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「シンプルにチーズだけ入れてソースで食べるのが俺の中で一番最強。まんまるチーズ焼きって名前付けて売るんはどうや?」


たこ焼き器の中に生地を流し、そこにピザ用チーズを入れながら提案する永遠くん。凄く良いと思います。「うんうん、いいな」って頷くと嬉しそうな笑みを見せてくれる。…かわいいなぁ。


しばらくすると生地は固まり始めており、「いくで?」と俺に一声かけてから永遠くんは高速でたこ焼きをくるくるとひっくり返し始めた。


「見て!俺めっちゃ綺麗に焼けるようになったやろ?」

「おぉ〜、上手い上手い。」


つるりと綺麗に焼けているたこ焼きを見て、またパチパチと拍手していたら、やっぱり永遠くんのお母さんにこっちを見ながら笑われていた。


「はい、お母さんまんまるチーズ焼きできたで。食べるやろ?」

「私も食べてええの?」

「うん、次ウインナー入れて焼くし。」

「納豆とかも入れてみたらどうや?」

「…えぇ、…納豆はええわ。」


反抗的な態度は取るけど仲はそんなに悪くないのか、お母さんに焼きたてのたこ焼きを差し出す永遠くんにお母さんはそんな提案をしながら機嫌良さそうにされていた。これが、片桐親子の日常会話なのだろう。



お昼にたっぷりたこ焼き作りの練習をして、お腹が膨れると、また部屋に戻りごろんとベッドに寝転ぶ永遠くん。「牛になる〜」と言いながらお腹を撫でているが、そんな姿も勿論かわいい。


「あ〜そうや、夏休みの宿題はよしてしまわなあかんなぁ。」

「あ〜…そうだなぁ。」

「宿題めっちゃ多いよな?特進だけ?」

「うん、多分。夏休み中授業が無い分宿題ちゃんとやっとかないと休み明けがキツいんだよな。それで授業ついていけなくなって特進辞めたがる人結構居るし。」

「ふぅん、そうなんや。ほな明日からちゃんとやり始めよ。」


永遠くんはそう言いながらベッドから起き上がり、勉強机の椅子に座って机の上に置いてあった宿題の束をぺらぺらと捲り始めた。


…そうだよな、お互い勉強もしなくちゃいけないし、いつまでも浮かれ気分で過ごすわけにはいかない。うつつを抜かして成績を落としたらシャレにならない。

今日は俺が会いに来ちゃったからできなかったけど、ほんとは宿題やりたかったかも。そう考えたら、いくら永遠くんに会いたくても我慢するべきだったなぁ…と俺はひっそり反省した。


「早いこと宿題終わらせてしまって、終わったらいっぱい遊ぼか。」


永遠くんは手に持っていた宿題を机の上に戻し、そう言いながら俺ににこっと笑みを向けてくれた。


「うん、じゃあ俺も頑張るわ。」


ちゃんと宿題が終わったあとなら、永遠くんも思う存分俺に会ってくれるだろう。そう期待して、明日から真面目に宿題に取り掛かろうと意気込んだ。



翌日から有言実行するために午前中から机に向かい、宿題に励む。分からない問題を飛ばし飛ばし解き、定期的に行われる補講に参加して聞きに行こうと思う。…永遠くんは聞く必要無いんだろうなぁ。

あんなにかわいいのに俺より頭バリバリ良いのはちょっと反則だと思う。学力は負けまくってるけどそれでも永遠くんに少しでも追いつきたくて、永遠くんに会えない時間はひたすら勉強を頑張った。


次に永遠くんに会えたのは文化祭準備のためにクラスで集まった時だった。調理係の人たちが家にあるたこ焼き器をわざわざ持ってきてくれている永遠くんを中心に取り囲み、試作品を作るための買い出しの話し合いをしている。

俺もそっちに混じりたかったけど、残りの人たちで立て看板や衣装、小道具の準備をしなければいけなかったため、泣く泣く永遠くんとは分かれて俺はクラスメイト数人で絵の具や画用紙の買い出しに出掛けた。


暑過ぎる外を歩きながら近場の文房具屋へ向かっていると、普段はあまりよく話さないクラスメイトから「浅見と片桐くんって付き合ってるの?」と聞かれてしまった。


「え…、いや…。」

「あ、ごめん。別に言いふらす気とかは全然なくて、片桐くんも浅見のこと好きそうだから。」


正直には答えられず困っていたら、特に他意は無さそうにそう言われ、思わず“照れ”が顔に出てしまいそうだ。というか俺が永遠くんを好きなのはもう断定されてるな。分かってたけど。


それでも正直に答えるのはやっぱり躊躇い、「そう見える?」って聞き返したら、クラスメイトからははっきりと「うん、見える。」と返された。…嬉しいなあ。


「あ、そういや夏休み前に普通科でも片桐くんのこと可愛いって言ってる奴居たよ。」

「まじ?」

「あ、いるいる。文化祭実行委員の会議の時に片桐くんが喋ってるところ見て興味持ったっぽいよ。普通科の友達が言ってた。」

「まじか。」


横から会話に加わってきたクラスメイトの話を聞き、どんより嫌な気分になる。俺の永遠くんなのに…って、独占欲がどんどん溢れる。


「…永遠くん俺のなんだけどな。」


ついその独占欲の所為で我慢できずにそんな言葉が漏れてしまうと、「やっぱ付き合ってんじゃん」と笑いながら言われてしまった。


「…うん、…まあ、…実は…。」

「いつから?」

「球技大会あたり…?」

「まじか!もうそんな頃から!?」

「…あ、一応永遠くんには話しちゃったこと内緒にしてください…。」

「うん分かった、言わないから安心して。」


べつにほんとに言いふらしそうな奴でも無く、俺の頼みに笑顔で頷いてくれたクラスメイトに、その後も永遠くんとのことを少し惚気ながら買い出しを続けた。


「顔がタイプで笑ってたらすげーかわいくて…」なんて何度も口にしてしまう俺に、クラスメイトからうんうんと頷きながら笑われる。自分でも引くくらい、永遠くんの顔が好きすぎる…。


「浅見くんが片桐くんの顔に惚れたのは有名だよ。」

「えぇっ…。」

「転校初日に一目惚れしたんだっけ?」

「…なんで俺のことそこまで知られてんの。」

「みんな知ってるよ。」

「…まじかよ。」


普段クラスメイトとの関わりが少なすぎる俺はその日、クラスメイトみんなが実は俺の気持ちを知っていたということを聞かされてしまい、今更もう遅いのに恥ずかしすぎてたまらなかった。


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