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「ああっくそッ!!!あいつぶっ殺してえ!!!」

「いやちょっとまじで落ち着けって。」


『独り占めしちゃってごめんな。』


夏木のその一言で、怒り狂い出した峯岸を宥めるのには少々時間がかかった。


どういうことだ?

ちょっと話が読めねえぞ。


「お咎め無しにしてやるから一から正直に話せよ。」

「あいつ目障りうぜえ殺してえ、以上。」

「いやそういうことじゃなくて。先に手出したのどっちだ?」

「俺。」


…ああ、そこはやっぱりそうだよな。

そこに嘘は無いだろう。
いや、正直に言えて偉いぞ。うん。


「じゃあ手を出した理由は?」

「目障りだから死んでほしい。」

「…おいおい、お前まじで階段から突き落としたんじゃねえの?」


死んでほしい、って殺意ありまくりじゃねえかよ。冗談はやめてくれよ。


「だからちょっと脅してビビらせようとしただけだって。なのにあいつが勝手に落ちたんだよ!」

「はぁ〜?なんだそれ、わけわかんねえぞ。」


つまり峯岸が階段から落としてやる、って脅して、夏木がはいはい落ちてやりますよ、…みたいな?

つーかそれやっぱ峯岸が悪くね?

喧嘩売る相手が悪かったよ。

あいつそんなんじゃビビんねーよ。


「まあなんとなく話は分かった…。多分。んでやっぱお前が加害者ってのもわかった。」

「チッ…」


そのタイミングで舌打ちとは。

認めたようなもんじゃねえのか。

まあもういいや。夏木が自分の不注意って言ってんだからそういうことで。


「で?お前神谷のこと好きだったわけ?」


夏木のこと目の敵にする奴は大体神谷のことが好きな奴だけど。

まさかこいつも?

いやまさかだろ。と思いながら聞けば、峯岸は拗ねた子供のように唇を尖らせる。


「…好きっつーか。…憧れ?…ずっとかっこいいなーって見てたんだよ…。」


……うわ、…まじか。


そう言った峯岸は、まるで恋する乙女のように頬を赤く染めている。

が、それも一瞬で。


ダン!!!と強く机を叩いて、峯岸は興奮したように立ち上がる。


「見てるだけで眼福ってあんじゃん!!!それをあいつがめちゃくちゃにしたんだよ!!!俺の!眼福を!!!」

「…あー…落ち着け落ち着け。話はよーく分かったから。」


つまり夏木は、峯岸の想いを知った上での『独り占めしちゃってごめんな。』ってわけか…。


思いっきり挑発してんじゃねえか。


「…峯岸、あいつが目障りなのはよーく分かった。でももう喧嘩は売るな…。あいつ、神谷のことになるとタチ悪いんだ…。」


いつだったか俺は夏木のことを“猫かぶってる”だの“腹黒い”だの思ったことがあったが、今ならあいつのことちょっとだけわかる気がする。


夏木の友人は夏木のことを、素直な子、と言っていたが、多分その通りで、素直すぎるからタチが悪い。


神谷だけを一途に想い、あとはどうでもいい感じ。だから人を不快にさせるし、目障りだと思われる。

挑発してるのも意図的で、敵視されることをなんとも思っていないのだ。


あいつに関われば関わるほど、振り回されるのはこちら側だ。


あいつはとんだお騒がせ野郎なのだ。


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