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「兄貴たち昼前に来るんだったよな。」
「おう、俺の自由時間が午後からやから永菜もそれまでは浅見のにーちゃんらとおるって言うてたわ。」
1時間ほど浅見と外で宣伝していたらちょっと疲れてきて、二人でそう話しながら一旦教室に戻ってみると、スポクラの隣の特進クラスの教室が客で溢れかえっていた。
「うわ、特進人めっちゃおるやん。」
「おーっ、ほんとだ。」
「あっ!浅見くんやばいよ!たこ焼きかなり売れてるよ!!」
「まじ!?」
「調理係の人たちずっと作り続けてくれてるんだけど、午前だけで予定してた材料かなり減っちゃったからもう明日の分の材料も使っちゃおうか!?って話になってる!!」
浅見が教室に戻ってくると、興奮気味のクラスメイトが駆け寄ってきてそんな報告をされている。教室の中をよく見ると、佐久間を含むスポクラの野球部軍団まで椅子に座って美味しそうにたこ焼きを食べていた。
「お前らまで食ってんのかよ!バナナは!?ちゃんと売れてんの!?」
「ぼちぼち売れてんじゃね?つーかお前なにバナナ脱いでんだよ、サボってんなよな。」
「サボってるんちゃうわ、暑いねん!!」
「あっ光星〜!このたこ焼きガチ美味いわ!」
「お〜!サンキュー、よかったよかった。」
俺と会話するスポクラの奴の隣でまじで美味そうにもぐもぐたこ焼きを食べている佐久間が、今ではすっかり浅見と仲が戻って親しげに声をかけていた。
佐久間にたこ焼きを『美味い』と言われた浅見はめちゃくちゃ嬉しそうだ。だってそのたこ焼き、永遠が作ってるもんな。
「永遠くん大丈夫かな?ずっと調理室篭ったまんまだと思うんだけど。」
「ちょっと永遠の様子見に行ったろか。」
永遠は朝からまったく姿を見せず、ずっと調理室でたこ焼きを作っているらしい。そんな永遠を心配する浅見と共に調理室を覗いてみる。
そこには、特進の調理係以外にも出し物を作っている生徒で賑わっていたが、大きいたこ焼き器の前に立ち、しっかり顔にマスクをつけて、暑そうに首にはタオルを巻いてたこ焼きを焼いている永遠の姿は一番に視界に飛び込んできた。
「永遠おつかれ〜、忙しそうやなぁ。」
「永遠くん大丈夫?俺何か手伝うことある?」
「お〜、おつかれ。光星丁度良かったわ、次焼ける分教室に持って行ってくれる?」
「うん、いいよいいよ。」
声を掛けると慣れた手付きでくるくるっとたこ焼きをひっくり返しながら返事をしてくれる永遠。その近くでは、特進の人たちが丁寧に材料を測り、丁寧にたこ焼きの生地を混ぜ、中に入れる食材を用意し、まるで本職か?と思うような動きを見せている。
さすが、永遠の自宅でわざわざたこ焼きを作る練習をしていただけのことはあり、彼らの努力の成果は目に見えている。
「永遠くん水分補給とかちゃんとしてる?飲み物でも買ってこようか?」
「大丈夫、してるしてる。さっき先生がお茶持ってきてくれたわ。なんかたこ焼きむっちゃ売れてるらしいやん?とりあえず今ある材料で焼けるだけ焼いてくれって言われたわ。」
永遠は暑そうに額から汗を流しながらも、浅見ににこっと笑みを向けて嬉しそうにそう話した。そんな永遠の額に流れる汗を、浅見は永遠の肩にかかっていたタオルで拭い、その後よしよしと頭を撫でる。
「今教室すげえ賑わってるよ。佐久間も美味い美味い言いながら食ってたわ。」
「ほんま?良かった〜。あいつに褒められると嬉しいな。」
浅見の言葉を聞いて永遠は、少しも手を止めず出来上がったたこ焼きを6個ずつパックに入れながらにこにこと笑って返事をしている。忙しそうなのに、疲れもあるはずなのに、今の永遠はものすごく楽しそうだ。
永遠がパック詰めしたたこ焼きを10セットほど持たされた浅見は再び教室に戻るが、やっぱり特進クラスの教室は人で賑わっている。それに比べてチラッと覗いたスポクラの教室は、まるで休憩所みたいにデカイ男たちがバナナを食いながらだらだらと過ごしていた。一応売れてはいるようでホッとする。
「おお!光星光星!もしかしてそのたこ焼き出来立て!?買っていい?まじ何個でも食えるんだけど。」
「うわっまじ?出来立て!?俺も買いたい!!」
「ふっ…いいよ。今さっき出来上がったばっかのやつ。」
「お前らいつまで食ってんねん。」
浅見が運んできたたこ焼きは、いまだに特進の教室にいたスポクラの佐久間たちによって早くも2パック売れていった。これはもしや、腹を空かせたスポクラの野郎たちがたこ焼きを食い尽くしているのかもしれない。ゴリラどももっとバナナも食えよ。
その後も特進クラスのたこ焼きは売れ続け、一時はたこ焼きが売り切れてしまい、急遽作られた【 準備中 】の札が立てられるほどだった。
正午になる少し前に【 今学校来たよ! 】と永菜から連絡が来たため、文化祭が始まってからずっと宣伝役をしている俺と浅見は、プラカードを手に持ちながらまた二人で校舎の外に出て永菜たちがいるところへ向かってみる。
ちなみにバナナの着ぐるみは暑すぎて着ていられないのと邪魔だったためとっくに教室の隅に置いてきた。
ずらりと外に並んでいる立て看板の中の一つを撮影していた永菜を見つけて歩み寄ると、一番に浅見に気付いた永菜のバイト先の先輩、トウヤくんがぺこっと浅見に向かって頭を下げた。次にトントン、とトウヤくんに肩を叩かれて浅見の兄貴が浅見に気付き、最後に俺に気付いた永菜が振り向いて手を振ってくれる。
当たり前に永菜が写真を撮っていたのは永遠のクラスのたこ焼きのイラストが描かれた立て看板だったから、「俺のクラスのも撮っといて」って声を掛けると「え〜」と言いながらも撮ってくれた。別に撮らなくてもいいけど彼氏よりも弟優先感が出ててちょっと悔しかっただけ。
浅見は兄貴と仲が良さそうというわけでもなく、かと言って悪くも無さそうで、「俺のクラスのたこ焼き永遠くんが作ってくれててまじ美味いから食べていって」という宣伝だけしている。
物静かな浅見の兄貴は、トウヤくんに「行く?」とだけ聞いており、トウヤくんが「いいですねぇ」と頷くと、浅見の兄貴たちはゆっくりマイペースに歩き始めた。
永菜が男二人と一緒に行くって言うからあんまり仲良くされるのは嫌でちょっと心配してたけど、俺はこっそり俺の背後を歩く二人の様子を窺っていたら、かなりのんびりしてるというかなんというか、ずっとマイペースで、あまり口数は多くなくほのぼのとした様子で「結構賑わってますねぇ」「うん」というやりとりをしているだけだった。
自分の彼女を悪く言うつもりはないものの、いつもチャカチャカとうるさい永菜の性格には大人しそうな彼らはちょっと合わない気がして、余計な心配だったな。とちょっとホッとしてしまった。
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