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光と手を繋いで学校の校舎内を歩いた。
俺たちの関係は何か変わったのか?と言えば、正直よく分からない。
隣にはにこにこと機嫌良さそうに笑っている光がいる。
俺たちは、何か、変わったか?
そう考えながら、光の横顔をこっそり見てみるが、俺の光を見る視線はすぐにバレ、「ん?佑都?」と光は俺の名を呼び、首を傾げた。
「…なんか、…あれだな。」
「ん?あれ?…どれ?」
「あんまり、いつもと変わんねえよな。」
「うん!いつもと変わんないね。」
…あ、…やっぱり嘘。
いつもと変わってるとこ発見。
無邪気な笑顔だ。
天真爛漫な光の、幼い頃からちっとも変わりのない無邪気な笑顔。
光のその表情を見た今だからこそ、なんとなくわかる気がする。
今までの光がずっと無理をしていたこと。
俺が、光の俺への気持ちを少しも気付かなかったのは、光がそれだけ無理をしていたから。
ずっと俺に隠しているその気持ちを、バレないように、バレないように、俺の隣で過ごしてきたんだ。
けれど今は、ただ手を繋ぐだけで嬉しくてたまらない、というような感情が、光から伝わってくる。
「…そんなに俺と手を繋ぐのが嬉しいんだ?」
「うん!嬉しい!」
…素直すぎだろ。
反応に困る。照れ臭い。
…光の顔を直視できない。
「佑都が変わらず俺の隣に居てくれることが嬉しくてたまんない。佑都ありがと。」
「…そんなことでいちいちお礼言うな。」
「ありがとありがとありがと、佑都大好き。」
…いちいちお礼言うなっつってんのにっ。
いや、そんなことよりも。
ストレートに告げられた光からの言葉が、今までのどんなわざとらしい好きだの愛してるだのよりも、タチが悪いと思ってしまった。
顔が、熱い。耳も。
光に見られたくない…、こんな、光の言葉で顔を真っ赤にしてしまった自分を。
顔を隠したいがために、光の身体を自分の方へ引き寄せて、光の肩口に顔を埋めた。
「わっ。…佑都?」
驚き混じりの光の声が、俺の耳元で聞こえる。
俺は何も喋れないまま、ギュッと両手で光の服を掴む。
「…どうしよう佑都、ドラマみたい。ドキドキする。」
そんなことを言いながら、そっと光の手が俺の背中に回った。
ああそうだな。まるでドラマのワンシーンみたいに、廊下の真ん中で俺なにやってんだ。
今更込み上げてくる羞恥心を我慢して、ゆるりと顔を上げると、その瞬間光とバチッと目が合った。
その時に見た光の姿が、俺以上に恥ずかしそうに赤い顔をして、うるうると瞳を潤ませている。
こんな時、ドラマだったら…
嫌というほど光に見せられた、恋愛ドラマのキスシーンが脳裏に浮かぶ。
だからと言ってわざわざ俺たちがキスする必要などないけれど。
これはえっと…、その…。
衝動的な行動っていうやつで。
俺はゆっくりと光の方へ顔を近付け、光の唇に、チュッ、とキスをしてしまった。
「…ここは、キスするタイミングかと思って…。」
って俺なに言い訳してんだよ。
したいと思ったから、したんだ。
「合ってる!!合ってるよ佑都!!今のはキスするタイミングで合ってるよっ!!!」
光が興奮したように、真っ赤な顔で、嬉しそうに、俺の肩を掴んでぴょんぴょんとその場で飛び跳ねた。
「はいはい、わかったから落ち着け。」
そう言って、照れくささよ治れ、と自分自身にも言い聞かせながら、光の頭をポンポンと叩くと、光はすぐに大人しくなる。
また俺の手をギュッと握り直した光が、もじもじしながら口を開いた。
「…佑都からそんなふうにしてもらえると勇気でる…。」
「なんの勇気だよ。」
「…佑都のこと好きでいていいのかなっていう勇気。」
下を向いて、ちょっと自信無さげに聞こえる光の声。無駄に明るかった以前の光とは程遠い態度だ。
俺は、そんな光の態度は慣れなくて、いつもの光でいて欲しくて、思いっきり、バチン!と光の頬を両手で挟むように叩いた。
その拍子に、驚いてギュッと目を瞑る光。
俺は光が目を閉じているうちに、今まで散々光に言われてきた臭いセリフを、わざとらしく、それはもう気持ち悪いくらいわざとらしく口にした。
「好きだ。光愛してる。
俺と付き合ってほしい。」
すると、鳩が豆鉄砲を食ったようにパチリと目を開けた光。
俺は、光にニヤリとした笑みを見せ、「うわ〜、キモッ。」と自分で言ったセリフに自虐しながらも、もう一度光にキスをした。
数秒間キスをして、ゆっくり唇を離した後、光は俺の首に腕を巻きつけ、俺の身体に飛びついてきた。
「うわぁあぁ〜!!!やばい!佑都好きだ!好きだ好きだぁ〜!俺も!佑都愛してる!!!もうっまじっううっ…佑都好きだぁ〜!!!」
感極まったのか、叫びながら泣き始める光に思わず笑いが込み上げた。
「わかった、わかったから。もう黙っていいぞ、うるさい。」
笑い混じりにそう言って、光の口を手で押さえると、照れ臭そうに笑って口を閉じる光。
大人しくなった光がチラリと何か言いたげに見上げてくるから、「ん?」と首を傾げて光の口から手を離すと、光はもじもじしながら口を開いた。
「俺、佑都の幼馴染みで良かった…。
これからも、俺と仲良くしてね…。」
上目遣い、頬が赤く、照れている様子を見せる光は、まるで以前の光とは別人のよう。
素直な気持ちを告げてくる光に、俺は柄にもなくドキドキさせられていることをこいつは知らないだろう。
照れくささから言葉が出ずに、「うん。」とだけ頷き、今度は俺から光の手をギュッと握ると、光はそれだけでとても嬉しそうにしていた。
…喜ぶ光が、なんだか可愛かった。
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