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「あ、学校戻ったら風紀委員室に来いだって。」

「…誰?風紀委員長?」

「うんそう。」

「俺も行く。」


お昼過ぎに、お母さんが学校に戻るために車を出してくれた。

その車に乗っている最中、俺の携帯に風紀委員長からのメールが届く。


「佑都くん、いつも迷惑ばっかりかけて申し訳ないけど、また光のことよろしくね。」

「うん。慣れてるから大丈夫。」


お母さんと会話をする佑都のことを見ていると、俺の視線に気付いた佑都がチラリと俺のことを見て、俺の頬をツン、と軽くつついてきた。


「なにが慣れてるの?」

「光に迷惑かけられること。」


ツンツンツン、と俺の頬をつつき続けながら答える佑都に、なんかだんだん恥ずかしくなってきた。

平然とした顔で俺のこと触っちゃって。

俺は佑都に触られるの嬉しいのに。

それ分かっててやってるのかな。


チラリと佑都を無言で見つめて、頬をつつかれている佑都の指をギュッと握ると、佑都も無言で俺を見つめてきたあと、ちょっと照れくさそうにしながらそっぽ向いた。


「…佑都ほっぺたちょっと赤い。」

「…うるせえな、見てくんな。」

「……へへ。」


その後車の中では佑都の手をずっと握っていたけど、振り払われることもなく。

佑都との間に流れる空気が、なんかくすぐったい感じで、ドキドキしてて、幸せだった。





風紀委員室の前まで到着し、コンコン、と部屋の扉をノックしたのは佑都で、中から声が聞こえたから「失礼します。」と言って扉を開けたのも佑都だ。


「あれ、神谷 佑都。何の用だ?」

「光が風紀委員室行くって言うから。」

「夏木は呼んだけど神谷は呼んでねえぞ?」


風紀委員長が佑都にそう言った瞬間、佑都はむっと唇を尖らせた。


「俺が佑都について来てって頼んだんです。佑都にそんな言い方しないでください。」


佑都が不機嫌そうなのは嫌で、俺までむっとなって風紀委員長に向かって口を開けば、「…冗談だって。」と風紀委員長は苦笑した。


「まあ、…無事そうで良かった。」

「…なんかお騒がせしてすみませんでした。俺の不注意で。」

「……お前の不注意で?」

「ん?はい、俺の不注意で。」



確認するように聞かれて頷くと、風紀委員長は困ったようにガリガリと頭を掻いて、風紀委員室の奥の部屋に続く扉に視線を向けた。


「へえ、じゃあまじであいつが故意にお前を突き落としたわけじゃねえんだ?」

「…あいつ?」


風紀委員長の発言に顔色を変えた佑都に気付いて、風紀委員長はやれやれ、と困ったように奥の部屋の扉を開けた。


部屋の中には、かったるそうに課題をやらされている昨日俺に絡んできたあの人がいて、俺と佑都に気付いて僅かに目を見開く。


「え、この人がなに?お前なんかされたの?」

「ううん、なにも?」


佑都の問いかけに首を振って否定すると、風紀委員長が「え?まじで?」と拍子抜けしたような声を出した。


「夏木、ほんとのこと言えよ?」

「言ってるよ。」

「えー…まじかよ…。」


俺の返答に、バツが悪そうに奥の部屋にいるあの人に視線を向けた風紀委員長は、「疑って悪かった。」と謝罪をする。

あ、あの人疑われてたんだ。
さすが。風紀委員長さんやるじゃん。


しかし風紀委員長の謝罪には無反応で、その人はジッと俺のことを憎しみのこもった目で睨みつけてくる。


俺のこと嫌いなんだね…うんうん。わかるわかる。憎たらしいよねー…うんうん。それもよくわかる。


分かっていながら、敢えて俺はもっと憎たらしい行動に出る。


すすす、と佑都の側へ行き、佑都の手を握った。


「じゃあ風紀委員長さん、俺もう行ってもいい?いいよね?」

「あ、お、おう…お大事にな。」


風紀委員長が頷いたところで、「佑都行こ。」と佑都の手を引っ張った。


「…えぇ、結局なんだったんだ?」

「さあ、わかんない。なんだろうね。」


そう言いながら、風紀委員室を出る前にチラリと振り返ってみると、やっぱり憎くて仕方ないという目で俺を睨みつけてくるあの人。


でも俺はさらに挑発するように、「独り占めしちゃってごめんな。」と言ったら、あの人はバン!!と机を叩いて顔を真っ赤にしながら立ち上がった。


けれど俺は、もうその人のことはどうでも良くて、佑都の手を引いて風紀委員室を出る。


「てっめえ調子乗んなよ!?ちょっとツラ貸せや!!ぶん殴ってやる!!!」

「ちょっおい!落ち着けって峯岸!!!」


風紀委員室の中からは、怒り狂う声とそれを静める風紀委員長の声が聞こえ、佑都はポカンと口を開けて、「…な、なんだ?」と不思議そうにドアの前で立ち止まった。


「えー、なんだろうね。佑都もう行こうよ。」

「あ、うん。」


佑都の手をギュッと握って、廊下を進む。

この手を握れば握るほど、独占欲がどんどん溢れ出てしまうのだった。


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