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文化祭当日の朝、バナナの用意で忙しいスポクラはいつもより早めに集合し、みんなでバナナの準備をしていた。


チョコバナナと言ってもバナナの皮を剥いてチョコソースに浸すだけ…とかそんな単純な話ではなく、チョコの温度調節とかをしないといけないらしい。


「誰だよチョコバナナやろうとか言い出したやつ!!クソむずくね!?」


佐久間がキレながらチョコの温度を計っていたから、実はチョコバナナの提案者な俺は「俺や!!!!!」と怒鳴り返して逆ギレしてしまった。すると佐久間は何故かニヤッと口角を上げながらクツクツと笑っている。なに笑っとんねん。


「なんで提案者がバナナ着て突っ立ってるだけなんだよ。もっと働けよ。」

「は?お前どこ見てんねん、ちゃんとバナナの皮剥いて働いてるやろ!!」

「簡単なやつだけやってんじゃねーよ。」

「…それは、ごめんなさい…。チョコ塗るのはちょこっと難しいから…お前らにお願いするわ…。」


痛いところを突かれ、申し訳なく思いぺこぺこと頭を下げながらお願いすると、「は?なにそのおもんねーダジャレ。」とか言いながらもそいつの顔はめちゃくちゃニタニタ笑っていた。

恐ろしいことに無意識にぺらっと自分の口からダジャレが出ていたようで『おもんねーダジャレ』と言われて初めて自分がダジャレを口にしていたことに気付いた。自分でも自分の発言が寒すぎて震えそうだ。俺の横で『おもんないわ!』って頭を叩いてくれる永遠が常に居てほしい。


言い出しっぺのくせに役立たずな俺は、せめてバナナの着ぐるみを着て宣伝しようと校舎を歩く。友達は勿論、先輩後輩にもちゃんと『スポクラチョコバナナ買ってください』とお願いしておいたからまったく売れないことは無いはずだ。


無事文化祭開始前には販売用のチョコバナナの準備が終わり、開会式が行われるため体育館へ移動すると、バナナ姿の俺だけでなく他にもあほな格好をした奴はうじゃうじゃ居たから、その中に溶け込みながら開会式が終わるのを待った。


開会式が終わるのと同時に文化祭が始まり教室に戻ってくると、隣の特進クラスでは至って普通のシンプルな白いクラスTシャツに制服のズボンを穿いた浅見が廊下でたこ焼きの宣伝用の板を持っている。

たこ焼きには随分拘っていたくせに服装は結構適当で、販売係りの人がバンダナを巻いている程度だ。


「お前なんでそんな普通の恰好やねん、たこ焼きの着ぐるみでも着ろよ。」

「そんな予算ねえよ。永遠くん頑張ってたこ焼き安くするために考えてくれたのに。」

「ちゃうで?このバナナの着ぐるみはクラスメイトの私物やぞ?」

「へえ、そうなんだ。良かったな、そんな着ぐるみ持ってる奴いて。」


どうでもよさそうにそう返事をする浅見は、俺の姿を見て爽やかに笑っていた。そんな浅見と廊下で喋っていたら、早くも文化祭を回っている人たちが教室の前を通りかかる。すでに外部からも来ている人が居るようで、保護者らしき大人も歩いている。


「うわ、見て見て、バナナいるよ。」

「ほんとだ、バナナだ。」


ジロジロとこっちを見ながら高校生くらいの女子二人組が近付いてきたから、【 2年スポーツクラス チョコバナナ1本150円 】と書かれたプラカードを見せつけながら「買ってください」と一歩歩み寄ると、「「キャー!!!」」と叫びながらサッと距離を取られて逃げられてしまった。


「なんッでやねんッ!!!!!」

「クックックッ…おまっ、怖がられてんじゃねーか…!」

「なんで『あ、バナナだ』とか言って近付いてきたくせに声掛けたら逃げられなあかんねん!」

「お前でかいからその恰好で見下ろされたら怖いんじゃねえの?」


浅見のそんな意見を聞き、俺はもう大人しくプラカードを掲げておくだけにした。

これから続々と外部から人が来るだろうから、校門で宣伝しに行こうと浅見と共に外へ向かうが、その間も俺を見ながら「バナナだ」「バナナだ」という声を向けられる。

その都度スッとプラカードを向けてアピールするものの、バナナに興味を持ってもらえていたのはほんの一瞬で、中高生くらいの女子なんかはすぐに俺の横にいる浅見にジロジロと目を向けていた。


「ねえねえ、あのバナナの隣に居る人めっちゃかっこよくない?」

「わっ、ほんとだかっこいい!どこのクラスだろ?聞いてみる?」


『あのバナナの隣』とか言って俺を目印にすんな。浅見にスポクラのプラカード持たせたろか、と浅見が持っている板とプラカードをチェンジさせたら、浅見に「なんでやねん」と笑いながらベシッとバナナの後頭部をしばかれた。


まだ浅見の手に【 2年スポーツクラス チョコバナナ1本150円 】のプラカードを持たせたまんまだった時、「すみませ〜ん!」と呼びかけながら女子二人組がこちらに歩み寄ってくる。


「は〜い、2年スポーツクラスチョコバナナいかがっすか〜」


【 2年特進クラスたこ焼き6個250円 】の宣伝用の板は俺の背中に隠しながら、浅見の手に持ったままのプラカードに手を添えて宣伝すると、浅見は「いやいやいや」と板を取り戻そうとしてくる。


「チョコバナナどこで売ってるんですか〜?」


俺の宣伝の甲斐あって、チョコバナナに興味を持ってくれている二人組を案内しようとしていたら、女子の対応に不慣れそうな浅見がちょっと顔を赤くして、「たこ焼き!たこ焼き!」と連呼してきた。


「えっ?たこ焼き?」

「あっ、えっと、俺のクラス2年特進クラスたこ焼きやってるんで。…来てね。」


俺からプラカードを取り返すのを諦めた浅見は、口で宣伝するのが恥ずかしいのか照れ笑いしながら口頭で伝えている。


「はいっ…いきます…!」

「たこ焼きどこで売ってますか…?」

「あっそこから校舎入ってもらって2年のフロアで売ってるので…。」


女子二人組は浅見に案内してほしそうだったが、浅見はそれだけ説明して彼女たちが校舎に入っていくのを見送った。


チッ…、クソォ…。浅見に客横取りされた。

自分が先に浅見にチョコバナナのプラカードを持たせるというズルをしたくせに悔しがっていたら、「返せよ」って俺の手に持つ板に手を伸ばされ、取り戻される。


「クッソー、やっぱインパクトよりイケメンか。」

「はぁ?…じゃあそう思うならお前もそのバナナ脱げよ。」

「せやな…そろそろ暑なってきたし脱ぐわ。」


俺を見て呆れた表情を浮かべる浅見に言われた言葉に従って、着ぐるみを脱いでバナナを担いで歩いていたら、それはそれで目立っていたのかその後もそこそこ絡まれたので、たっぷり宣伝しておいた。


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