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姉が作ってくれた夕飯を食べ、それぞれお風呂に入り、8時を過ぎた頃、また映画を見始めた姉と侑里と一緒に俺と光星もテーブルに腰掛けて映画を見ていたが、途中で飽きてしまいスマホゲームをやっていた。
姉が好きそうな恋愛もののサスペンス映画で光星は結構真剣に映画を見ていたが、侑里も映画は飽きてしまっているようでごろんと絨毯の上で寝そべって早くも寝そうになっている。
そしていつのまにか眠ってしまっていた侑里だが、突然「ンゴッ…」とイビキのような音が聞こえてきて、自分のイビキのくせに侑里本人が一番驚いて飛び起きている。あほおもろすぎて爆笑した。
姉ちゃんは映画の良いシーンで邪魔をされてちょっとキレながらもさすがにおもしろすぎて笑わずにはいられないようだった。
「俺今寝てた?」
「うん、寝てたな。」
「映画終わった?」
「まだやから静かにしといて。」
侑里はポンポンと姉に頭を撫でられ、すぐにまた寝そべって静かに映画を見始めた。でもまた気付いたらスースーと寝息を立てて眠っている。時刻は9時を過ぎた頃だった。きっといつも練習で疲れているから寝る時間も結構早いのかもしれない。
「侑里くんもう完全に寝てもうてるわ。見て見て、寝顔かわいいで。」
「えぇ?かわいいか?ただのあほ面やん。」
「それがかわいいんやんか。」
姉はそう言ってよしよしと侑里の頭を撫でている。姉ちゃんもなんやかんや言うて結構侑里に惚れてるなぁ。と、侑里の寝顔を見てデレデレしている姉を見て俺は口には出さずに思っていた。
とりあえず映画が終わるまで侑里を寝かせておき、映画が終わったところで姉がトントンと侑里の身体を叩いた。すぐに「んっ…?終わった?」と目を開けた侑里が身体を起こす。
「うん、終わった。侑里くんほんまはぜんっぜん映画興味無いやろ。」
姉にチクリとそう指摘され、「え…」と眠そうなあほ面で固まっている侑里だが、そんなのは見ていたら分かることだ。
「侑里が2時間ある映画に集中できるわけないやん。集中できてもせいぜい45分やろ。ハーフタイムもちゃんと挟んであげなあかんで。」
「おぉ、永遠ちゃん俺のことよう分かってくれてるやん。」
「侑里がテスト勉強してる時さりげなく何分集中力続くやろって計ってたら45分やったわ。すごない?」
「なに勝手に計ってんねん。」
「侑里くん身体の基礎がもうサッカー中心にできてもうてるんやわ。」
「たまたまやろ。」
侑里はそう言いながらくわっと大きな欠伸をした。めちゃくちゃ眠そう。今さっき10時を過ぎた頃だからいつもなら多分とっくに寝ている時間だろう。
「ほな私はお風呂入ってくるわ」と姉が言っているから、俺と光星と侑里の三人で俺の部屋に移動した。
するとさっきまで眠そうにしていた侑里が何故かぱっちり目を開けていきなりピンピンし始めた。
「やば、永菜ちゃんの風呂上がりとか興奮するんやけど俺どうしたらいい?」
「どうもせんでええわ。もうさっさと寝ろ。」
「寝れるわけないやん!彼女の家で初お泊まりやのに!」
「さっきグォ!ってイビキもかいで寝とったがな!しかも俺の部屋で寝るくせになにが初お泊まりやねん。」
侑里用に座布団を三枚ほど並べながらそう話す俺に、侑里は「初お泊まりったら初お泊まりや」と言いながらさっそくごろんと座布団の上に寝転がる。俺は自分のベッドに寝そべり、光星に向けて両手を広げると、光星もベッドに上がりギュッと俺にハグしてくれた。
「うわ…お前ら距離感バグってきてんな。俺おってもお構いなしやん。」
「どうせ侑里しか見てへんねんからいいやん。」
「まあせやけど。一日中そうやって二人でベタベタくっついとったんやろ。」
「ふふっ…侑里ら帰ってこーへんかったら昼からもっかいできたのになぁ。」
勿論身体がしんどいので冗談だけどペラッとそんなことを口にしながら光星を見上げれば、光星はすぐに赤面しながらシーッと口の前で人差し指を立ててきた。
耳元でコソッと「ダメだよ」と言われたが何がダメなのか分からない。首を傾げると今度は俺の口を光星の手で塞がれてしまった。
「え?なに?怪しすぎんねんけど。」
「なんでもねえから気にするな。」
「浅見顔真っ赤っかやで?お前何かやらかしたん?」
「はっ!?べつに何もやってねえから…!!」
「あかんで?永遠がかわいいからってガツガツヤったら。」
サラッと口にした侑里の発言に、光星はさらに赤面して俺をじろっと睨みつけてきた。俺は『やばっ』と焦って咄嗟にフルフルと首を振るが、「永遠くん香月になにか話しただろ!」と顎をぎゅっと掴まれてしまった。
「今日はまだ何も言ってへんで?」
「今日、“は”?この前のは言ったんだ?」
「言ったかも。だってのろけたいやん。」
ぎゅっと顎を掴まれたまま、光星は俺の耳元でボソッと口を開く。その声は低く、ちょっとだけ怖い。
「もし言ったら分かってるよね?」
その発言の意味を俺はすぐに理解したが、首を傾げて知らんぷりをしていたら、侑里には絶対聞こえないくらいの囁くような小さな声で告げられた。
「次から絶対ゴムつけるからな。」
「いやや。」
「じゃあ約束は守ってね。」
うんうん、と俺が頷いたところで、ようやく光星は俺の顎から手を離した。ずっと二人でこそこそと話していたから侑里にかなり怪しまれている。
「なんなん?もしかして浅見の方が主導権握ってんの?普段は永遠の方が気ぃきついのにヤる時は立場逆転するん?」
「俺べつに気ぃきつくないやろ。いっつも光星くんの言いなりやで。」
ゴムを付けられるのは困るので、侑里の問いかけにどこまでなら話して大丈夫だろうか、って考えながら口にした言葉に、光星は俺の顔を見下ろしてフルフルフルフルと首を振っていた。
「どこがだよ。」
「ええ?」
「俺のが絶対永遠くんの言いなりだわ。」
そこは譲れない、というようなわりと強めの口調で光星にそう言われてしまったが、そんな俺たちのやり取りを眺める侑里に「どっちもどっちか。」と少し呆れた態度を見せられる。
「でも元はと言えば光星がやりたいって言い出したから俺頑張ってんねんで?」
べつに俺はどっちがどっちの言いなりとかはどうでも良かったけど、事実を言えば光星は赤面する顔で「そうでした…。」と言って大人しくなった。
「それに光星くん隠れサドやしな。俺がしんどがってても絶対止めてくれへんし。」
「は?隠れサド?」
ボソッと光星とのセックスの不満をぼやいたら、また光星の手で口を塞がれたのでそこでこの話は強制終了した。これ以上話したら光星くんに怒られてしまいそうだ。
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