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「ん?そういやあの子は今何してるんや?」

「光星くん来たし部屋で喋ってるんちゃう?」

「ふぅん、そりゃ良かったなぁ。光星くん居てくれてたらあの子機嫌良いしな。この前も光星くんの前で上機嫌でたこ焼き作ってたわ。」


永菜との会話が止まらずお母さんがベラベラと永遠の話をしていると、丁度そのタイミングで部屋から出てきた永遠がじろっと怖い顔をしてお母さんを睨んでいた。


『あっやべっ!』と言いたげなふざけた顔をして手で口を押さえるお母さんに、「俺がなんやて!?」と永遠はさっそくドスのきいたキレ口調で話しかける。


「ごめん、なんでもない。」

「てかお母さんなんでまだ居んねん!今日出かけるって言ってたやろ!!」

「え?明日って言ったやん。この後クラスメイトたこ焼き作りに来るんやろ?私も手伝ってあげるわ。」

「いらんわ!!姉ちゃんかお母さんどっちかでいいわ!」

「え?ほな俺らデート行けるやん。」


永遠の発言を聞き咄嗟に口を挟んだ俺に、お母さんがまたシュッシュと手を払うような動きを見せながらにやにやした顔で「行ってき行ってき」と促してきた。

しかし永菜は「え〜」と嫌そうな声を出し、椅子の背凭れに引っ掛けていたエプロンを付け出して「私がたこ焼き監修しな誰が監修すんねん」と言い始める。料理が得意な永菜ちゃんは多分たこ焼き作りに参加したいのだ。


「監修は俺や!!」


そんな永菜の発言にすかさず永遠がそう突っ込み、浅見がクスクスと笑っている。わりとキツめの口調で話しているがそれでも浅見は“かわいいもの”を見るようににこにこした表情で永遠に視線を向けている。

お母さん、おたくの息子さん、このイケメンにむっちゃメロメロに愛されてまっせ。

そんな事を言ったらこのお母さんは、『まあ〜〜〜!』なんて反応をしてシュッシュシュッシュと手を動かしながらにやにやした顔をするんだろうなぁ。…って、散々人のお母さんで失礼なことを考えているが、自分のお母さんなんてもっとコテコテのコッテリ関西おばちゃんだからこれ以上人のお母さんで失礼なことを考えるのはやめておこう。


賑やかにお母さんを交えて話していたらあっという間に時間が過ぎて行き、10時半を過ぎると「あっ!もうこんな時間やん!クラスメイト駅に迎えに行かな!」と言って永遠は浅見を連れて家を出て行った。


エプロンをつけてやる気満々の永菜は、テーブルの上にたこ焼き器を出し、小麦粉や計り、ボウルやお玉を並べて準備している。きっと永遠は永菜をパシるために家に居てもらったに違いない。クソぉ…。貴重な俺の休日が…。


お母さんはやる事があるのかその場を離れたから、ほんの少しの時間だが永菜と二人きりになれた空間で俺は永菜の手を握った。


「永菜ちゃん会いたかった。」

「私もやで。次は休みいつなん?」

「分からん、また分かったら言うな。」

「うん、待ってるな。どっかデート行こっか。」

「行こ。どこ行きたい?」

「遊園地とかいいなぁ、どっか楽しいとこ行きたい!」

「ええやん、行こ行こ。」


永菜とやっと二人きりになれて、そんなデートの予定を立てたりして話していたのに、数十分で永遠が賑やかにぞろぞろとクラスメイトを連れて家に帰ってきてしまった。

玄関で数人の「お邪魔しまーす!」と言う声が聞こえてくると、玄関にすっ飛んでいった永菜が「こんにちは〜!」と愛想の良い声で挨拶している。その愛想の良い態度やめてくれ。俺以外の男にはできれば素っ気なくしてほしい。

しかし芽依とは違い、永菜の態度は誰に対しても礼儀としての態度だからとてもそんな俺の気持ちは口には出せない。


そして案の定、にこにこかわいい顔を見せているだろう永菜を見て「えっ!?片桐くんのお姉さん!?妹さん!?」という興奮気味な男の声が聞こえてきた。


「姉ちゃんやで。俺のがお兄ちゃんに見える?」

「言われなければどっちかわかんなかった!」

「えへ。」


永遠のクラスメイトから言われた言葉にそんな永菜の照れた声が聞こえてきて、俺は無意識にガクガクガクガクと貧乏揺すりをする。


その後すぐゾロゾロとこっちに向かって歩いてきた永遠たちだが、永遠のクラスメイトは俺を見て露骨に固まった。

浅見を除きクラスメイトの人数は4人。全員名前も知らない、俺とは関わりもない人たちで、俺の姿を見て困惑している。


「あ、そこに座ってる人は無視しといてくれていいからな。侑里ちょっとそっち行っといて。」

「なんで!?」

「たこ焼き作る練習すんのに邪魔やろ、あっちで光星と遊んどいて。」


そう言ってリビングのテレビをつける永遠に、俺と浅見は向こうの部屋へ促されてしまった。


「びっくりしたな、香月くんいると思わなかった。」

「うん、びっくりした。」

「片桐くんのお姉さんめちゃくちゃ可愛いですね。彼氏いるんですか?」

「俺や!!!!!」

「うわっ!!びっくりした!!」


さっそく永菜に余計なことを聞いている永遠のクラスメイトにすかさず口を挟んだら、この場にいる全員にビクッと驚かせてしまった。


「えっ…、そっ、そそ、そうだったんだ…。」


それ以降、永菜に余計な絡みをする者は居ない。分かれば良いんだ、分かればな。


今日はたこ焼き作りに自信が無い調理係の人たちが集まっているらしく、彼らは雑談を終えるとさっそく真剣にたこ焼きを作り始めた。


俺はリビングにあった座椅子に座り、だらんとしながら浅見と話したりテレビを見たりしていたが、浅見は俺と会話しながらもずっと永遠の方に視線を向けている。


「浅見、旅行やばかったらしいな。」

「え…?やばかった…?」

「永遠が言ってたで。どうやったん?したんやろ?」


賑やかなテーブルの方にはどうせ聞こえないだろうから、と小声で浅見にそんな話を持ち出してみたら、浅見の顔は一瞬で赤面した。


「永遠かわいかった?」


俺の問いかけに、浅見は俺の方にチラッと横目を向けながらコクリコクリと頷く。そして焦るような態度で口パクで『やばいやばいやばい』と言いながら首を振ってきた。


「ん?やばい?何が?」

「あんまり思い出さないようにしてるからその話題やめて。」

「あ、そうなん?ごめん。」


……あ、なんかほんまにごめん。

その後浅見は股間を痛そうにしてイーッて怒った顔俺に向けてきた。イーッて怒りながら、ジーパンのチャックをジジジ…とさりげなく開けている。


「ふふっ…、おもろ。浅見いっつもクールやのにそんなお前見たん初めてやわ。」


浅見を見ながらそう話しかけるが、浅見はそっと股間に触れてチンポジを変えるのに必死なのか全然俺の話は聞いてもらえていなかった。


口を手で押さえて「クックック…」と笑いが止まらなくなっていたら、今度はジジジとチャックを閉めながら浅見にじろっと睨みつけられる。


…こんな浅見は見たことないなぁ。

まだ仲良くなったばかりだから当たり前だけど、俺もまだまだ浅見の知らん顔いっぱいあるなぁ…。って、さっき永遠がいろいろ言っていたことを俺もなんとなくだけど少し納得した。


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