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夏休み終盤、奇跡的に貰えた二連休に俺はウキウキで永菜とデートの約束をし、朝から待ち合わせ場所に向かい、永菜に会いに行った。

今日は永菜の両親が知り合いに会いに京都に行っているらしく、明日まで帰って来ないらしい。そんな話を聞いた時、俺は数日前浅見から送られてきたラインの意味を理解した。


【 香月、8月20日暇? 】

【ごめんな…その日は永菜ちゃんとのデートの約束があんねん。 ウキウキ 】

【 まじか。ありがとう、俺もウキウキ 】


てっきり遊びに誘ってくれたのかと一瞬思ったけどそういうわけではなさそうで、なぜかウキウキしている浅見は意味不明だった。しかし今考えてみれば、永菜が今日出掛けるとなると家は永遠だけになる。浅見がウキウキする理由など一つしかない。


……あいつら絶対やっとるわ。


くっそぉ…俺はやりたいのを必死に我慢してると言うのに…。いいなぁ…、俺はいつ永菜ちゃんとできるんやろ…。

そんなことを思いながらチラッと永菜を見下ろすと、永菜も俺を見上げてきて目が合った。くるっと上に上がった睫毛にぱっちりした目がかわいすぎる。キスしたい。


「今日も暑いなぁ〜。遊園地やめて正解やわ。」

「ほんまやなぁ。人も多そうやしな。」


遊園地に行きたがっていた永菜だったが、暑いだろうから涼しくなってからにしようと今日は水族館へ行くことになった。そんな会話をしながら、電車に乗って近場の水族館へ向かう。

まだ夏休み中なこともあって、どこも家族連れやカップルなどの客でごった返している。暑苦しいから俺も浅見たちみたいに永菜の部屋で二人でのんびりえっちなことしたい。…とは口が裂けても永菜には言えない俺の本心だ。


俺は魚に興味はまったく無いから、楽しそうに魚を見ている永菜がかわいくて、魚を見ているフリをしつつずっと永菜を見ていた。あ〜キスしたい。薄暗い部屋でならチュッて軽くしてみてもいいかな。…って思ったりもしたけど、デート中に怒らせたくはないのでやめておいた。



「この後どうする?侑里くんどっか行きたいとこある?」


水族館は2時間ほどで見終わってしまい、昼食を食べながら永菜が俺にそう問いかけてくれるが、俺は永菜と一緒に居れたらどこだっていい。けど、強いて言えば二人になりたい。とりあえず1回くらいはキスしたい。


「永菜ちゃんにチューしたい。」

「もう!そんなん聞いてへんわ!」

「あ、カラオケ!」

「絶対ただのチュー目的やん。」


永菜希望のイタリアンの店でパスタを食べながらしれっと俺の願いを口にするものの、顔を赤くしながらもバッサリ拒否されてしまった。まあしゃあない、分かってた。


「あんたパスタ食べるの下手やなぁ。」


俺の頭の中は『キスしたい』ということでいっぱいだが、永菜はどうでもいいパスタの食べ方を指摘してきて、ジッと俺のパスタを食べているところを眺めてくる。


「めんどくさいからお箸でずるずる食べたい。」

「なにがめんどくさいん?フォークに巻き付けて食べたらいいだけやん!」


永菜はそう言って自分の食べているところを見ろと言うようにフォークを回してクルクルとパスタを巻き付けてからパクッと口の中に入れる。

得意げに「どう?」って聞いてきたから「かわいい」って答えたら「はあ?」と顰め面を向けられた。


「はぁ…。侑里くんとはナイフとフォーク使った店なんか絶対食べに行けへんなぁ…。」

「あぁ…。ナイフとフォークなぁ。あれ究極にめんどくさそうやんな。全部箸で食わせて欲しいわ。」

「……ちょっと付き合うの早まったかなぁ。私彼氏とイタリアン行きたかってんけどなぁ…。」

「えっ…!いや待って?行くやん!イタリアン行っていいからそんなん言わんといて!?」


ぼそっと小声で永菜のぼやきのような言葉を聞いてしまい、俺は慌ててそう口にするが、そんな俺の反応を見て永菜は「ふふっ」と笑っていた。

ナイフとフォークを使った料理を食べるのはめんどくさそうだが、俺はべつにイタリアンが嫌だとは言ってない。永菜が行きたいなら行くし、面倒だし下手だろうけど、下手なりにナイフとフォークを使ったメニューだって食べてみせる。


「ほな俺永菜ちゃんとイタリアン行くためにナイフとフォークで食べるの練習するわ。」

「ふふっ…もっと大人になってからでいいで。次はお箸で食べられるご飯屋さん行こか。」

「うん。ありがとう、永菜ちゃん好き。チューしたい。」


結局はそこへ辿り着く俺の感情に永菜はちょっと照れ臭そうにクスッと笑い、「行くとこ思いつかんかったらうちで映画でも一緒に見よか。」ってこの後の予定を言ってくれた。

…それはつまり、家でならチューしても良い、…と?

…いや、でも待てよ。

家行ってもあいつらいるやんけ。

ワンチャンあいつらも外に出掛けてないだろうか?って永遠に【 今家? 】ってラインをしたが、返事どころか既読すらつかず、浅見にも同じ内容を送信したが結果は永遠と同じだった。


なんでやねん!!二人ともライン見ろよ!!

……さてはラインが見れない状況か…?

もしやヤってる最中…!?


そんな疑いを持ちながらも二人からの返信を待ち続け、永菜とレンタルショップで映画のDVDを借りてから永菜の家にお邪魔する。

永菜が鍵を開けて家の中に入ると家の中はやけにシンと静かだった。


「あ、光星くんの靴あるなぁ。」

「…あ、ほんまや。なんか静かやな。」

「うん、二人で何してんねやろ。」


え…、うわ…待って、危険や…。まじであいつら今何やってんの…?結局ライン返ってこんかったけど。

てか永菜いきなり永遠の部屋開けんなよ…?って俺は勝手に一人でヒヤヒヤしていたが、永菜は帰ってすぐ手を洗いに行くためか洗面所に入っていったからホッとした。

ホッとしながら俺も永菜の後を追って洗面所に入ろうとしていたら、ガチャ、と突然永遠の部屋の扉が開く。そして中から浅見が慌てた様子で部屋を飛び出し、居間の方へ走っていった。


…は?なにしとんねんあいつ…?


「ん?なんか音聞こえた?…あっ!ちょっと!」


怪しすぎる浅見の行動を見逃してやるために、洗面所から出てこようとしていた永菜をハグして俺の腕の中に閉じ込める。シーッと口の前で指を立てて永菜の唇にチュッとキスすると、永菜はそのまましばらく大人しく俺にキスさせてくれた。

…はぁ、永菜ちゃんほんまにかわいいなぁ。もっとちゃんとした状況で永菜ちゃんにキスしたいのに浅見の行動が気になって落ち着かない。


その後、カラカラッとどこかの扉を開け閉めしている音がしてから、浅見がシーツのようものを抱えてダッシュで洗面所の横を通り過ぎていった姿を横目で目にする。

…なんなん?ほんまにあいつなにやってんの?


「…侑里くん、恥ずかしいからもう離して…。」


ギュッと永菜を抱きしめ続けていたから、もじっと恥ずかしそうに永菜にもがかれてしまい、そこで俺は渋々永菜の身体を離した。


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