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リビングにあるテレビの方が大きくて見やすいからという理由で永菜はリビングのエアコンをつけ、DVDをセットし始めた。
ダイニングテーブルに腰掛けてずるずると冷やしうどんを啜っていた永遠が、ぼそっと小声で「腰だるい」とぼやいている。
「光星はなんで大丈夫そうなん?いっつも俺ばっか、むぐっ…」
話の途中で永遠は赤面している浅見に口を塞がれ大人しくなったが、何の話をしているのか俺にはバレバレすぎて、二人の会話の所為で気が散って映画を集中して見られそうにない。
だいたいその会話永菜に聞かれてもいいのか?と俺の方がヒヤヒヤしながら永遠が座っている椅子の正面に腰掛け、「永遠の声こっちに聞こえてるからな?」ってコソッと伝えに行ったら永遠は『だからなに?』と言いたげな顔をして首を傾げた。
「俺ら体育祭までに絶対体力つけたるからな!見てろよ、スポーツクラスのゴリラども、特進の意地見せたんでぇ!」
突然永遠は心のこもっていない淡々とした口調でそう言いながら、「フン!」と腕に力を入れて細い二の腕についた微かな筋肉を見せつけてくる。
なるほど…、セックスしてたのを断固としてエアロビしてたと言い張って誤魔化す気か。べつに体育祭とかどうでもいいくせに体力作りする言い訳のためやな。なにがゴリラどもやねん、失礼な。
「ほっそい腕して、永遠ちゃん一人頑張ったところでゴリラには勝てへんぞ?」
「そういや体育祭っていつあんの?」
「そっから!?知らんと言うてたんかいな!」
自分から聞いてきたくせに永遠はそこでどうでもよさそうにまたズルズルとうどんを啜り始めた。
まあ体育祭なんかほんまにどうでも良いんやろうな。えっちして腰痛くなった話してただけやもんな。って、体育祭の話題は俺が口を挟んだから始まった会話だったことを思い出して黙って永遠のうどんを食べているところを見ていたら、DVDのセットを終えた永菜が「映画見るで!」と手招きしてきたから、俺はしれっと永菜ちゃんの身体に後ろから抱き着いて絨毯の上に腰を下ろした。
「ちょっと!!普通に座ってよ!!」
「え?普通に座ってるやん。」
「恥ずかしいやろ…!永遠もいるのに…!」
「永遠はこんなん気にせえへんって。」
だいたいあいつらなんか二人の時ヤっとんねんぞ?こんなん気にするわけないやん。って一応チラッと永遠の方を確認してみたら、永遠はまじで興味無さそうにテーブルの下で足のストレッチのようなことをしながら食後にプリンを食べていた。
「足の付け根もだっるいわぁ。」
「大丈夫?」
「大丈夫ちゃうわ。光星が悪いんやで?俺しんどかったのに足わざわざ広げさせたやろ。」
「あ、バレてたか…。だってかわいかったから…。」
なにをコソコソ喋ってんねん。またどうせえろい話してるんやろ、ええ加減にせえよ。俺も永菜ちゃんとイチャついたるからな。
「永遠プリン食っとるわ。」とか言いながらぎゅっと永菜を抱きしめる力を強めてテレビに目を向けると、永菜は諦めたのかもう何も言ってこなかった。でもすぐにムラムラしてきてしまい、危険なので結局自分から永菜を離した。
そして最初のシーンを全然集中して見ていなかったため、映画の内容はほとんどわからないまま進んでしまっている。
いつのまにか永遠と浅見は永遠の部屋に行ったようで居なくなっていた。ということで、二人の存在を気にせず映画そっちのけで永菜にキスしたり髪を撫でたりして手を出してみるとベシッと頭を叩かれてしまった。永菜ちゃんのケチ。
俺はどうやら2時間の映画を集中して見るのは無理なようで、ごろんと絨毯の上に横になったりしてなんとか映画が終わるまで耐え続けた。
映画を見終わったあとは永菜が映画の感想を語っている。うんうんととりあえず頷いておくもののまったく意味は分からない。「あ〜あそこのシーンな。おもろかったな。」とさもちゃんと見ていましたよ、というような感想を適当に口にして話を合わせておいた。まったく見てなかったことがバレると呆れられてフラれても困るので次からは気を付けたいと思う。
「もう5時かぁ〜、早いなぁ。」
うんと腕を伸ばして伸びをしながらさりげなく永遠の部屋へ行き、ノックなしに部屋の扉を開けてみたら、ベッドの上で浅見の胸を背凭れにしてよりかかってスマホをいじっている永遠の姿があった。ぎゅっと永遠の腹に回されている浅見の手がちょっと生々しい。
「お前いきなり開けんなや!俺んち出禁にされたいんか!?」
「うわっ!びっくりしたぁ!」
部屋の中を覗くとブン!と勢い良く永遠の側に転がっていた犬のぬいぐるみを投げつけられた。本気でキレたような態度でそう言われて慌てて謝る。
「ごめんごめん!!何してんのかちょっと気になったから。」
「ん?あんたなに永遠に怒られてんの?」
「部屋の戸いきなり開けたら怒られた。」
永遠の怒鳴り声に釣られるように永菜も俺の側に来て問いかけられたからそう説明したら、スッと目を細めて冷めた表情を永菜にまで向けられてしまった。
やばい…っ俺永菜の部屋もいきなり開けてしまった前科あるの忘れてた…!永菜が永遠の部屋いきなり開けへんかヒヤヒヤしてたけど俺が一番あかんやつになってもーてるやん、これじゃあほんまに出禁にされてしまう…!
そんなことを思い出してハッとしながら口を手で押さえていると、永菜にペシッと頭を叩かれてしまった。
「侑里くん永遠に嫌われるようなことしたらあかんで。私の弟やねんから。」
「気を付けます。」
「もうウロウロせんとこっち来といて。」
「はい、ごめんなさい。」
呆れ顔の永菜に手を引っ張られ、強制的にまたリビングの方へ連れ戻される。
「あと一本借りた映画どうする?続けて見る?」
「一旦休憩したいです。」
「いいよ。ほなまた夜に見よか。」
…そう、俺は今日外泊届けを出してきたから、一晩中ずっと永菜と一緒に居られるのだ。当然ウキウキな俺だが、そこでハッとしてあることを思い出す。
「あっやば、俺外泊先に永遠の名前勝手に書いたことまだ言ってへんわ。」
「えっ?言ってへんの!?もーあんたまた怒られんで。しっかりしてや。」
「言ってくるわ。」
「ノックはいちいちしなあかんで。」
「わかりました。…永遠ちゃあ〜ん?ごめんちょっと開けるで〜『ガンッ!!』あッ!痛ッッた!!」
今度は分かりやすく部屋の外で名前を呼びながらノックしようとしたら、先にガチャと扉が開き、扉に顔面を強打してしまい顔を押さえて蹲った。
「は?なにやってんの?」
「イッ、痛い…っ。」
「なんで?顔打ったん?」
永遠はグイッと俺の肩を掴みながら顔を覗き込んできた。
怒らせてしまった直後やのに心配してくれるんか、優し「姉ちゃあ〜ん?なんか侑里痛がってはるけど〜?」……そうでもなさそうやな。
『痛がってはる』ちゃうわ、永遠が急に扉開けたからぶつかったんやんけ。
「えぇ!?もうあんた今度は何したん!?」
しかし痛がる俺に永菜がまた俺が何かやらかしたみたいな言い方をしながら歩み寄ってきたので、とりあえず俺は何も言い訳をせずひたすら痛みに耐え抜いた。
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