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終了時間を知らせるチャイムが鳴り響いた。何の終了時間かと言うと、学力テストの、である。

2、3年は今の時間、一斉に学力テストを行っている。成績には関わらないが、進路を決めるために必要な大切なテストだ。


「はぁ〜やっと終わった〜。なげぇよ時間。」


そう言って欠伸をしながら、帰る仕度をする俺の元へやってきた猛。確かにテストの時間は長すぎた。
じっくり考え、回答用紙をすべて埋め終わっても20分ほど余っていた。


「あ〜やっと帰れる!!佑都、この後暇?」

「なんで?」

「や、たまには佑都も呼べって。傑(すぐる)が。」

「なにに?」

「遊びに。ほら、佑都あんま誘っても来ねーじゃん?」

「俺ゲーム苦手だし。」


傑とは、隣のクラスの猛の友人で、よくゲームをしたりして遊んでるようだが、俺はあまりゲームに興味を持てないため何度か誘われても断っていた。


「うーん、でもまぁたまには佑都も呼んで遊びたいって。傑が。」

「俺そんな向井と仲良くないけど。」

「ま、ま、たまにはどうよ!」


猛の誘いに暫し俺は考える。
因みに猛の友人、向井 傑(むかい すぐる)という名である。


「んーじゃあ、たまには行くか。」

「お!まじ?じゃあ傑にメールするわ!」


俺の返事に猛はすぐさま携帯電話をポケットから取り出した。

暇があれば勉強をしていたが、まぁ今日は特にやることも無いし、たまには同い年の奴らの遊びに顔を出すのも悪くないかと、俺は猛の誘いにノったのだ。


「返信はっや!…『HR終わったらそっち行く』だって。ハートの絵文字付き!きめぇ!」


ほら、と向井からの返信メールを俺に見せてきた猛。見れば確かに、文字の最後にピンクのハートの絵文字がぷかぷかと浮いていた。


「…なに、お前らってそーいう関係?」

「は!?違う!断じて!!!」


「気持ち悪いこと言うなよー」と俺の言葉に、猛は全力で否定した。そんなに言ってやったら向井が可哀想だ。…とは特に思っているわけではない。



「佑都っくぅーん!迎えに来たよ!向井だけにね!」

「意味がわからん。」


HRが終了したと同時にやってきた、この向井という猛の友人、かなりハイテンション野郎である。


「傑、あんまりウザイと佑都すぐ帰るぞ。」

「まじ?やだ!帰んないでね!佑都きゅん!」


もうこの時点で十分ウザイ、向井 傑。

光くらいの身長に、光並のハイテンションだ。いや、光以上のハイテンションだ。正直、身近にハイテンション野郎は1人で十分だと切実に思う。


「で、どこ行くんだよ。猛の部屋?向井の部屋?」

「俺の部屋〜!佑都くんが好きそーな頭使うゲーム用意してあるよ!」

「なんで頭使うゲームが好きな設定になってんの、俺。」

「頭良いから!」


………どうしよう、俺、こいつ苦手だわ。

嫌いとかじゃなくて、苦手。うん。まじで……。


「もおー、傑!佑都が真面目に困ってるから!まじ佑都帰るって言いかねんぞ!」

「まじ?やだ!帰んないでね!佑都きゅん!」

「それさっき聞いたから。」

「あぁっもお佑都くん超クール!!!」


………だめだ、ついていけん。

猛に『早く行くぞ』という視線を送れば、それに気付いた猛が苦笑しながら、俺の隣を歩み始めた。

向井の部屋へ行くのに、俺が先頭を歩いてどうする。


「しっかし嬉しいなぁ〜、佑都くんが来てくれるなんて!」


向井はなにがそんなに嬉しいのか、始終ニコニコと笑顔である。


「わけわからん奴だな。」

「ただの佑都ファンだよ。コイツ。」

「は?」


しれっとした顔で猛は恐ろしいことを口にした。


「ちょっ、やだっ!それは言わない約束でしょー!」


と、ペロッと舌を出してウインクしだす向井傑。


「まじかよ。」

「残念ながら。」


御愁傷様とでも言いた気な猛の表情に、俺はちょっぴり泣きたくなった。


「つーかファンってなんだっけ。」


俺はそんな知ってて当たり前の単語を辞書で調べたくなった。


「おいおい、学年主席が何言ってんの!」

「頭よし!運動神経抜群で、顔もかっこいいなんて、俺がファンにならないわけないっしょ!」


そう言って、向井傑がドヤ顔している。全くもって意味がわからん点がいくつか。

まず、ひとつ。
向井傑がドヤ顔する意味。

そしてもうひとつ。


「俺別に運動神経よくないけど。」


勉強はそれなりに努力もしてるためできる自信はあるけど、運動は特に誇れるようなほどでもない。…のだが…


「いや、佑都やる気ないだけでしょ。」


猛が痛いとこを突いた。


「…いつも全力だけど?」

「嘘言うな!1000m軽く走って佑都が全校50位内に入ってるのは皆知ってんだぞ!」

「なんで軽くってわかんだよ。」

「体育教官が嘆いてた。あいつ真面目に走ればもっと上目指せるのに!って。」

「あぁ、そう。」


残念ながら俺には、汗をだらだらかきながら辛い思いしてまで記録を伸ばそうという思いはこれっぽっちも無いのである。


「ほんと、佑都くんは罪な男だね!運動部の敵だよ。こういう天性の運動神経の持ち主は。」

「なぁ、お前さっきからその呼び方やめろや。」

「へ?呼び方?……佑都くん?」

「そう、それ。」


先程から気持ち悪くて仕方がなかったことを、ようやく今になって指摘する。


「じゃ、じゃじゃじゃ、じゃあ…佑都…!」

「なに照れてんの、気持ちわりぃなおい。」

「仕方ないよ、コイツ、“佑都ファン”だから!!」

「おい猛。次言ったらしばくぞ。」

「すみませんでした。」



その後、何度か君付けをやめようと試みた向井だったが、「やっぱ無理ぃ〜〜!」と気持ち悪く嘆いていたのでもう放っておくことにした。

君付けしてもしなくても、気持ち悪いことは変わりないということだ。



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