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「侑里くんお風呂出たよー、もう寝た?」

「起きてるぅ〜!!」


コンコン、と俺の部屋の扉がノックされた後、姉の侑里に呼び掛ける声が聞こえてきて、侑里は機敏に起き上がり部屋を出て行った。

その後暫く侑里は俺の部屋に戻ってこなかったので、姉と暫しのお楽しみタイムなのかもしれない。キスくらいはしてそうだけど、姉と友人のキスシーンなど想像もしたくないのでそれ以上二人のことは考えないようにする。

侑里がこの後俺の部屋に戻ってくることは分かっているから、あまり光星とイチャイチャはし過ぎることなく二人でベッドの上で寝転がって喋っていた。

けれどだんだん光星の目はうとうとし始め、日付が変わろうとしていた頃にスッと光星の目が閉じる。俺は昼間に寝まくってしまったためめちゃくちゃ目が冴えてしまっているから、一人で起きていても暇なのでかっこいい光星の寝顔を眺めたり、チュッとキスしたり手を出したりする。

でも光星は「ん…」と少し声を漏すだけで目を開ける気配はなく、完全に眠りに落ちたようだ。寝込みを襲うつもりはないが、光星に触りたくて身体にぎゅっと抱き付き、胸元にすりすりと頬擦りしていたら、ガチャ、と静かに俺の部屋の扉が開いて侑里が戻ってきた。

光星に抱き付いたままの状態でチラッと侑里に目を向けると、侑里も俺を見ながら扉の横で固まっている。


「…何やってんの?」

「光星くんに抱き付いてる。」

「見たらわかるけど。」


コソコソと喋りながら侑里はそっと静かに扉を閉めて、座布団の上で胡座をかいだ。


「浅見すごいな、そんな状態でよう寝られるな。」

「ちゃうで、光星に先寝られたから後から抱きついてん。すりすりしても全然起きひん。」


そう侑里に話しながら光星の胸元にすりすりと頬擦りするものの、やっぱり光星に目を開く気配はなく「すー…すー…」と寝息を立てて眠っている。


「侑里と違って光星くんは寝顔もかっこいいし寝息の音も美しいわ。」

「おい、失礼やぞ。俺の寝息は汚い言うんか。」

「ふふっ、嘘やって。冗談冗談。」


そんな冗談を言いながらも、光星が寝ているから会話のボリュームも自然にヒソヒソ小声になる。あからさまな光星贔屓の褒め言葉を口にする俺に、侑里は「そういや永遠、浅見のこと好きって永菜にバレバレやん」と話してきた。


「べつにバレても良いんか?」

「俺そもそも姉ちゃんに光星好きなことぜんぜん隠してへんで?」

「え?そうやったん?」

「何か言われても俺の気持ちにとやかく言われる筋合いは無いしな。付き合ってるか付き合ってへんかはいちいち言うつもりはないし想像にお任せするけど。」

「さすがにまだそこまでは疑ってなさそうやけど。あっ、てかお前エアロビはまずいやろ…!」


ヒソヒソヒソ、と話しているのに、急に『エアロビ』という言葉を口にした瞬間、侑里は少し声を張り上げた。


「なんで?俺京都にいた時の友達と家で組体操の練習とかもしてたからわりとありがちな言い訳やねんけど?」

「はっ?そうなん?」

「うん、部屋で反復横跳びとかの練習もしてたしな。ドタバタうるさいってよく怒られたわ。」


転校前の郁馬との思い出を思い返しながら話せば、侑里は「なんや、心配して損したわ。」と言いながらごろんと座布団の上に横になった。心配してくれてたんや。


「そんな心配してくれるんやったら今度からもっと外でデートしてくれへん?俺今日ほんまに姉ちゃん夜まで帰ってこーへんと思ってたのに。」

「しゃあないやん、永菜が家で映画見よって言うてくれたんやもん。俺だって家で永菜ちゃんとイチャイチャしたいわ。」

「ほんで姉ちゃんとイチャイチャできたん?」


……あっ、あかんあかん。今のはちょっと余計なことを聞いてしまったな。

俺の問いかけに侑里は口を閉じるが、その口元はにやけており、ピクピクっと少し動いていた。こいつ分かりやすいなぁ。


「いいわ。言わんといて。」

「は?なんやねん、自分から聞いてきといて。」

「友達と姉がいちゃついてるところとか想像したないねん。」

「こっちのセリフじゃ、お前らだって俺の前でイチャイチャイチャイチャしよって。」


まじで嫌そうな顔をして侑里にそう言い返されてしまったから、わざと侑里に見せつけるように光星が着ているシャツを捲り上げて光星の素肌に直接すりすりと頬擦りしながら抱きついたら、小声で「やめんかい」と注意しながらお尻を軽く蹴られてしまった。


「光星くん全然起きひんなぁ。」

「せっかく寝たのに起こすようなことしたんなよ。」


侑里にはそう言われたが、「すー…すー…」と光星が美しい寝息を立てて眠っているから、調子に乗って「チュゥッ」と光星の乳首に吸い付き、ぺろぺろと舐めてみたら、「あッほッかお前!」と座布団から起き上がった侑里にペシッ!と頭を叩かれてしまった。でも光星は少し顔を顰めて「んん…っ」と声を漏らすだけでやっぱり起きない。


「痛いなぁ、叩かんといて。」

「寝込み襲うなや!変態やんけ!」

「ちんちん触ってへんからセーフ。」


そんなふざけたことを言いながら今度はチュッチュッと光星の頬にキスしまくったら、光星は「んん…」と色っぽい声を出しながら俺から顔を背けてしまった。


「あーあ。あっち向いてもうたやんか。」

「なんで俺睨むねん!?おかしいやろ!!」

「侑里うるさいで。光星くん起きるやろ。」

「散々寝込み襲ってる奴がよう言うわ!!」


ずっとヒソヒソ声だったのにだんだん侑里の声のボリュームが上がってきたから注意すると、侑里は再びごろんと座布団に寝転がり、また小声でボソッと口を開いた。


「…絶対俺とか浅見より永遠が一番やばいわ。」

「ん?なに?」

「永遠ちゃん俺のことも前変態とか言ってたけど自分が一番ド変態やんって思っただけ。」

「そやで?見たらわかるやろ。」

「いやわからんわからん…!かわいい顔してそんな開き直った態度取らんといて…!」


またヒソヒソ声で侑里と会話し続けていたら、気付けば時刻は午前1時を回ろうとしている。けれど俺と侑里はどちらかが眠るまでひたすらどうでもいい下ネタをべらべらと話しまくってしまった。

深夜に友達とのエロトーク、悪くない。

その流れで光星とのえっちの話もしそうになったけど、光星に怒られるからなんとか口にしないように我慢する。

先に「ふぁあ…」と眠そうに欠伸をしたのは侑里の方で、「そろそろ寝よか。おやすみ。」と言って部屋を真っ暗にすると、すぐに睡魔に襲われる。


せっかく隣で光星が寝ているのたがら、ぎゅっと抱き付いたら寝心地が良くてすぐに熟睡した。

そして、次に目覚めた時にはすでにもう部屋には明るい日差しが差し込んでいる朝だった。


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