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お昼頃に香月と別れて教室に戻ってくると、永遠くんがずらりと並んだたこ焼きの前に立って販売員をやっていた。嬉しそうにお金を受け取り、買ってくれた人に「ありがとうございました〜!」と元気にお礼を言っている。
「永遠くん教室来てたんだ。」
「うん!もう今日は早めに作り終われたからあとは売るだけ!」
「そうなんだ。すごい、いっぱい作ったな。」
「昨日でだいぶ慣れたしな。光星も一緒に売ろ!」
永遠くんにそう言われて、俺も永遠くんの隣に立った。もう今日はこの後ずっと一緒に居られそうで嬉しい。賑やかな教室でみんなイキイキと声を出しながらたこ焼きを販売していて楽しそうだ。
そして一個、二個…とたこ焼きは売れていき、次第に残りの数はパッと見て数えられるくらいになった。
残りあと僅かだと言うのに、担任が250円を持って教室に現れ、堂々と自分のクラスの教え子からたこ焼きを買っている。
「こりゃどう考えても俺のクラスが優勝だなぁ。」
もぐもぐとたこ焼きを食べながら、自分のクラス贔屓をするような発言をしている担任。他のクラスの人たちに聞かれたら怒られそうだ。
「関東たこ焼きたけ〜んだよなぁ〜。な?片桐。それ狙った?」
「あ、バレました?」
いつも真面目な雰囲気だった担任が、ちょっと砕けたような態度で永遠くんにそう話しかけている。文化祭という楽しげな空気に、先生もちょっと素が出ちゃったのかもしれない。
そしてそんな担任の問いかけにぺろっと舌を出して永遠くんが返事をすると、担任は「俺滋賀出身だから。」とぶっちゃけている。
「え、先生そうだったんすね。すげえ、先生の関西弁聞いたことないっす。」
「おぉ…!ここにも関西人が潜んでた!」
香月に続き、担任まで。それを聞いた永遠くんの顔にはパッと笑みが浮かび、嬉しそうだ。自分が知らないだけで、意外と俺たちの周りには、いろんな地域から来た人だらけなのかもしれない。
「片桐こっちの生活は慣れた?」
「はい!もうだいぶ慣れました!」
「そっか、よかったよかった。」
永遠くんに話しかけながら、担任はポンポン、と永遠くんの頭を撫でた。自分も経験したことだから、担任は永遠くんのことをずっと気にかけていたのかもしれない。
そうしているうちに、たこ焼きはあっという間に完売した。それを見守っていた俺たちは、担任を含めみんなでパチパチと拍手をする。
「それじゃあ放課後はみんなで打ち上げだな〜!」
担任はそう言いながら、意気揚々と教室を出て行った。今までなんとなく堅物そうなイメージだった担任の、見たこともなかった楽しそうな表情だった。
こうして、文化祭は終了時間を過ぎるとお開きとなり、閉会式を終えた後の教室で担任が買ってきてくれたジュースを持ってみんなで乾杯することになった。
「それじゃあ特進クラスの文化祭成功を祝って!」
永遠くんの声に合わせてみんなでジュースを掲げて、その後「かんぱーい!」と近くの人同士ジュースをぶつけ合う。
そしてその後、クラスメイトたちは口々に永遠くんに向けて言葉を送った。
「片桐くん、特進クラスに来てくれてありがと〜!!」
「ありがと〜!」
「片桐くんありがと〜!!」
パチパチと拍手しながら声を揃えてそう口にするクラスメイトたちの言葉に、永遠くんは「えっ」と驚きの表情を見せるが、その後くしゃっと顔を顰める。今にも泣きそうになっている顔を隠すように、俺の胸元に顔を押し付けて抱きついてきた。
「うぅ…っ、こちらこそありがとぉ…!」
俺の胸元に顔を押し付けながら話すから、声がくぐもっていて、さらに抑えきれない興奮を発散させるように俺の身体をバシバシと叩いてくるから、みんなにクスクスと笑われている。
よかったなぁ…っていう気持ちを込めて俺はよしよしと永遠くんの頭を撫でるが、永遠くんに温かい目を向けていたクラスメイトたちの視線は次第ににやにやしたものに変わっていた。でも俺は感情が高ぶっていたから、クラスメイトのそんな視線には、全然気付けなかったのだった。
永遠くんが転校して来た時のことは、まだまだ記憶に新しい。
『片桐 永遠です。京都から来ました。よろしくお願いします。』
とにかくその顔に惹かれ、目が逸せなくて、教卓横に立つ永遠くんをジッと見つめてしまったのを覚えている。
話しかけたくて、仲良くなりたくて、話しかけたら、すぐ仲良くなれて、俺の高校2年の学校生活は永遠くんが隣に居るのが当たり前になった。
俺自身、仲が良い友達と呼べる人は佐久間くらいだったけど、その佐久間とも一時はダメになって、人間関係の難しさを知った。でもそんな時にまた新しい友達ができた。
香月は永遠くんと佐久間との出来事が無かったら多分仲良くなって居なかった人だと思う。不思議な巡り合わせだ。そう考えたら、苦い思い出もそう悪いことではないのかもしれない。
そしてそんな香月のおかげで、俺はまた佐久間と良い友達関係を築き始めていけている。
人生には良いこともあれば悪いこともある。
失敗することもあるし、間違えることもある。
でもそれを乗り越えた時、人はさらに成長できているはずだから、失敗だって大事なことだ。そうやって失敗も間違えも何度だって繰り返して、悩んで考えて、人は成長していかなければいけないのだ。
永遠くんも、よく自分の発言を悔いていたりしてたよね。でも俺は知ってるよ、一度失敗した後は、もう同じことを繰り返さないように気をつけてたこと。自分の悪かったところを見つめ直そうとする、俺は永遠くんのそういうところがすごく好きだな。
人の性格はさまざまで、言葉遣いも十人十色。直そうと思っても、すぐに直すのは難しいと思う。
それを受け入れられるか、受け入れられないかも人それぞれ。それでも永遠くんが今こうやって、クラスメイトに囲まれて、慕ってもらえているのは、永遠くんの頑張りがあったからだ。
永遠くんの頑張りが、報われてよかったね。
そんな気持ちを込めてよしよし、よしよしとずっと永遠くんの髪を撫でた。
こんなにも賑やかで、活気にあふれる瞬間をこのクラスで過ごせているのが、俺はなんだか少し不思議に思う。
もし永遠くんが転校してこなかったら、この瞬間を俺は全然違う過ごし方をしていただろう。
もしも永遠くんのお父さんの仕事の転勤が無かったら…
もしも永遠くんがこの学校を選ばなかったら…
もしも永遠くんが特進じゃなくて普通科のクラスを選んでいたら…
そんな”もしも”の話は考えたくもないけれど、いろんな“もしも”があるのに、俺は俺の人生で永遠くんに出逢えたことが、本当に幸運なことで、永遠くんに出逢えて良かったと、心の底から思ったのだった。
…って、俺がそう思うように永遠くんも、
俺と同じ事を思ってくれていたらいいな。
そしてこれからも、永遠くんとずっと、
互いに想い合いながら生きていけたらいいな。
◆ ◆ ◆ each other 2 ◆ ◆ ◆ おわり
2022.07.29 公開−10/04 完結
95話〜 パス制で公開しています
パスワードはeach other2小説ページのどこかに表記しています
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