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「なぁ、永遠と光星くん仲良すぎん?」
光星が景色に気を取られ写真を撮っている隙に、ムッと顔を顰めた不機嫌面の郁馬にそう聞かれてしまった。
「うん、仲良いで?」
「俺より仲良くされんの辛い…。」
ちょっと声を震わせながら言われた言葉に、困惑する。
友達の仲の良さを順位付けしたことなんてないし、郁馬と侑里なら間違いなく二人とも同じくらい大切なのに、光星は特別だから郁馬と光星なら光星を選んでしまうのは俺の譲れないことだ。
「だって…、好きなんやもん…。」
周りの音で消えそうなくらい小さな声で言ったけど、郁馬には聞こえていたのかちょっと泣きそうな顔をして黙り込まれてしまった。
言うつもりはなかったのに流れで言ってしまった。気まずい空気が流れていた時、写真を撮り終えた光星が俺たちの近くに戻ってくる。
「すげー綺麗な写真撮れた。」
「おぉ、よかったなぁ。」
写真を見返している光星にそう声をかけながらチラッと郁馬に視線を向けると、郁馬はあからさまに落ち込んだ顔をしてしまい、やっぱり言うべきではなかったかと後悔した。
いつも郁馬に気を遣ってくれていた光星はこの空気にもすぐに察してしまい、スマホ画面を見ながらまた少し俺たちから距離を取り始める。
「…郁馬俺のこと好きすぎやろ。」
暗くなってしまった空気を取り戻したくて、バシッと郁馬の背中を叩きながら言うと、郁馬は涙目になった。
「だってぇっ…永遠とはずっと一緒に居れると思ったのに急に転校するから…っ!」
やっぱり郁馬は、俺のことが好きとかそんなんじゃなくて、…それも少しはあるかもしれないけど、ただずっと一緒に居た友達と急に離れ離れになってしまったから俺のことが恋しくなってしまったんじゃないか?
「あぁも〜、郁馬ごめんな?…寂しかったんやんな?ごめんな?郁馬の気持ち全然考えてやれんで光星の話とかいっぱいしてしまってたな。でもまたすぐに会えるから。俺らの仲やん、いつでも会いに来るやんか。」
郁馬は寂しがってくれてるのに、俺が光星光星って言ってたから。俺は全然寂しくない、みたいな態度を見せすぎちゃってたから。
泣きそうになってる郁馬の頭を抱き寄せてぐしゃぐしゃと撫でたら、郁馬はズズッと鼻を啜っている。ほんまに泣いた?泣き虫やなぁ。
ぽんぽん、と頭を叩いて、ジッと10センチほどの距離で郁馬の目を見つめたら、潤んだ郁馬の目とかち合う。
「な?俺も郁馬のこと好きやで?せやからもう泣かんといて?」
『友達として』だけど、その気持ちに嘘はなく、そう言いながらぐしゃぐしゃと髪をまた撫でていたら、郁馬は無言でジッと俺を見つめてきた。
そしてその顔面は、気付いた時には俺の目と鼻の先にまで近付いている。まさか郁馬からキスされるなんて思わず油断していた俺は、その直後『チュッ』と郁馬に唇を重ねられてしまった。
「はっ!?!?お前それはあかんわ!!!」
咄嗟に郁馬の頬をビンタしながら身体を突き放したら、郁馬は悪びれる様子なくへらへらと笑いながらペロッと舌を出してきた。
「よっしゃ〜永遠の初キス奪ったった。」
「は?俺全然初めてちゃうねんけど。」
「…ぁ?…じゃあいつ誰としたん?」
「さぁ〜?誰やろやなぁ。」
ていうかそういう郁馬こそ初めてやろ。だって郁馬今まで彼女居たことないもん。…あ、そやから俺もキスまだやと思われてるんか。
キスが初めてじゃないと言いつつ、相手を隠す俺に郁馬は「誰?」「誰?」って迫ってきた。
「中学?高校?俺にずっと隠してたん?」
「ちょっ近い近い!そんなん郁馬にいちいち報告するわけないやん!」
「は?ほんまに隠してたん?誰?そういや永遠斉藤さんと仲良かったやろ。」
「なんで斉藤さんが出てくんねん!!」
「あっ、分かった。清水さんや。」
「なんでやねん!!!」
なんでさっき好きって言ったのにキスの相手は光星やと思わへんの?男やから?自分だって俺にキスしてきたくせに。
ひたすら中、高の同級生の女の子を疑ってくる郁馬に否定しながらシッシと振り払っていたら、いつのまにか俺の近くに居た光星の肩にトン、と頭がぶつかった。
そして両手で肩を掴まれ、光星をチラッと見上げると微笑のような、でも苦笑にも見える表情で見下ろされる。
……あ、さてはさっき郁馬にキスされたの見られたかな。でもあれは郁馬のイタズラみたいなようなもんだから怒らないでほしい。
光星が近くに来ると郁馬はもうキスの話をするのはやめて大人しくなり、再び観光を再開する。でもまたこっそり隙を見て『誰?』って聞かれるからめんどくさいことになってしまったな。内緒にされたのが嫌ならやっぱり光星とのことは話すべきなんだろうなぁ。
結局郁馬の俺への“好き”はどういうものなのかはっきり分からないけれど、俺は郁馬とずっと冗談を言い合ったり、ふざけ合えるような友達で居たい。
でも俺にキスするのはもう許されないから、次もしされそうになったら全力で拒否るしぶん殴る。
…まぁ、さすがにもうしてこないかな。
その後、なんだかんだでのんびり三人で嵐山観光を楽しんだ俺は、また夕方になると郁馬と別れ、コンビニで夕飯を買ってからホテルの部屋に戻ってきた。時間的にはまだまだ観光できそうだったけど、疲れたからもう早くホテルでゆっくり寛ぎたかった。
ぐったりベッドの上に寝そべる俺を見て、光星はふっと笑ってくる。
「疲れたな。」
「うん、疲れたな。」
「お風呂お湯溜めようか?」
「うん、溜めて。」
優しい優しい光星くんは、俺が頷くとバスルームへ行ってお湯を溜めに行ってくれた。
今日はもうえっちなことする元気はないけど、お風呂はゆっくり二人で一緒に入ってもいいな。
「永遠くんお湯溜まったよ。」
数分後、またベッドの上でゴロゴロしていた俺にそう報告してくれる光星の声を聞き、ベッドから起き上がった。
「はーい、ありがとう。一緒に入る?」
「うん。入ろ。」
笑顔で即答してきた光星に、通りで自ら進んでお湯を溜めてくれたわけだ、と光星の考えている気持ちを察する。『一緒に入りたい』って言ってくれたら入るのに光星くんは相変わらず控えめな人だ。しかしえっちの時は除く。
二人でバスルームへ行き、俺が入った後から光星が浴槽に入ってくると、ザパァと少し溢れるくらいのお湯が肩に届く。あったかくて気持ち良い湯船の中で、光星は俺を抱き寄せ、浴槽に凭れ掛かった。
「はぁ〜、落ち着くなぁ。」
「ちんちん当たってるで。」
「無視してください…。」
光星はちょっと恥ずかしそうにしながらもそれが当たったままチュッと俺にキスしてきた。良いポジションで寛ぐために身体をずらして光星の太腿に座って抱きついたら、光星のちんちんはあんまり気にならなくなった。
「永遠くん郁馬くんにキスされただろ。」
「あ、やっぱ見てたんや。」
「見てたよ。ずっと様子は窺ってたし。」
光星はちょっと唇をムッとさせながらおしおきするように俺の乳首を摘んで引っ張ってきた。光星にしては珍しいいじわるだ。
「やめてください。乳首伸びる。」
「いくら仲良い友達とは言え、キスするのはダメだよなぁ?」
「うん、そうやなぁ。」
実は結構頭にきているのか、光星が静かにキレているように見える。その証拠に俺へのいじわるが止まらない。乳首をぐりぐりいじってきた後、俺の腰に回されていた手が股間にも伸ばされ、もみもみと揉まれてしまった。…あっ…ちょっときもちぃ…。
「郁馬くん多分俺に見せつけてきたな。」
「え、そうなん?」
「だってべーって舌出しながら俺の方見てたし。」
「…うわ、あいつ…。」
「郁馬くん可哀想ー、初キスどころか永遠くん俺ともうえっちもしちゃってんのになぁー。」
光星はそう言って、俺の顎を掴んでチュッ、チュッ、と何度も繰り返しキスをして、舌までいれてきた。黒い黒い黒い黒い黒い…っ!光星さんから漂うオーラがなんか黒いっ…!!これは絶対郁馬にキレてる。
「…かわいかったなぁ。またしようね。」
チュッ、チュ、と俺の頬にもキスしながら、その流れで俺をえっちに誘うように囁かれ、俺はまた新たな光星の一面を見た気がする。キスで赤面するような純情な光星は残念ながらもういないのかもしれない。
郁馬に俺がキスされて怒ってるからこんなドス黒いオーラ出してるのか?それともこの人、全裸になると人格変わったりするのか?
パクッと俺の耳まで甘噛みしてきて、さらに首筋も舐めてきた光星にチラッと目を向けると、ほんとにまたやりたそうにギラギラした目でジッと見つめられていた。
…うん。これは多分郁馬が原因じゃなくて全裸が原因や。全裸でくっついてるのがよろしくないんやわ。
「そろそろのぼせてきたし出るわ。」
「え?もう?」
光星と全裸でくっついていたらほんとにこのまま犯されそうな気がしてしまい、さっさと浴槽から出ようとしたけど、「もう少しだけゆっくりしようよ」と身体をぎゅっとホールドされ、しばらく湯船から出られなかった。
ゆっくりしようよ、とか言いながら俺にゆっくりさせる気なんてあるのか、光星が俺に何度もキスしてきたから、まじでのぼせてクラクラしそう。
光星くんキスのしすぎで確実にキスが上手くなってる。このままじゃまんまとえっちな気分にさせられてしまう…と、光星の身体にぐったりしてのぼせてるフリしたら、優しい優しい光星くんは俺を抱えて湯船から上がってくれた。よし、作戦成功だ。
その後それぞれシャワーを浴び、ご飯を食べたらすぐにうとうと眠気がやってくる。旅行二日目の夜で疲れも溜まっていて、二人でベッドに入ったら俺はすぐに眠りに就いた。光星がいつ寝たかは知らないけどなんとなく寝顔を見られてそう。
バレてないと思ってそうだけど、隙あらば光星が俺の顔をガン見していることは知っている。
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