93 [ 95/101 ]
文化祭2日目も昨日と同じように永遠くんは朝からたこ焼き作りで大忙しだ。
今日は永遠くんのお姉さんはバイトで来られないようなので、香月はつまらなさそうにチョコバナナの宣伝をしている。
「今日もたこ焼き爆売れやなぁ。」
「スポクラの奴らまじ食い過ぎなんだけど。」
「特進の教室覗いたら誰かしらおるもんな。」
香月とそんな会話をしながら、今日も一緒に外へ出て宣伝しに行った。香月と喋っている時間は飽きなくて結構楽しい。永遠くんにとって一番の友達が香月であるように、実は俺にとっても香月はそんな存在かもしれない。
「そういや昨日芽依ちゃん来てたぞ。教室行ったら永遠くんと喋っててびっくりしたわ。お前も会った?」
「えっ?あいつ来てたん?俺会ってへんで。」
「あ、まじ?てことは香月のことはさすがにもう諦めたのかな?」
「永遠と永菜にボロクソ言われてたからもう俺らには会いたくないやろなぁって思ってたけど。」
「でもあの子永遠くんの連絡先聞いてたぞ。」
「はっ?なんで!?」
『文化祭のスイーツ全部奢って。ぜーんぶ永遠持ち。そしたらあたしに言ったことは許してあげる。』
『連絡先教えるから用事終わったら連絡して。』
俺が耳にしたあの子の発言を思い出しながら香月に話せば、香月は笑えるくらいブサイクな顰め面になった。顰め面というかもう変顔だ。
「まさかあいつ永遠のこと口説こうとでもしてへんやろな?永遠に嫌いって言われたのが結構悔しかったんかも。しかも永遠髪切ってからかっこよさげになったしな。」
「それ俺もちょっと思ってやなんだけど…。さすがにもう学校来ねえよな…?」
「どうやろなぁ。もう俺の手には追えんわ。でも永遠やったら上手くあしらってくれるやろ。」
俺は昨日あの子が永遠くんと喋っているのを見た時からちょっと不安に思っていたことを香月に話すが、香月はもうすっかり『俺には関係ない』という態度で、「永遠ちゃん舐めたら痛い目見るでぇ〜。」と能天気に喋っていた。
…そりゃそうだよな。せっかく諦めてもらえたのだから、もうこれ以上は関わる気は無いのだろう。
「それにしても浅見モテるなぁ。特進はお前の宣伝見て行ってる子も結構居そうやな。」
さっきからずっと宣伝していたらチラチラとこっちに視線を向けられることがあったり、『たこ焼きどこで売ってるんですか?』って聞かれたりすることがあり、丁度今俺が手に持っている宣伝板を見ながら目の前を通過していった女の子を目で追いながら香月はそこで話題を変えてそう口にした。
「たこ焼き買ってもらえんのはありがたいんだけど話しかけられんのはちょっとな…。」
「浅見って女子苦手なん?」
「いや…、苦手ってつーか、男子校5年目ともなれば女子と関わりなさすぎて、話しかけられたらわりと普通に照れるから…。」
「あー…永遠に怒られるやつやん。」
「てかすでに永遠くんのお姉さんと初めて話した時永遠くんにめちゃくちゃ怒られたし。」
「え、そうなん?さてはお前も永菜に惚れそうになったな?」
香月との会話の流れで俺は数ヶ月前永遠くんの家に初めてお邪魔させてもらった時のことを思い出した。話題が永遠くんのお姉さんのことだったから香月の食い付きがかなり良い。
「ううん、惚れたとかではないけど『お姉さんかわいいな』って言ったら怒られた。」
「いつの話?まだ付き合ってない時やんな?」
「うん、まだ全然。まあ、…多分、誰にでもかわいいって言うんや…みたいなそういう感じの意味で怒られたんだと思う。」
「あーなるほどなぁ。あかんで、気ぃつけや?永遠ちゃん男やから浅見がかわいい女の子に出会われたら勝てる自信ないって前言うとったからな。」
「え、永遠くんそんなこと言ってたんだ。」
さすが仲良いだけあって、永遠くん香月にいろいろ俺には言えない悩み相談とかもしてそうだ。そして香月はコソッと俺に今みたいに教えてくれたりもするから結構ありがたい。
「永遠は浅見にどんだけ可愛がられててもそういう不安は多分ずっとあると思うで。」
「肝に銘じとくわ。…つっても俺の方が永遠くんに飽きられないか心配なんだけど。」
「いーや、永遠も大概やで。お前が思ってる以上に永遠はやばい。」
「や、やばい?…って何がだよ。…お前もしかして永遠くんから何か聞いた?」
そこそこ真面目な話をしていたかと思いきや、香月の突然の『永遠はやばい』発言に俺はギクッとしてしまった。
「ん?聞いたってなにを?」
「…えっ…、いやっ、なんも聞いてねえならいいや。」
一瞬えっちした時の話を香月に話されたかと思って焦ったけど、墓穴を掘りそうになって慌てて口を閉じる。
しかしやっぱりそんな慌てるような俺の態度は香月に怪しまれてしまった。さすがに永遠くんのやばめな性癖の話をするわけにはいかず、何か別の話題はないかと話題を変えるために周囲を見渡す。
「その焦り様、どうせえろ話やろ。なんや?言うてみ?」
「いや、なんでもない。まじでなんでもない。」
話題を変える前にガシッと肩に腕を回され香月に問い詰められてしまったが、目の前に通った人に呼びかけるように「2年特進クラスたこ焼きいかがですかー」と言って回避した。
宣伝してるように見えても、実はずっとだらだらと香月と喋りながら時間を潰し、俺の文化祭二日目の午前はあっという間に終わっていった。けれどそこそこ楽しくて、悪くはない時間だった。
[*prev] [next#]