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「真田先輩!大変です!…神谷様が…!」

「うん?神谷様がどうした?」

「神谷様が…!1年の松波と、仲良さげに食堂で話していたという情報が…!」


はぁはぁと息を切らし、“真田”という生徒にそんな報告をしている。

彼らは、本人の知らないところで密かにその規模は大きくなりつつある、“神谷 佑都親衛隊”である。


「へぇ…それは気になる情報だな。」


昨年は、クラスメイトで友人の羽賀 猛としかつるむことの無かった神谷様が。

隊員からの知らせに、ピクリと片眉を上げた。


「はぁ…神谷様…。」


うっとりとした表情で呟くこの真田という少年……3年Sクラス、真田 巧(さなだ たくみ)、神谷 佑都親衛隊隊長である。


自身にも小規模ながらに親衛隊が存在するほどの人を惹きつける容姿の持ち主であり、色白でスラリと細い中性的な美人である。


「松波は、神谷様に近付くために、神谷様の幼馴染みである夏木 光に近付いた節があります!」

「へぇ、そうなんだ。」


それは少し見逃せないね。と真田は静かに呟いた。





「おい光…お前なんださっきから。」


和食定食に入っている俺の嫌いな人参を、佑都が食べているカツ丼に無言でぽいぽいと放り込めば、佑都はジロリとこちらを睨んだ。


「俺人参きらーい。」

「それは知ってんだよ。つーかさっきからまじなんなの、機嫌わりぃの?」


そう。俺は今、機嫌が悪い。

生徒らで溢れている食堂の席を取るために、猛とダッシュで空いている席を陣取った。数分後、俺と猛が待つ席へ、柚鈴とのんびり、しかも仲良さげに歩いて来た佑都を見た時から、どうやら俺は機嫌が悪い。


「佑都のカツ丼が羨ましいとか別に思ってないしー。」

「は?なに、食いたいなら食いたいって言えよ。」


と、カツを一切れ俺の目の前の皿に置く佑都。

俺のひねくれた発言に、嫌な顔をしながらもカツをくれる佑都は優しい。


「わー、佑都くんやっさしー。」

「まあ光がその出し巻き卵をくれるって言うから仕方なくな。」

「言ってない!言ってないよ!」


慌ててその出し巻き卵を死守しようとした時にはもうすでに、俺の出し巻き卵は佑都の箸に挟まれていた。


「ひどいわ佑都っ!あたしの大好きな出し巻き卵を奪うだなんて…!」

「はいウザイ演技入りましたー。」

「光は演劇部か何かに入るのか?」

「俺は昼ドラ研究部で忙しいから。」

「なんだそれ。」


猛の問いに答えれば、皆不思議そうな表情をした。佑都以外の柚鈴と猛が。


「勝手にあほな部活作んなよなまじで。」

「ちなみに部室は佑都の部屋ー。」

「ふざけんな、割るぞ。」

「ごめん。」


佑都の割るぞ発言、まじ怖い。

何故なら過去に佑都を怒らせた時、まじで俺の大切にしてるDVDを割られたことがあるからだ。



昼食を終え、佑都と猛と別れた直後、柚鈴は抑えていた感情が溢れ出て来たかのように、テンションを上げて口を開いた。


「あああやばかった、やばかったよぉ光〜!!」

「落ち着け柚鈴ちゃん!!!」


ぜえはあぜえはあ…柚鈴は高ぶっているテンションを落ち着かせるように呼吸をする。


「佑都先輩って、ほんと優しいよね。」


ポッと頬を赤く染めて柚鈴は言う。
本当にその姿は、恋する乙女そのものだ。男だけど。


「俺には超ひどいけどね。」

「…そうかな?…僕は光に一番優しいと思うな、佑都先輩。」

「え?」


柚鈴の発言に驚いた。どこをどう見たら、自分に一番優しく見えるのだろうか。確かにカツくれたけど、出し巻き卵取られたし……

うーん?と考える俺を余所に、柚鈴は気分良さげにスキップをして前に進んだ。


「女子か。」


柚鈴に聞こえないように呟くようにツッコミを入れた。


1年生は午後、体育館に集合とのことなので、俺達は食堂からそのまま体育館へ向かっていた。


「体育館でなにすんのかな?」

「新入生歓迎会の説明とかって聞いたよ?」

「へぇ、そんなイベントあるんだ。」

「毎年2、3年の先輩方が、1年のためになんかやってくれるんだって!」

「へぇ、そうなんだ。」


イベントは好きだけど、佑都と違う学年だと一緒に行動できないしつまらないなぁと密かに思う。


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