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「せっかくショップ来たから服買うわ。」


昼食を食べたあと、光星はそう言いながら通りかかった服屋でズボンを手に取り眺め始めた。


「俺あっちのゲーセン見てきてもいい?」

「うん、いいよ。兄貴と行ってきて。」


服に興味がなさそうな流星くんは、お兄さんを引っ張ってゲームセンターの方へ歩いて行く。

光星がお金持ちな坊ちゃんなことは分かっているから値段をまったく気にせず選んでいることには驚かないけど、いつも穿いてるようなデニム生地ではなく緩めのチノパンを眺めていることが気になった。


「光星ジーパンの方が似合うで?」


俺はそのまま思ったことを口にしたが、光星はポロッと「んー…勃つといてぇんだよなぁ…」という不満を溢している。


「あ…そうなんや。」


光星ちんちんおっきぃもんな…って、おっきい人にしか分からない苦労があるのだろうと想像しながら頷いていたら、何故かハッとした表情を浮かべた光星が慌てた様子で商品を棚に戻して、俺の頭を抱き寄せて「なんでもない、なんでもない」とぐりぐりと頭を撫でてきた。


なんやなんや…!?
無意識のひとりごとやったんか!?

その顔はちょっと赤くなっていて恥ずかしそうだ。そんなに恥ずかしそうにしなくても誰にだって急に勃つことはある。それに痛いのならしょうがない。


「これなんか良いんちゃう?ジーパンみたいやけど柔らかそうな生地やで?」


俺はふと目についた光星に似合いそう、且つ穿きやすそうなズボンを手に取り光星に差し出すと、耳まで赤くして恥ずかしそうにしてしまっている光星が「いいな…。試着してくるわ…。」と言って試着室に入っていった。やっぱり値段はまったく見ていなかった。


光星の試着中に値段を確認してみたら普通に1万円を超えている。俺の1ヶ月のお小遣いでは服一着で無くなってしまうどころか全然足りない。人にはおすすめしておきながらとてもじゃないけど自分なら買おうと思えない金額だ。

しかし試着を終えるとそのままレジに直進して支払っている。一体光星の財布にはいくら入ってるんやろう…と純粋に興味を持ってしまったのだった。


人の家のお金事情を聞くのもどうかと思ったけど、気になってしまい光星がレジから戻ってくると「光星お小遣いいくらなん?」って聞いてしまった。


「お小遣い?別に決まってねえけど。その都度もらってる。」

「その都度…!?いくらもらってんの?」

「今みたいに服買いたい時とか。母親が男の服とか下着分かんないから好きなの買ってこいって適当にお金だけ渡してくる。娘欲しいってよく嘆いてるよ。」

「お母ちゃんっ…そうなんや、なるほどな…。そりゃ息子のパンツのサイズなんかいちいち把握してられんわな…。」


お金持ちだから財布の中にたんまり入ってるのかと思いきやそういうわけでもなく、光星から聞いた事情にすんなり納得した。……いやでもやっぱり1万円以上するズボンがポンと買えるのはさすがだ。俺ならよっぽど気に入った物だとしても30分は悩むだろう。

光星の新たな一面をまたひとつ知れたな。って、俺の頭の中にある光星くん用ポケットに情報をしまいながら光星の隣を歩く。


その後もせっかく来たのだからとショップを見て周り、そこそこ楽しんだところでゲーセンで遊んでいる流星くんとお兄さんと合流した。


一体流星くんはゲーセンにいくら使ったのかは不明だが、クレーンゲームで取ったぬいぐるみをお兄さんの両手に合計3つも持たせて、さらには自分の脇にもそこそこでっかいぬいぐるみを抱えている。

大して欲しくも無かったぬいぐるみがあっさり取れてしまったようで、「こんなに取れちゃった」と言ってぬいぐるみを邪魔そうに抱えなおしていた。


「そんなに甘々設定だったのか?」

「ううん、流星が無駄に上手かった。」

「無駄すぎだろ…。要らないもの取るなよ。」

「…だって楽しかったんだもん…。」


少々呆れ気味の光星はお兄さんにぬいぐるみをひとつ押し付けられ、みんなそれぞれ要らないぬいぐるみを手に持ちながら車に帰っていった。

雑にぶらんと犬のぬいぐるみのしっぽを持って歩いている光星がおもしろくて笑ってしまう。


「俺このわんちゃん欲しいかも。」


車に乗ってからも光星が邪魔そうに抱っこしている犬のぬいぐるみがだんだんかわいく見えてきてしまい、そう言ったら「はい」って光星が俺にぬいぐるみを渡してきたから、俺はこのわんちゃんを貰って帰ることにした。


光星の家に戻ってきた頃にはもう夕方で、昼食を食べに行っただけのはずが随分楽しめてしまった。

戻ってくるとまた流星くんがゲームをやりたがり、俺と流星くんが戦うゲーム画面をお兄さんがさっき持って帰ってきた一番大きいぬいぐるみをクッション代わりにお尻に敷いて寛ぎながら眺めている。

お兄さんの尻に敷かれてぺしゃんこになっているぬいぐるみがかなり可哀想だったけどそんな無慈悲な光景が俺は笑えてしょうがなかった。


普段はあまり見れない光星が家族と過ごす時の様子も見れて、気分転換にもなった1日だ。



「あ〜今日めっちゃおもしろかったわ。」


夜になると、俺が泊まるということで布団を貸してもらったので布団を敷き、犬のぬいぐるみを抱っこしながらごろんと横になるが、光星がそんな俺を犬のぬいぐるみごと抱っこしてきた。


「そっちで寝るの?」

「どっちでもいいよ?」

「じゃあこっち。」


そう言いながら俺を抱きしめ、ごろんとベッドに横になる光星。


「これ邪魔だな…。」

「あっ!俺のわんこ!」


俺の胸に抱えていたわんこはひょいっと光星に引ったくられ、布団の上に放られてしまった。


「も〜しゃあないな、光星くんぎゅってしてあげるわ。」


そう言って抱き枕みたいに光星に抱きついたら、光星は口元をゆるゆると緩ませて「うん」って頷き、俺にキスしてくる。


「あ〜あ、俺は次いつ永遠くんとえっちできるのかな。」

「そんなにしたい?」

「うん、そんなにしたい。」


俺の頭にすりすりっと頬擦りしながら、光星はへらっと笑って素直にそう言ってくるから、俺は言おうか言うまいか悩んでいた話をしてあげることにした。


「ん〜…。じゃあそんな光星くんにちょっとだけ良いこと教えてあげよっかな。」

「…なに?」

「今度親知り合いに会いに泊まりで京都行ってくるって。」

「…おぉ。」

「せやしその日、姉ちゃんが出掛けてたら、家族留守やしやってもいいかな。」

「香月に頼もう…、夜までお姉さんとデートしてきてって頼もう。」


俺の発言に光星は身体を起こして、早くも少し嬉しそうで興奮気味な様子を見せてきた。期待させるようなこと言ったからには、俺もちゃんと準備をしておいてあげないとな。


グッグッと股関節を押し、パカッと足を広げてみる。


「ちょっとは慣れてきたな、M字開脚。」

「…永遠くん、不意打ちでそのポーズするのやめてください。」

「なんで?俺のM字開脚興奮する?」

「……ちょっと興奮する。」


光星はそう言って横目で俺を見てきたあと、サッと俺から目を逸らしていた。ずっとM字開脚をしていてもただのあほなので、俺もスッと足を閉じる。

本番は意識している暇もなく足を開かされることになるだろうから、それまでに少しでも身体を柔らかくしておきたいと思う。


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