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「やべえなぁ…、俺完全に欲深くなっちゃってんなぁ。ひとめぼれの相手と付き合えてるだけで十分幸せなことなのに。」
光星はそう言いながらベッドから起き上がり、俺の手を握ってふっと優しい笑みを見せてきた。初心にかえって手を繋ぐだけでも嬉しい事だと思ってくれていそう。
「欲深くて良いやん。あかんの?」
「いいの?永遠くんの負担になる存在にはできればなりたくないんだけど。」
「負担とか思うわけないやん、好きやから付き合ってるのに。俺次また光星とする時のために最近毎日ストレッチしてんねん。」
俺も身体を起こし、足の裏をくっつけてグイグイッと上半身を倒したら、「ん?ストレッチ?」と不思議そうに首を傾げられてしまった。
「ほら、この体勢がさぁ、なかなかにしんどいからな?」
あほな俺はそう言って、ヤってる最中のポーズを取るようにパカッとM字に開脚すると、光星は俺の言っている意味を分かってくれたようでカッと赤面した。
「ご、…めんね…。」
「ふふっ、いいよ。俺も早く慣れたいだけやから。」
「…永遠くんがやりやすい体位でやってくれればいいからね…。」
「でも光星はこれが一番やりやすそうやん。」
光星と向かい合って座ってやってても結局押し倒されて、最後にはこの姿勢になっていたことを思い出しながら言えば、光星はさらにカァッと顔を赤くしながらまた「ごめんね…。」と謝ってきた。申し訳なさそうなのと、恥ずかしそうにしてるのがちょっとかわいい。
「まあ正常位って言うしな。そういうことやろ。」
「…んん?ふふっ…うん。」
これが基本の体勢ってことだ。
つまり俺が基本に慣れなければならないって話。
俺の言葉に光星は、『どういうことやねん』と言いたげに首を傾げながらも、納得しようとしてくれているのか笑いながら頷いていた。
最初は隣の部屋にいる流星くんに聞こえないようにひそひそ声で話していたけど、次第にその声は大きくなってしまっていたようで、「もしかして永遠さん来てる?」と部屋を覗かれてしまった。
「あっ!流星くんお邪魔してま〜す!今日はお泊まりさせてもらいま〜す!よろしくね〜!」
うわ、あっぶなぁっ…、M字開脚の練習してるところを流星くんに見られそうになり慌てて足を閉じた。
「えっ!やったぁ〜!それじゃあ今から一緒にゲームしましょう!」
「うん、いいよ〜。」
「ゲーム取ってきます!!」
嬉しそうに自分の部屋にゲームを取りに戻っていった流星くんに、光星はちょっと不満そうな表情を浮かべながらも俺の頭をよしよしと撫でながら、「仕方ねえなぁ。」と言ってお兄ちゃんの顔をしている。
その後1階の部屋にある大画面テレビで流星くんとゲームを楽しんでいたら、トン、トン、トン、と誰かの階段を降りてくる足音が聞こえてきた。
そして光星のお兄さんがリビングに現れ、「うおっ…、兄貴居たんだ。」と光星に驚かれている。お兄さんが家にいる事知らなかったのか。
「あっ、お兄さんこんにちは!お邪魔してます!」
ゲームのコントローラーを手に持ち、操作しながらもなんとか頭を下げて挨拶すると、お兄さんはぺこりと頭を下げ返してくれた。
一体何しに部屋から1階に降りてきたのかは不明だが、ソファーに座って静かに俺と流星くんがゲームしている画面を眺めてきた。
「兄貴今日バイトは?」
「休み。…暇だなぁ。」
「さっきまで何してたんだよ。」
「…寝てた。」
「寝すぎだろ。もう昼だぞ。」
呆れたような光星の声が聞こえてきて、ゲームを止めてお兄さんの方を見ると眠そうに大きなあくびをしていらっしゃる。
「お兄さん眠そ〜。」
かっこいいのに少々だらしない姿を見せているマイペースなお兄さんを見て笑っていたら、何故かジッとお兄さんに見つめられてしまった。
「…はぁ。」
ええっ!?今度は溜め息吐かれたぞ!?
何かあかんこと言ったかな!?とギョッとしながらお兄さんを見ていると、お兄さんは突然何も言わずに項垂れた。
「ど、…どうかしましたか?」
「…永遠くんかわいいね。頭撫でていい?」
「おい、やめろよ。」
「えぇっ…?」
突然の落胆からの『頭撫でていい?』が謎過ぎて困惑していると、俺の頭に向かって伸びてきたお兄さんの手を光星がはたき落とした。
「兄貴永遠くんのお姉さんに彼氏できたのいまだに引きずってるんだよ。」
「えっ!?」
お兄さん姉ちゃんのこと好きやったん!?
ぺらっと光星の口から聞かされた言葉に驚いていたら、お兄さんは「話しやすい子だったんだけどなぁ…。」と本気で落ち込んでいる。ボソッと「かわいいし…。」ともぼやいており、姉が聞いたら大喜びしそうだ。
「あ、今のお姉さんにはシーッで。」
「う、うん…分かった。」
「…永遠くんお腹減らない?暇だし、これから一緒にご飯でも食べに行こうか…。」
「おい、なんでお姉さんは誘えないくせにしれっと永遠くんには声かけれんだよ。」
「…だって永遠くんは男の子だから。」
女の子の扱いは苦手なのかな。
ボソボソと話すお兄さんは光星にずっと横からガミガミと突っ込まれているけど、ご飯に行くのは大賛成なので「俺もお腹減ったんで今からみんなで食べに行きませんか?」って提案した。
「天丼食べたい…。」
よっぽどお腹が減っていたのか、お兄さんからはそんな言葉が返ってきて、さすさすとお腹をさすっている。
「俺は海鮮丼。」
続けて流星くんがそう口を挟み、みんな食べたいものがバラバラのようなのでお兄さんが車を運転してフードコートがある商業施設まで連れて行ってくれることになった。
「すごい!免許もう持ってはるんですね!!」
「うん、これは大学生になってすぐ取った。」
「俺もそうしよ!!」
光星の家の車に乗せてもらうと、普段はぽやっとしてそうなお兄さんが意外にもしっかり左右を確認して慣れた感じで運転されている。
「すごい!運転結構慣れてはります!?」
「兄貴公共の乗り物嫌いすぎて学校も車で行ってる時あるからな。」
「おぉ…!そうなんや!かっこいい…!」
「ほんとは車通学ダメなんだよ、でもこっそり近くのコインパーキングに止めてるんだって。」
「おぉぉ…!!」
お兄さん意外と悪いことするやん!って、ポヤポヤお兄さんのイメージが見た目通りのイケイケお兄さんに変わった瞬間だった。
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