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8月に入ってから部活の練習や試合が続き、さらには合宿まであったため永菜に全然会えない日が続いていた。
永菜は俺に気を遣ってくれているのか全然雑談のような連絡は来ないけど、毎日欠かさず朝は【 おはよう 】【 練習頑張って 】、夜は【 おつかれ 】【 おやすみ 】と淡白な文ではあるものの送ってきてくれるのが嬉しい。
永菜は嫌がるだろうから、こっそり永遠に永菜の写真頂戴ってお願いしたら、風呂上がりのどすっぴんに濡れた頭でジュース飲んでる写真が送られてきたから、【 それはあかんやろ 】って返しながらも保存する。多分時間的に考えても俺が頂戴と言った直後に撮ってくれた写真だったんだろうな。永菜には絶対に言えない俺と永遠の内緒のやりとりだ。
4泊5日のハードな合宿が終わると久しぶりに休みを貰えたため、勿論永菜に会おうと連絡するが、その日に限って【 永遠のクラスの人らとたこ焼き作んねん 】という謎の予定を入れられていた。
は!?“永遠のクラスの人ら”!?なんで永菜が一緒に作らなあかんねん。デートしたかったのに。
不満に思いながら永遠に【 なんで永菜が永遠のクラスの人らとたこ焼き作るん? 】って聞いてみたら、たこ焼きづくりに燃えているらしい永遠からは【 姉ちゃんにも意見もらいたいから 】という返事がきた。永菜の弟で、俺の友人でもある永遠がそういうなら仕方がない。俺は永遠には『永菜ちゃん譲ってくれ』とは言えない弱い立場にいる彼氏であった。
続けて【 侑里も来たら? 】っていうラインが来たけど、言われなくても最初からそのつもりだ。だってその日を逃したら次はいつ会えるのか分からないのだから。
久しぶりの休日だったその日は朝食を食べた後さっさと寮を出て、9時過ぎに片桐家のピンポンを鳴らすと、今起きたばかりなのかまだ髪には寝癖がついている永遠に扉を開けてもらったが、「なんや侑里かいな」ってシャツの中に手を突っ込んでぽりぽり腹を掻きながらめちゃくちゃ不満そうに言われてしまった。
「俺やったらあかんのか!?」
「光星やと思ったから開けに来たのに。」
「俺やったらあかんのか!?」
「うるさいうるさい、姉ちゃんやったら部屋に居るし勝手に上がって。」
永遠はそう言って洗面所に入っていった。『勝手に上がって』って…いいんか?
少し躊躇いながらもトントン、と永菜の部屋の扉をノックし、「永菜ちゃん?」って呼び掛けたら、「えっもう来たん!?」と驚かれている。『もう』って、そんなに早かったか?
練習試合の日は7時起き、合宿の時はいつも6時起き、9時にはすでに練習を始めている時間だったから自分の感覚がおかしくなってるのだろうか。
「うん、もう来た。開けるで?」
「えぇっ!?ちょっと待って!?まだあかん!!あぁっ!?」
永菜はそう言ってるのに俺がさっさとガチャ、と扉を開けてしまったから、部屋の中でパジャマのズボンを脱いでパンツ姿になっている永菜とご対面してしまった。
「……ごめんなさい。」
慌てて扉を閉めたが、部屋の中で怒り狂っている永菜が「もー!!」と扉に向かってなにか投げつけている。ごめんなさい。
反省しながら部屋の前で突っ立っていたら、洗面所から出てきた永遠に「なにしてんねん」と冷めた目を向けられてしまった。
「扉開けたら永菜ちゃん着替えてた。」
「ノックしろよ。」
「…ノックはした。」
「あほやん、ノックの意味ないやん。」
「うん。せやな…あほでした。」
しばらくすると勢い良く扉が開き、大声で永菜ちゃんから「侑里のあほぉっ!!!」と怒鳴られてしまった。ごもっともです、すみませんでした。
久しぶりに会えたというのに合わせる顔がなく、自分の部屋に入って行った永遠の後を追いしれっと部屋に入らせてもらった。
永遠はベッドに寝転んでスマホをいじっていたから、声を掛けながら永遠のスマホを覗き込む。
「永遠ちゃんなにしてるん〜?」
「うわぁぁ!お前やめろよ、ぞぞっとしたわ!」
「なんでやねん。」
俺もベッドの上に乗り、永遠の肩に腕を回して永遠に絡むがじたばた暴れられ、蹴落とされてしまった。扱いひどない?永遠とも久しぶりに会えたのに。
「俺のベッドに乗っていいのは光星くんだけやで。」
「うわ、なにそれえっろ。もしかしてこのベッドでヤったん?」
「やってへんわ!!」
「あ、そういや旅行行ってきたんやろ?旅行ではヤった?」
「それはやった。」
……やったんや。
真顔でサラッと答えた永遠に、まさかそんなにサラッと返されるとは思わなくて自分から聞いたくせに何も言えなくなっていたら、永遠の方から「旅行やばかってんけど」とボソボソと低い声で話しかけてきた。
「なにがやばかったん?」
「光星くん。」
「どうやばかったん?」
「めっちゃ雄。」
「オス?」
その話俺聞いちゃって良いのか?と思うくらい、永遠がボソボソと話してくる。でも誰かに話したかったのか、「うかうかしてたらすぐ犯されそう」とコソコソと話を続けてきた。
「そうなん?」
「俺ちょっと怖なってきたわ…」
「どう怖いん?」
「ヤりたそうにしてる時めっちゃギラギラした目で見られてすぐ分かんねん…。」
「ギラギラって…どんな目や…。」
ていうかお前らほんまにしたん?って気になってしまい、「まじでしたん?」って確認すると、永遠は俺の目をジッと見つめてコクリと頷いた。
「うっかり姉ちゃんに口滑らせんといてな。」
「分かってるわ。」
そんな話永菜にするわけない。二人が付き合ってる、っていうこともうっかり口を滑らさないように気を付けているくらいなのに、下ネタなんて話すわけがない。
「俺光星くんのことまだまだ全然知らんこといっぱいやわ…。」
「そりゃまだ出会って半年も経ってへんからなぁ。」
「んー…。俺ってそんなにかわいいん…?」
永遠は突然自分の頬を両手で挟みながら、小首を傾げて顰め面で聞いてきた。
「なんやねんいきなり。永遠はかわいいぞ?浅見にかわいいかわいい言われてるやろ?」
「ちゃうねん…、光星ずっと言ってくるから…。気付いた時にはずっと顔ガン見されてるし、もうずーっと見つめてくるから…。」
「ほんまに好きなんやなぁ、永遠のこと。」
え?なに?俺惚気話聞かされてんの?勘弁して、俺だって永菜とやりたいの我慢してんねん。
しかしその後、単なる惚気かと思ったが永遠は結構真剣な顔をして、「次する時までにもうちょっと腹筋つけたいねんけどなんか良いトレーニングある?」って聞いてくる。
「腹筋?べつに無くていいやん。永遠に腹筋似合わんで?」
「いや、べつにムキムキになりたいわけじゃなくて、アレに耐えられる体幹が欲しいだけ。俺の身体は軟弱すぎる。」
「アレってどれやねん。何回もしてたらそのうちよく使ってる筋肉は鍛えられてくると思うけど?」
「…んん、やっぱ慣れなんか。」
「…んん?まあせやなぁ。」
え?ほんまにアレってどれ?
気になったけど永遠はそれ以上はもう何も言わなかったし、俺もわざわざ生々しいことを聞くのはやめた。
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