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「着替えるからちょっと部屋の外で待ってて。」
永菜にそう言われて待っている間に、俺はノックもせずガチャといきなり永遠の部屋の扉を開けてやった。
これがもし永菜やったらお前らやばかったかもしれんねんぞ、って言いたくて戒めのようなつもりで開けてみたが、部屋の中では普通に永遠が絨毯の上で昼寝をしていて、浅見がその隣で澄ました顔をして座っている。
浅見ちょっと息切れしとるぞ。お前さっきのはなんやねん、やけに髪の毛乱れてるし顔にもなんか変な跡ついてるけどお前もさてはさっきまで寝てたやろ。
「早くね…?デート終わり?」
「デートしてきたぞ?水族館。」
「早すぎだろ…、もうちょっと外でデートして来ればいいのに…。」
「ええやろべつに。お前らこそどっかデートして来いよ。」
…って、いやいや何の言い合いやねん。好きなようにデートさせてくれ。
てか永遠爆睡してるし。家に恋人連れ込んどいて爆睡!?贅沢やなぁ!しかも永遠ちゃんズボン穿いてへんやん!ほっそい足が丸見えやぞ、なんか永遠ちんやらしいで。
…いや待てよ?よくよく考えればこれはどうみても事後やろ。永遠だけ爆睡っておかしいやん。浅見どんだけガツガツヤったんや?
…ほーん、なるほどな。お前らヤり疲れて二人で昼寝してたんやろ。どおりでラインも返ってけーへんわけや。…と、俺は名探偵ばりの推理を頭の中で繰り広げながら爆睡している永遠を見下ろしていたら、隣の部屋から永菜が呼びかけてくれている声が聞こえてきた。
「侑里く〜ん、着替えたしもうこっちきていいよ〜!」
「は〜い!」
あ、すまん。俺の大声で返事をしてしまった声に反応して、「んんっ…」と小さく唸りながら永遠が目を覚ました。
「あ、永遠おはよう。」
一応挨拶してみるものの、永遠は不機嫌そうな顔をして何も言わずに起きあがろうとしたが、すぐにまたぐったり絨毯の上に寝そべり、「んんっ…」と不機嫌そうな声を出すだけだった。
「…なんで侑里がおるん…。」
「今から永菜ちゃんと映画見んねん。」
「…ふぅん。…洗濯機は?…止まった?」
「ん?洗濯機?知らんぞ?止まったん?」
「あっ!うん、止まった止まった…!!」
洗濯機?なんの話やねん。
永遠は浅見の返事を聞くと再びむくっと起き上がり、だらだらとかったるそうに部屋を出て行く。永遠ちゃんとりあえずズボン穿いたら?
「…あぁーっ!永遠くん待って、止まったけど!…もう干して取り込んだよ!!」
「…んぇ?」
「外暑いからもう乾いてたよ…!」
浅見はあたふたしながら永遠にそう声をかけ、永遠の後を追いかけていった。意味不明な上に俺は一人永遠の部屋に取り残されてしまったため、俺もその流れで一緒に永遠の部屋を出る。
ちらっと二人の様子を俺は背後から窺ってみると、洗面所の横に置かれている洗濯機の中を覗き込んでいる永遠に、浅見が必死に「取り込んだ!」「取り込んだよ!」って説明していた。なんの話や。
意味不明な二人の様子を窺うのはそこでやめ、永菜の部屋に入ろうとしていたところで先に永菜が部屋から出てきて台所の方に行ったから、俺はその永菜の後を追う。
お茶を入れたコップを永菜が俺に渡してくれたから、外は暑くて喉が渇いていたためすぐにゴクゴクと飲み干してしまった。
「永遠と光星くんなにしてたん?」
「なんか洗濯機がどーのこーの言うとったで。」
「洗濯機?うわ、もしかして永遠洗濯機壊した?」
「え?なんで?」
「永遠機嫌悪い時洗濯機に八つ当たりしてよく蹴ってるらしい。お母さんがめっちゃ心配してた。」
「えぇ…、永遠ちゃんそんなんしたらあかんやん。」
お茶のおかわりを貰いながら永菜とそんな永遠の話をしていると、パンツのまま永遠がこっちに歩いてきた。
…いやいや、永遠ちゃんズボンはよ穿けよ。って思いながらも口には出さずに永遠を見ていたら、浅見にトントンと肩を叩かれ、浅見の方へ振り向く永遠に浅見はパンツを指差し小声で話しかけている。ズボン穿けって言ってるのだろうか。
チラッと自分の下半身を見た永遠は、すぐにUターンして自分の部屋にまた入っていった。もしかして永遠ズボン穿いてへんこと気付いてへんかった?
それとも家の中では結構普通にパンツで過ごしてたり?まあでも弟のパンツ姿なんて永菜は見慣れてるんやろうな…とどうでもいいことを予想していたところで、再びズボンを穿いた永遠が部屋から出てきて俺たちの方へやって来た。
「なんで姉ちゃんら居るん?遊園地行ってるん違ったん?」
永遠もそう話しながら冷蔵庫の方へ行き、コップにお茶を入れてゴクゴクと飲み始めた。
「結局水族館行くことになったって言うたやん。永遠全然私の話聞いてへんなぁ!」
「えぇ?そうやった?だって姉ちゃん早口でベラベラ喋ってるから何言うてるか分からへんねんもん。」
「永遠が聞く気なかっただけやろ。どこ行くん?て聞いてきたから私ははっきり水族館って言うたで?」
「…はぁ。なんかお腹減ってきたなぁ。」
「ほっら!ほら!…な?な?聞いてへんやろ?」
まだ永菜が話している途中で永遠がお腹をさすりながら冷蔵庫を覗き始めたから、永菜は俺に顔を向けながら永遠を指差して必死に“話を聞いてもらえていないアピール”をしてきた。
確かに永遠が永菜の話を全然聞いていなかったのはその通りで、俺がうんうんと頷くと永菜は「もおっ」とぶつぶつぼやきながら呆れた目を永遠に向ける。
「お昼ご飯まだ食べてへんの?もう3時なるで?あんたら家でなにしてたん?」
「エアロビしてたら疲れて爆睡してしもた。」
「はい??なにしてたって?」
「エアロビクス。」
永遠はそんな単語を口にしながら足と腕を動かして踊り始めたから、俺は咄嗟に「ぶふっ…」と吹き出してしまった。なにがエアロビやねん、あほか。もっとマシな嘘つけよ。
白々しいことを言っている永遠の隣で浅見が若干赤い顔を隠すように後ろを向いている。お前ら分かりやすすぎるけど大丈夫か?と俺は少し心配になっていたが、永菜は「永遠らの遊びはよう分からんわ。」と言って始終永遠に呆れっぱなしだ。
「姉ちゃん暇なんやったらご飯作って。」
「暇ちゃうわ!今から侑里くんと映画見るのに!!」
「せやぞ永遠!!一応まだデート中やぞ!!」
「…だってお腹減ったんやもん。」
永遠はそう言っていきなりぐたっと浅見の肩に頭を乗せ、甘えるようにすりっと顔を浅見の首筋に擦り付けた。…おっ、お前…やめろよ、そんな分かりやすすぎる態度…。
妙に優しげに「何か食べに行く?」と永遠に聞く浅見に永遠はふりふりと首を振る。続けて「コンビニ行く?」と問いかけると、永遠はコクリと頷いた。
「…急にイチャつくな。反応に困るわ。」
「えっ…」
二人は部屋に財布を取りに行き、コンビニに行くために家を出ると、永遠と浅見のやり取りを見ていた永菜がボソッと小声でそんなことを口にする。一体どういうつもりで言ってるんだろう。
「光星くんの前では永遠めっちゃぶりっこしててデレデレちゃう?」
「え?…あ、…そうなん?」
どっちかと言うと浅見の方がデレデレやけど…まあ永遠もデレデレっちゃデレデレか。と思いながらも何も知らないフリをして永菜に返事をしていたら、「デレデレっていうかあれはもう絶対惚れてるわ。」と確信しているような言い方をしている。
バレてんのかいな…?俺これどう返事すればいいねん、って困りながら、また「そうなん?」って適当に返事をしてやり過ごす。
「まあ光星くんが永遠の変な遊びに振り回されてへんかったらいいんやけど。光星くん優しいからなぁ〜。」
そう口にしながら、借りてきたDVDを手に取り「どっちの部屋のテレビで見よ〜」と悩んでいる永菜。どっちでもええがな。
てか永菜ちゃん永遠の嘘信じてるんやな…。エアロビとか絶対嘘やのに…。
俺の永菜ちゃんピュアやなぁ…かわいいなぁ…。って、とりあえず二人が留守中の今のうちに永菜を堪能させてもらおうと、ハグしてキスして永菜をぎゅっとする。
でもその数分後には二人がコンビニから帰ってきてしまい、「チッ」と舌打ちしながら渋々永菜から手を離した。帰ってくるの早すぎじゃボケ。
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