり俺たちは最後までお姉さん方からの視線を浴びっぱなしだった。


「もう二度とスイパラは行かねー。」

「えぇ、そう言わずにさぁ!」

「お前が誕生日っつって駄々こねるから仕方なしに行ってやったんだ、感謝しろよ。」

「えへへー、ありがとう」


だらしない笑みを浮かべてお礼を言う光に、まあ今日くらいなら、と光の誕生日に付き合ったのだが、よく考えれば俺ってわりといつでも光のわがままに付き合わされてるんじゃねーの?ってのは、家に帰るまで気づかなかった。


おわり


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