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翌朝、目を覚ましたら俺の身体に腕を回して光星くんが眠っていた。昨日は光星の方が早かったけど今日は俺が早く起きすぎたのか光星が起きるの遅いのか、でもカーテンの隙間から差し込む朝日はもう眩しいくらいだったからきっと光星が起きるの遅かったんだ。
布団の中でもぞっと動いたら光星を起こしてしまい、「ん、…おはよう」と掠れた声で朝の挨拶してくれる光星がちょっと色っぽい。
「おはよう、寝顔も素敵やったで。」
光星の髪を撫でながら褒めたら照れ隠しに俺を抱き寄せて顔を隠してきた。純情光星くんはもういないけど、照れ屋なのは健在だ。
さっさと朝食を食べてしまってから部屋で寛いでいたら、今日も郁馬から連絡がくる。
【 今から永遠に会いたがってる奴らそっち連れてくわ 】
郁馬からそんなラインを貰い、「え?誰来るん?」とスマホ片手に固まっていたら、俺のスマホを覗き込んできた光星がその流れでチュッとキスしてきた。
「よかったな。」
にこりと優しく微笑まれるが、『今は俺との時間だから』と言いたげに身体を引き寄せられ、俺を抱きしめながら何度も繰り返しキスしてきた。チュッ、と触れ合ったと思ったらまたすぐにチュッ、と光星の唇が俺の唇に吸い付いてきて官能的だ。それも、俺の身体を弄るような触り方をされ身体がぞわぞわしてきてしまった。こんな朝っぱらからえっちな気分にさせられるのはちょっと勘弁してほしい。
「待って待って!朝からやめて?」
むぎゅっと光星の口を手で塞ぎながらキスをストップさせたら、光星は俺の目をジッと見つめながら動きを止めてくれる。
「光星えっちしてから触り方がなんか大胆になったなぁ。」
そう話しながらそろりと光星の口から手を離し、光星から距離を取って、俺の視界に入った乱れていた布団をなんとなく気分で畳んでいたら、じーっと光星がそんな俺を目で追ってくる気配がする。
「そろそろホテル出る?」
光星が何も喋らなくなったからそう声をかけたら、光星は静かにコクリと頷いた。なんなん?急に静かになって。途中でキス止めたからテンション下がった?
チラッと横目に光星の様子を窺っていたら目が合って、光星はボソッと「ごめんね」と謝ってきた。
「ん?なにが?」
「…永遠くんがほんとにかわいかったから…。」
「ふふっ…そうなん?ありがとう。」
俺がかわいいから朝からキスしまくってごめんって?べつにそこまで怒ってないのに、光星が何故かめちゃくちゃ反省してるみたいな態度を見せてくるから、そんな光星が面白くて笑っていたら、光星はホッとしたように息を吐いていた。
怒られたと思ったのかな?全然怒ってないから安心して、っていう気持ちを込めて、一度だけ俺からキスをしてから部屋を出た。
チェックアウトをした後光星を連れて郁馬との待ち合わせ場所に行ったら、そこには数人の男女の友達が俺を待ってくれていた。
「あー!!永遠来た!!久しぶり!!」
「永遠くんやぁ!!久しぶりー!!」
「えっ!?この人が郁馬が言ってた永遠くんの新しい友達!?かっこいい〜!!」
「永遠元気にしてたか!?新しい学校どうや!?」
こっちに居た時の友達に一気に話しかけられて、「久しぶり、元気やったよ」って返事をしながら再開を喜んでいたら、笑顔で俺の横に立っていた光星も女子の友達にキャーキャーと絡まれている。まあそうなるやろうなぁとは思ってた。だって光星くんバチクソイケメンやもん。
せっかくだから昼ごはんをみんなで食べることになり、俺に会いにきたくせに女友達は光星に興味津々で光星の近くをキープしている。
「あっ!永遠カールちゃんと買って帰れよ?」
「あっそうや、忘れてたわ。ありがとう。」
「関東慣れた?標準語喋ってるん?」
「ううん、普通に喋ってる。向こうで大阪出身の友達ができたからあんまり気にならんようになってしもた。」
「そうなんや、よかったやん!」
「うん!」
そんな現状報告のような話や些細な話をしながら過ごしているうちに、時間はすぐに経ってしまう。なんで楽しい時間ってこうもあっさり過ぎるんだろうな。早くも帰りの新幹線の時刻が迫ってきていてちょっと寂しくなってきた。
泣き虫な郁馬だけどさすがに周りに友達がいる中ではずっと普通の態度を取っていた。でも別れ際にぽんぽんと郁馬の頭に手を置いて「郁馬また会いに来るからな」って声をかけたら、やっぱり涙目になって頷く。
「うわ、郁馬また泣きそうになってるやん。」
「もうお前永遠についてったら?」
「こいつ永遠が転校した直後の病みっぷりえぐかったからな?」
「そうなん?」
「話しかけても『うん』しか言わんし。」
泣きそうになってる郁馬は友達に笑われながらからかわれているが、俺の転校直後の話まで聞いてしまい、俺は少し胸が痛む。
「みんな俺の分まで郁馬にもっと構ってやって。」
「俺らめっちゃ構ってるで?でも永遠が居な寂しい〜てずっと言うてるんやもん。」
「えぇ、も〜困るわぁ。郁馬くんほんまに俺のこと好きやなぁ。寂しいのは分かったけどいつまでもうじうじしてたらあかんで?」
ほんとにほんとの別れ際、郁馬にそう声をかけながらバシッと両手で郁馬の顔を挟んだら、びっくりしてぎゅっと目を閉じる郁馬の顔にみんな笑っていた。
「それじゃあまたな〜!」と手を振りながら、光星と新幹線の改札口を通過する。みんな手を振ってくれていたけど、郁馬はやっぱり寂しそうに俺を見ているだけだった。そんな顔見せられたら、俺まで辛くなってしまうなぁ…。
「永遠くんの友達みんな賑やかだなぁ。」
「光星はやっぱキャーキャー言われるなぁ。」
「俺まで永遠くんの友達の中にお邪魔しちゃったけど普通に話してもらえて楽しかったよ。」
「光星気ぃ遣わせてごめんな?光星のおかげで友達にも会えたし光星とも旅行できてめっちゃ楽しかった。」
新幹線の座席に座って二人で二泊三日の旅行を振り返る。俺が楽しいのは勿論だけど、光星も「俺も楽しかった。また行きたいな。」って言ってくれたから、俺は大満足で旅行を終えた。
家に帰ると旅行バックを持つ手とは逆の手でスーパーの袋いっぱいに詰まったカールを見て姉が呆れた顔をしている。
「おみやげ他になんか買ってへんの?」
「京都のおみやげ何買うねん。」
「八つ橋とかいろいろあるやん。」
「光星は八つ橋買ってたで?」
旅行に行ってきたならお土産くらい買えよ。という目で見てくる姉は俺の話を聞いて「もうええわ…」と去っていこうとしたが、カールの底に一個だけ家族用に買った箱に入ったお菓子があるのを思い出した。
「あっ!これ買ったんやったわ!はい、一個侑里にもあげといて。」
別に京都の名物とかそんなのではなく、普通に美味しそうだったから買ったそのお菓子の箱を姉に差し出すと、「そうそう、こういうのでええねん、こういうので。」って言いながらにっこり笑っていた。どういうのやねん。
姉ちゃんだってお土産とか言ってきたわりにはただお菓子が食べたかっただけやろ。って思いながらも、お土産のお菓子を一個でも買っておいた自分に『グッジョブ』と心の中で褒めてやった。
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