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昨夜はいつのまにか眠っていて、朝になり、自分の腹に回っている永遠くんの腕に少々苦しさを感じながら目を覚ました。時刻は朝の7時過ぎだった。

俺の身体に抱きついてぐっすり眠っている永遠くんの頭をよしよしと撫でながらふと横を見ると、笑えるくらい豪快に部屋のど真ん中で眠っている香月の姿が視界に入り、吹き出しそうになるのを我慢した。香月の身体の下に敷かれていたはずの座布団は四方八方に散らばっている。

台所のある部屋から音が聞こえてきたから、永遠くんのお姉さんがもう起きてるのだろうかと永遠くんの腕からそっと抜け出して部屋を出ると、キッチン前に立つお姉さんが味噌汁を作っているようで、良い匂いがしている。朝から髪を結んでもうシャキシャキと動いていて元気だな。


「あ!光星くんおはよう!」

「おはようございます、味噌汁ですか?良い匂い。」

「うん!光星くん朝は何派?良かったら食べてな。」

「良いんですか?わりとなんでもオッケー派なんでありがたいです。ちょっと顔洗ってきます。」


お姉さんとそんな会話をしてから洗面所をお借りし、またリビングに戻ってきた頃には味噌汁は出来上がっていたようでお姉さんはテーブルに腰掛けてテレビを見られていた。


「永遠と侑里くん起きてこぉへんなぁ。」

「ですねぇ。起こしてきましょうか?」

「んー、永遠に不機嫌になられても困るし起きてくるの待っとこ。まあそのうち起きてくるやろ。」


お姉さんはそう言いながら先に俺の朝食を用意してくれた。味噌汁に白ご飯にだし巻き卵まで作ってくださって十分すぎる朝ごはんだ。このお姉さんの性格からして香月が泊まっているから張り切っているのかもしれない。香月よかったなぁ…って、微笑ましい気持ちになる。


そんな優雅な時間を過ごし、俺が朝食をとっくに食べ終わっていた8時頃に永遠くんと香月が二人揃って部屋から出てきた。二人は何時に寝たのか不明だがやけに眠そうな顔をしている。

そしてダイニングテーブルに腰掛けていた俺とお姉さんの方を見て突然香月が「えっ!嫌やぁ〜!」と意味不明な声を上げた。


「は?なに?どうしたん?」


すぐにお姉さんが問いかけると、香月はお姉さんの方へ歩み寄りながら口を開く。


「寝起きでいきなり浅見と永菜ちゃんのツーショット見たくなかった…!新婚夫婦みたいに見えてもうたやんかぁ…!」

「…え、なんかごめん。」

「はぁ?あんたなに言うてんの。はよ顔洗ってきたら?」


香月の発言にお姉さんが呆れた態度で返している中俺は永遠くんに目を向けると、むぅっとした顔を背けて洗面所の方へ行ってしまった。…うわぁ、まじか。今ので嫉妬とかするのか?お互い付き合っている相手がいるのだから、まさか二人でダイニングテーブルに座っているだけなのがダメだったとは思わない。

でも後からボソッと永遠くんに「起こしてくれたらよかったのに」って言われたから、俺の場合は永遠くんを起こすのが正解だったようだ。次からは気を付けよう。


朝食を食べ終わると香月とお姉さんは今日の予定を話し始めた。お互いの行きたいところを聞き合い、香月は別にどこでも良さそうだからお姉さんが「じゃあ買い物行きたい!」と楽しそうに話されている。

仲が良さそうで、結構お似合いだ。香月よかったなぁ…とまた微笑ましくなりながら俺は永遠くんに目を向けると、永遠くんは眠そうに欠伸をしながら静かにテレビを見ていた。


「俺らもどこか行く?」


永遠くんもどこか行きたいとこあったりするかな?って思って聞いてみたが、眠そうに「いいわ。」と言って首を振られた。目をぐりぐりと擦っていてかなり眠そう。今日も当たり前にかわいいな。えっちしたいけどさすがに今日は無理だよな。


10時前にはもうお姉さんと香月は仲良く手を繋いで外出し、家には俺と永遠くんの二人だけになった。


…えっちした「今日は無理やで。」…い、けどダメですよね、そうですよね。まだ何も言ってないのにいきなり断られたぞ……。そんなに俺顔に出てたのか?


「顔見たら光星の考えてること分かったわ。」

「…すげえ、合ってる。」

「俺もしてあげたいのは山々やねんけどな。俺にもコンディションってもんがあるの分かってな。」

「…大丈夫、分かってるよ。」

「また次する時まで楽しみに待っててな。」


永遠くんはそう言ってチュッ、と俺の頬にキスしてきた。『はい、待ってます…。』と頷かざるを得ない。逆に早くしたくなってくるのをグッと堪える。永遠くんしだいで一生経験すらできなかったかもしれないのだから、次できる時までまた気長に待ちたいと思う。

寧ろ夏休みの思い出に、二回も永遠くんとできて良かったなぁ…と、改めて俺はこの喜びを噛み締めた。



こうして、一ヶ月近い夏休みはあっという間に終わっていった。夏休みが終わってまた毎日授業の日々が始まるというのに俺にとっては全然苦ではなく、“毎日永遠くんに会える”という理由でいつの間にか学校大好き人間になっている。


新学期の朝から永遠くんと待ち合わせをして一緒に登校するが、夏休みが終わる直前に髪を切ったらしく、首筋や耳にかかっていた髪が無くなりスッキリ爽やかになっている。

かわいかった永遠くんがかっこよくも見えてしまうのが俺としては少し気に入らない。ちょっと長めの、なんなら前髪が目にかかってるくらいの髪型が好きだな。今の髪型は女の子受けが良さそうだからなんだか心配。…と言っても男子校だから無駄な心配だろうけど。


「おぉ!永遠ちゃん髪の毛切ってるやん!」

「うん、バッサリ切ってきた。これでまた当分ほっとけるわ。」

「ええやん、めっちゃ似合ってるで。」

「ほんま?光星に微妙そうな反応されたから心配やってんけど。」


……ギクッ。

学校で香月に会い、永遠くんの髪型を褒める香月に俺は慌てて言い訳を考えた。そう言えば俺は香月のように褒め言葉を口にしてあげられていない。しかし俺が何か言う前に香月が「あ〜…」と永遠くんの顔をまじまじと見つめながら口を開く。


「…せやなぁ。“かわいい”永遠のことが好きな浅見からしたらちょっと好みじゃない髪型かもなぁ。」


…すげぇ、大当たりじゃねえか。こいつのこういうところちょっと恐れ入る。香月に言い当てられてしまい、何も言えずにいたら、永遠くんはムッと唇を尖らせて髪をいじいじと触っていた。


「…どうせまたすぐ伸びるもん。」

「あっ、いや、…ちがっ…!好みじゃないっていうか、女の子受けがよさそうだから…。ちょっと心配になって…。」


決して似合ってないとかじゃなくて、ただの俺の都合だということを素直に話せば、永遠くんは香月と顔を見合わせながらボソッと二人で何か話していた。


「…光星に言われたくないわ。」

「ほんまやなぁ。永遠ちゃんずっと心配やもんな。」

「うん。」


その後の永遠くんは、ちょっとだけテンションが低かった。…うわぁ、失敗したなぁ…。時間を少しだけ巻き戻したい。


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