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「ちょっと!そこの後輩!」
柚鈴と新入生歓迎会の話をしていたちょうどその時、腕を組んで壁に寄っかかっていたやけに態度のデカそうな…しかし身体つきは小さい男が俺達を見ながら声を発した。
「ん?俺?柚鈴ちゃん?」
どっちに用があるのか、と顔をその男に向ければ、男は言う。やはり態度はデカかった。
「お前ら2人を呼んでいる!お前ら神谷様の周りをうろちょろするのはやめろ!」
「……は?神谷様?」
「佑都先輩のことだよ…!」
ポカンとする俺に、柚鈴がこそっと教えてくれた。え、まさかの様呼び?佑都何様!
「神様かよ!」
笑いそうになりながら思わず口を開けば、その男はキッと鋭い目付きで俺を見た。
「お前は神谷様の幼馴染みらしいな。…幼馴染みだからって贔屓はしないからな!」
「え、ちょっと言われてる意味がよくわから「これ以上神谷様に近づくなって意味だよ!」へ?何故。てかやだ。」
佑都に近づくなとか言われる意味がわからない。誰かもわからない奴に。
「それより誰?態度デカイのに小さいこの人。」
「ひっ光…!そんなこと言っちゃ失礼だよ…!」
柚鈴が焦った表情で俺にそう言う。
「おっ…お前…!生意気だぞ!調子に乗るなよ!」
「もー、なに、ほんとこの人ー。柚鈴ちゃん行こー?」
「待てよ!まだ話は終わってない!!」
柚鈴の腕を掴んで進もうとしたが、誰だかわからないこの人がまだ何か言っている。
「忠告はした!これ以上神谷様に近付こうとするのなら、僕たちも黙っちゃいられない!」
「……あのさぁ、それ佑都が頼んだの?佑都はそんなことをわざわざ人に頼んでまで言わないとは思うけど。」
俺が近くにいてうっとおしいのなら、佑都がそれを俺に直接言うはずだ。それなのに、この誰かも知らない人に『近づくな』と言われたことが、俺はとても腹立たしかった。
「僕は神谷様が学校生活を快適に過ごせるようにと思って言ってるんだ!」
男の言葉に俺は「ハッ」と鼻で笑った。呆れて笑えもしないんだけど。ていうか佑都ってまじで何様なの。え、神様なの?そこ、ほんと笑える。
「じゃあわかった。“神谷様が快適に過ごせるため” に俺に近付くなって言うのなら、俺 か ら は近付かないよ。」
「えぇっ!ちょっといいの!?光!そんなこと言っちゃって!!」
大丈夫。問題ないよ。
心配そうな表情の柚鈴ちゃんに、俺は笑ってみせる。
「俺と佑都の仲を甘く見んなよ?
佑都にちょっかいを出さない俺を、佑都は絶対に心配するぜ!」
自身満々にそう言い放った俺に、柚鈴と目の前の男は目をパチクリと見開いて唖然としていた。
その後、「佑都からの接触には口出すな」と男に約束をしてもらい、男は微妙な表情で去って行った。
「結局今の、誰なんだ。」
「佑都先輩の親衛隊員だよ…きっと。」
「しんえいたいいん?」
柚鈴は眉間に皺を寄せながら語った。
人気な生徒にできるファンクラブのような組織だと言う。中等部の頃から人気な生徒には親衛隊がいたと柚鈴は俺に教えてくれた。
「佑都ってやっぱ神様なんだ…。」
「光、それなんか違う…。」
「いやぁ…神谷様、神谷様って何度も聞いてるとまじで神様って聞こえてきたよ?」
ていうか俺、普通の学生に様付けて呼んでる人はじめて見た。お嬢様系学園ドラマなんかじゃ見たことあるけど。
「神谷様なんて呼んでる人はもう、心の底から佑都先輩を崇拝してる生徒たちだよ。…光、気をつけた方がいいかもしれない。」
柚鈴は深刻そうな顔付きでそう言った。
「えー、なんか腹立つなぁ。『神谷様〜』ってからかいに行きたいのに、俺からは佑都に近付かないって言っちゃったよ。」
「……僕、なんだか光が心配だよ。」
「大丈夫、俺能天気だから。」
「……僕、ますます光が心配だよ。」
徐々に表情を暗くして、柚鈴は俺を見るのだった。何故。
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