92 [ 94/101 ]
◆
『片桐くんって朝からずっと調理室でたこ焼き作ってくれてるよね。何か手伝いに行ったほうがいいかな?』
『でも俺らにできることあんまりなくない?差し入れでも持ってく?文化祭も回れてないっぽいし。』
『それいいな。片桐くん何が好きだろ。』
文化祭中の教室で、クラスメイトがそんな会話をしながら教室を出て行った。今まであんまり永遠くんと関わりがなかったクラスメイトも、今日をきっかけに永遠くんのことを気にしている。
永遠くんが教室に戻ってくると、みんなが永遠くんに声をかける。『おつかれ!』『たこ焼き大人気だね!』って。声をかけてもらった永遠くんは、満面の笑みを浮かべて返事をしており嬉しそう。
「今日いろんな人が話しかけに来てくれて嬉しい。」
たこ焼きが全部売れたあと、ようやく空き時間ができた永遠くんと一緒に校内を歩いていたが、永遠くんはそう言ってやっぱり嬉しそうだった。
永遠くんが嬉しいことなら俺も一緒に喜んであげたくて、「良かったね」って永遠くんの頭をよしよし撫でると、俺を見上げてにこっとと笑みを向けてくる。ああもうかわいい、キスしていいか?
永遠くんの頭に手を置きながら人目を気にして辺りを軽く見渡していたら、永遠くんはクスッと笑ってきた。その直後、ほんの一瞬だけチュッと俺たちの唇同士が触れ合う。
「こういうのは勢いでするんが大事やで?」
どうやら俺のキスしようとしていた行動はバレバレだったようだ。一枚上手な永遠くんに先にキスされてしまい、ハッと驚きながら永遠くんの顔を見ていたら、永遠くんは俺の背中に腕を回してべたべたとくっつきながら俺の隣を歩き始める。
「あ〜もう最高やなぁ。転校してきたばっかの学校でこんな楽しい文化祭送れると思わへんかったわ。光星のおかげやで。ありがとうな。」
俺の肩にすりっと頭を置いて、甘えてくるような態度で永遠くんは突然俺にお礼を言ってくれる。俺なんか今日は全然永遠くんの力になってあげられてねえのになんで?
そんな疑問が顔に出てたのか、俺と目を合わせながら永遠くんはさらに言葉を続けた。
「たこ焼き提案したの俺やん?正直クラスメイトの協力とかはあんまり期待してへんかってんけど、俺には光星がいるから、光星なら絶対協力してくれるって分かってたから提案できてん。でも結果的にクラスメイトもみんな協力してくれたし、しかもめっちゃ売れたし良いこと尽くめや。」
「永遠くんが頑張った結果だよ。」
永遠くんの言葉が嬉しい。でもやっぱり、永遠くんがずっと頑張ってたから、俺たち特進クラスの文化祭が上手くいったんだよって、永遠くんの頭をよしよし撫でながら褒めまくると、永遠くんはかわいく照れ笑いしている。
もうかわいくてかわいくてかわいすぎて、いっぱいハグやキスしたい気持ちを抑えながら、文化祭中の賑わう校内を歩いた。
文化祭終了の時間がくると、外部からのお客さんは帰っていき、明日の準備をしている生徒たちでまだ賑わっている放課後の校内。
永遠くんを含む調理係は明日の食材の買い出しに行ってしまい、残った人たちで散らかった廊下や教室の掃除や手入れをする。でもすぐに終わってしまい、クラスメイトは帰っていった。
俺は永遠くんが買い出しから帰ってくるのを一人教室で待つが、さすがに寂しい。今日は全然永遠くんと一緒に居られなかったな。
クラスの中心で頑張る永遠くんにこんなこと絶対言えないけど、そんなに頑張らなくて良いから、たこ焼き売れなくて良いから、もうちょっと俺と一緒に居てほしい。…って、ほんのちょっとだけ思ってしまう。
でもそんなのは俺のわがままだから、せめてちょっとだけ永遠くんをぎゅっとできる時間がほしいな。
そんなことを考えていたら、椅子に座っていた俺の背後からゆっくり二本の腕が回ってきた。
「光星く〜ん、待たせてごめんな?」
ぎゅっと抱きついてきた永遠くんが、ひょこっと俺の顔を覗き込んできたから、そのまま永遠くんの頭を引き寄せてチュッと唇を重ねた。
「遅い。…待ちくたびれた。」
ぽろっと俺の口から出た言葉に、永遠くんはキョトンとした顔をして俺を見つめてきた。クラスのための買い出しに行ってくれていた人に言うような言葉ではないと分かっているものの、ほんとに寂しかったから言ってしまった。
「珍しい、光星が文句言ってる。」
「…どっか寄り道して帰りたいな。」
「おぉ、いいやん行こ行こ。」
寄り道っていうか、ただ永遠くんと一緒に居たいだけ。ちょっとの間永遠くんを抱き寄せ、もう一度だけキスしてから教室を出る。
「光星が自分からそういうの言ってくれるん嬉しいわ。いっつも俺に合わせてくれてたもん。」
「だって今日全然永遠くんと一緒に居られなかったから…。」
「一緒に居たかった?」
「…居たかった。」
聞かなくても分かるようなことをわざわざ聞いてきて、俺が頷くと永遠くんは満足げに笑っている。ちょっと酷くないか、俺はほんとに寂しかったのに。
「明日はもっと大忙しやでぇ〜。
……あれ?光星くんもしかして拗ねてる?」
べつに拗ねてるってほどでもなかったけど、『一緒に居たかった』って俺が言ってるのに永遠くんが『明日はもっと大忙し』なんて返してくるから、ムッと不貞腐れるような態度を出してしまった。
「もぉ〜、光星くんは俺のことがほんまに好きやなぁ。文化祭が終わったらいっぱい相手してあげるから許してな。」
すりすりすり、と俺の肩に頬擦りしながら、俺のご機嫌取りするみたいにそう言ってくれる永遠くん。
「…じゃあ、そろそろ、…したいです…。」
なにを、とまでは言わなくても分かってくれた永遠くんは、俺の顔を見てふふっと笑った。
「そう言うんちゃうかと思って今のはそういうつもりで言ったんやで。」
「わぁ、またバレバレだったか…。」
「もう俺は光星のことならお見通しやわ。」
「さすがです…。」
「俺と光星は絶対相性が良いんやで、光星が思ってることは俺が思ってることと大体同じやもん。」
すりすりすり、とずっと頬を俺の肩にくっつけて、俺を調子に乗らせるようなことも言ってくれるから、今すぐにでも永遠くんをいっぱい可愛がりたくて、我慢するのが大変だった。
[*prev] [next#]